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文化祭では、お化け屋敷を実施するクラスのサポートもオカルト研究部で行った。
お化け屋敷のコンセプトが、学校の七不思議だったので、七不思議についての事前知識パンフレットを作成したのだ。それにより、付け焼き刃でもこの学校の七不思議の特性を理解することで、より怖さを引き立てる演出をしたのである。
ただ、お化け役と愛桜たちの熱量差が凄まじく、愛桜は大丈夫だろうか、と思ったが、まあ、文化祭といえばお化け屋敷というくらいあって、そこそこの行列ができていたため、ほっとした。
やる気のないお化け役に愛桜は思うところがあったが、それはお化け屋敷を担当するクラスの問題であり、オカルト研究部には関わりのないことだ、と樫美夜から割り切り方を教えてもらい、それを意識することで乗り越えた。
オカルト研究部の展示は七不思議のものと都市伝説のものと、様々だ。先日の会話で樫美夜が興味を持ったのか、「桜の木の下には死体が埋まっている」という伝説についてのレポートも追加され、この学校の名物とも言える狂い咲き桜との因果関係についても、多分に憶測を含みながら考察したものとなった。
また、これだけやったのに、何の売り上げもないのは癪、ということで、愛桜が急遽「学校の七不思議栞」なるものを制作し、一枚五十円で売った。
「愛桜クンに絵心があるなんて知らなかったよ」
「特に自慢するような特技でもないですけど、オカ研のために活用できて、私は大満足です」
デフォルメされた可愛らしい七不思議の擬人化が人気を呼び、用意した十四種×五十枚は綺麗に売れた。
まあ、オカルト研究部には喋らなければただのイケメンな樫美夜という立派な広告塔が存在する。眼鏡をかけた胡散臭い部活の野郎なんざ冴えない輩だという常識を覆す男だ。面白いほどに売れた。
お化け屋敷もそこそこ好評だったようで、クラスから、オカルト研究部へ感謝の書状があった。愛桜は樫美夜に読むよう勧められたが、断固として読まなかった。
どうせその場限りの薄っぺらなぺらっぺらの文言を書き連ねているだけだ、見る価値もない、と愛桜は考えていた。オカルト研究部に感謝するのなら、そのクラスに跋扈しているオカルト研究部所属の幽霊部員共が、部活に参加するようになって然るべきなのだ。現実は見ての通り、視聴覚室にはいつもの二人しか存在しない。
薄っぺらな社交辞令より、廃部の危機にあることの手助けをしてほしい。せっかく部活目的で入学したのに、一年で廃部とか、不完全燃焼も甚だしいのだ。愛桜の怒りは募るばかりである。
愛桜の元彼(笑)Bも部活に来る様子はない。幽霊部員の帰宅部を貫くつもりのようだ。退部届けが出されたという話を顧問から聞くことはなかった。
「幽霊部員としてオカ研に住み着くくらいなら、いっそのこと『幽霊部』とか『帰宅部』とか正々堂々新しい部活を作りゃいいんですよ。帰宅部目的の幽霊部員のせいで廃部の危機っていう割を食うの、私たちだけなんですからね」
そう、幽霊部員たちは、寄生先のオカルト研究部がなくなろうと、痛くも痒くもないのである。「オカルト研究部に所属する幽霊部員です」というふざけた自己紹介でウケを狙っているだけなのだ。オカルト研究部が潰れれば、その文句が「オカルト研究部が潰れたけどまだ幽霊部員やってます」に変わるだけ。そんなしょーもないネタがウケるのが高校生というもので、そんなしょーもないネタのためにオカルト研究部は浪費されるのだ。
本当にオカルトが好きで部活動をしている愛桜からすれば、たまったものではない。
「っていうか、私や先輩がこんな情熱的に活動してるのに、廃部の危機はまだ去らないんですかー?」
「うーむ、どうもそのようだ」
樫美夜は顧問から渡された文書に目を通しながら、悩ましげに顎に手を当てる。
「僕だけが活動しているのなら、僕は来年三年で、進学等で忙しくなるから廃部でも良かったんだがね、やはり愛桜クンのような真のオカルターが入部してくれたからには、我が部が消滅するのは惜しまれるのだよ」
どうやら、樫美夜は来年に取り残される愛桜のために、廃部を免れようと策を練ってくれているらしい。そんな樫美夜には好感が持てた。それが愛桜の中で恋愛に転じることはないけれど。
「後輩思いのいい先輩を持って、私は幸せですよ。ちなみに、どんな策があるんです?」
愛桜が訊ねると、樫美夜はタブレットを起動し、とあるサイトを開く。
そのサイトはかなりポップな仕上がりで、「○○甲子園」の文字が入りやすさを際立たせていた。
が、何の甲子園かというと「オカルト甲子園」というなかなかにニッチなものであった。
「甲子園とは書いてあるが、夏が募集開始なだけで、エントリー期日は十一月までとなっている」
「良心的ー」
まだまだオカルトの深掘りを存分にする期間が残されているというわけだ。
深掘りするテーマを今から決めても全然間に合う。しかも、提出レポートのクオリティ次第では受賞も狙えるという。
「やっぱり、他の部と同じで何らかの賞を取るっていうのはわかりやすい実績に繋がりますもんね。オカ研がオカ研の活動で表彰台に立つ……前代未聞で教師陣の目ん玉引っくり返せますよ!」
「表現それでいいのかね……?」
目ん玉を引っくり返すというのはなかなか猟奇的な気がしないでもないが、愛桜の言いたいことはわかる。
「それに、私たちの次の研究テーマは決まってますもんね!」
「ああ」
愛桜がしゃらりと視聴覚室のカーテンを開ける。ちょうどゆうやけこやけが聞こえてきた。夕焼けの中、グラウンドの横道の通学路に一ヶ所だけ、冴え冴えと咲く時期外れの明るい花がある。
「狂い咲き桜の謎」
愛桜と樫美夜の声がばっちり揃った。
文化祭中も、楽しみで楽しみで仕方なかったのだ。文化祭が終わった後の次のお題を決めていたから。文化祭なんて早く終わってしまえ、と思うほどに、二人はオカルト狂いだった。
それくらい、狂い咲き桜の下に何が埋まっているのか、楽しみで仕方なかったのだ。




