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 怪異殺し。

 つまりは怪異の能力を無効化する怪異。もしくはどんな怪異の力も上回り、上書きする能力のある怪異である。

「言いましたよね。影の守り人は学校中のカーテンというカーテンを締めて回った、と。その中には当然、首吊り事務員のいる事務室や、空良さんのいる保健室も含まれる」

 空良というのは七不思議の一つ「保健室の恋人」の怪異のことだ。その脅威はついさっき目の当たりにしてきたばかりである。

 単体で凶悪なメリーさえもずたずたにするほどの怪異。そんな空良でさえも、影の守り人には敵わないという。

「オカ研の部室がこの視聴覚室なのも、影の守り人の『怪異殺し』の能力の研究のためです。怪異に格付けがあるとしたら、何が基準になるのかというのは実に興味深い議題です。オカルトが好きなら一度はやったことがあるであろう『ぼくのかんがえたさいきょうのかいい』についての考察論で怪異界の『寺生まれのTさん』と言われたものですからね、影の守り人」

「寺生まれのT?」

「某掲示板ネタです。今や鉄板ネタですけど、Tさんは祓い人なところがあるので、怪異というよりかは人間寄りの強い人って存在です。まあ実在はしない都市伝説ですね」

「都市伝説なのに怪異じゃないの? 混乱するわね」

「都市伝説とは、巷でよく噂になったもの全般のことを言います。主にオカルトのことが多いですけど、ヤクザとかも伝説になったりするでしょう?」

「あー……なる……」

「え、わかる? 今の」

 メリーの納得に目を剥く芥田。メリーの順応力の高さは時に芥田でさえも振り回す。

 まあ、確かに伝説のヤクザとかは都市伝説の一種かもしれない。他にも都市伝説といっても創作性が高く、面白がって人が広めて力をつけた者が多い。本家の「メリーさんの死神電話」の方が芥田のメリーよりも怪異としての人が潜在的に持つ脅威度が高いだろう。

 噂が人から人へ伝播し、怪異の神出鬼没性が上がる。芥田のメリーは都市伝説としての噂の力と芥田とのドッペルゲンガーとしての深い繋がりで動いている。芥田とセットなら、最強で最恐と言えるほどの怪異だが、人々への伝播度は影の守り人に及ばない。

「あ、Tさんがもしここで現れて『破ァッ』って言ってくれれば全部一発解決ですけど」

「強」

 ネットによって広まった都市伝説は伝播度が通常の比にならない。例え、一発限りのネタだとしても、ウケてしまえば再利用され続けていく。それがバズというものだ。

「まあ、Tさんは元々創作物だし、影の守り人のこれは結界みたいなものだから、入ってこられないでしょうけどね」

「けっ、結界!? っていうコトはわたしたち、二重に閉じ込められてるの!?」

「そゆことー」

 芥田がすぐに出入り口へ向かうが、戸はびくともしない。メリーは窓へ向かい、カーテンを払おうとするが、そもそもカーテンが存在しない。それは壁だ。

 二人共光源、もとい愛桜の元に戻ってくる。

「どどどどうするの!? わたしの力殺されてるのに!!」

「うーん、影の守り人は結界を張るだけで害意はないから、メリーさんの能力の対象にならないのもあるんでしょうね。芥田に特に害がないから」

「なるほど……」

 芥田が頷く。

 芥田のメリーの神出鬼没性が他のメジャーな都市伝説と比べて低いのは、芥田に害を成した存在限定にすることで能力を凶悪にするためだ。そのため、メリーの能力が限定的で芥田に直接的な被害がないと発動できないものとなっているのかもしれない。いじめやからかいに始まり、好奇や悪意と幅広い範囲だが。

 影の守り人はただ暗い空間が好きなだけで、結界を張るのは影の中にいたいからだ。改まって害はない。普通の人間なら永遠か一瞬かもわからない時間、真っ暗な空間に閉じ込められると気が狂うかもしれないが、芥田にはその心配がないのだ。

 怪異を抱える異常を日常とするメンタルの強さ。それが今は仇となっている。芥田にとって害とならないため、メリーがオート防御する必要に迫られないのだ。

 その上、影の守り人は怪異殺しと来ている。結界として閉じられた空間の中で、怪異は本来の力を発揮できない。メリーの鎌は、愛桜の首を切ることさえできない。

 それをメリーは肌でわかっているが、愛桜の首に鎌をかける。愛桜は微笑を湛えて、ぴくりともしない。空間に走る緊張に、誰より身を固めたのは芥田だ。

 能力が使えなくても、感情の迸りは消えない。空間はメリーの殺意に満ちていた。

「どうしてこんなヤバい空間に莉栗鼠をわざわざ入れたの? わたしが機能しなくなることも、あんたは承知済みだったワケヨネ?」

「ええ」

 愛桜はさらりと答える。過たば首を落とされるかもしれないという窮地に似合わぬ穏やかな表情。

 芥田はあれ、と思った。その愛桜の表情にいつものオカルト狂いの狂喜は滲んでいない。むしろ真面目にすら見えた。

 愛桜は目を閉じて笑ったまま、メリーに告げる。

「メリーさんに邪魔されたくなかったんですよ」

「莉栗鼠に何するつもりヨ!?」

「早とちりしないでください。私は芥田に余暇を与えたんです。芥田が生き延びるための」

 メリーも芥田も、愛桜の言葉に目を見開いた。

 その言い方は、まるで……

「あのまま外側の空間にいたんじゃ、莉栗鼠が死んでたってコト? わたしがいるのに?」

「学校において、学校の七不思議という存在を舐めちゃいけません。学校という限定された空間、学生と教師という限定された人々から圧倒的な恐怖を獲得することで、下手したらそんじょそこらの怪異より力を発揮します」

 オカルト研究部らしい見解だ。だが、芥田が疑問を連ねる。

「だからって、その七不思議に名前を連ねる僕たちが死ぬってなくない? 僕たちだって七不思議だし、メリーは強いよ」

「ええ、メリーさんは強いですよ。でも、保健室で言いましたよね。芥田は人間だ、って」

 愛桜はスマホで懐中電灯で定番の悪戯のごとく、下から自分の顔を照らした。

 元々血の気の通っていない隈の濃い愛桜の顔は正に幽霊のようだ。髪色が普通より薄いのも、不気味さに一役買っている。

 芥田は胸がきゅっとなった。愛桜がその不気味さを惜しみなく表に出すたび、愛桜が自分は人間でなく怪異であることをありありと見せつけてくるようで。

 は、とそこで気づく。愛桜は怪異。学校の七不思議の一つ。

「学校の七不思議の七番目を知った人間は、死ぬ」

「え、莉栗鼠?」

「僕と瑪莉依はこの学校において三年間限定の謂わば新参者。だから順番的には七番目だけど、七不思議において知ってはいけない七番目は、別にある」

 その事実は、芥田の胸をひどく痛めるものだった。

 愛桜は申し訳なさそうに眉を八の字にする。

「この学校の知ってはいけない七不思議の七番目、知ると死んでしまう怪異は、愛桜さん自身だ」

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