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 視聴覚室に辿り着く。愛桜は一切の躊躇なく、がらりと戸を開けた。

 芥田は思わず身構えたのだが、何の変哲もない学校の視聴覚室だ。カーテンが締め切られているせいで、薄暗いが、怖いという印象はない。

 視聴覚室は元々プロジェクターなどで映像を見て共有する目的の場所だ。薄暗いのは常と言える。

 が、愛桜は中に入ることなく、芥田とメリーに振り向いた。

「さて問題です。この視聴覚室、どこがおかしいでしょうか?」

 えっ、と芥田は驚く。

「おかしいところなんてあるのか?」

「わたしはもーうわかっちゃった!」

「ええ!?」

 メリーまでそう言って、くすくすと笑う始末なので、芥田は戸惑う。

 そんな一見してわかるようなおかしいところがこの部屋にあるのだろうか。あるとすれば、この視聴覚室にも七不思議の怪異があるという。それが関わっているのだろうか。

「中に入っても?」

「いいですよ。ただし状況は何も変わりませんけどね」

 愛桜から許可が降りたので、視聴覚室の中に入ることにした。そもそも許可などいらないのだが、この学校自体が怪異の空間と化している。メリーとは切っても切れない縁があるからいいが、愛桜は違う。この空間から出る手がかりを掴んでいそうな愛桜と離れるのは得策ではないだろう。

 怪異は神出鬼没。いつ襲ってくるかわからない。図書委員や事務員のように無害なものもあるようだが、保健室のように怪異が襲ってこないとも限らない。

 保健室で実感した。芥田は散々生ける都市伝説だの、七不思議の七番目だのと言われてきたが、それは芥田自身の力ではないのだ。芥田自身は霊感があるだけのただの人間で、都市伝説だの七不思議だのの称号はメリーという虎の威を借りているだけなのだ。

 本物の怪異の前に、芥田は何もできなかった。メリーは芥田のオート防御で現れただけだし、傷つくメリーに何もしてやれなかった。あのとき、愛桜が介入してくれなければ、メリーはもっと傷ついていたかもしれない。でも、自分にできることが本当になかったというのが、ただただ芥田の内心を打ちのめしていた。

 せめて、怪異を見抜けるようになりたい、と思ったところでふと、保健室に行ったきっかけを思い出した。

 愛桜が怪我人だったから、治療をするために保健室に向かったのだ。保健室の怪異での実験もあったが。では愛桜の怪我の原因は何か。

 ──メリーに視聴覚室の窓から突き落とされたことによるガラス片での出血と打撲。

 メリーの空間の仕様で、死なないようにはなっているが、空間が閉じられない限り、怪我は治らない。が、今着目すべきはそこではなかった。

「なんでカーテンも窓も締まっているんだ?」

正解(ピンポン)

 そう、芥田はメリーの行動について、この空間に限っては知っていたし、それで愛桜が落ちた場所に向かい、話しかけたのだ。愛桜が視聴覚室の窓から落ちるのは目視できたから。

 メリーは愛桜を思い切り突き飛ばし、窓を突き破らせて、落とした。それなら、窓が一ヶ所壊れていないといけないし、そもそもカーテンが開いていないと、目視もできない。メリーも窓の縁に当たらないように突き飛ばすには窓の外が見えていないと駄目だ。

 この部屋の窓は全てカーテンが締められており、外からの風一つない。いくら外が無風だとしても、カーテンが一ミリも動かないのはおかしいのだ。一ヶ所は確実に窓が割れているのだから。

「視聴覚室の怪異は『影の守り人』と呼ばれていて、室内に光があることを嫌い、気づくとカーテンや扉を締めてしまう誰かがいるとされています」

「随分格好いい名前だな」

「影の守り人は今でこそ視聴覚室のみの怪異ですが、昔はカーテンのある部屋という部屋全部のカーテンを締めて回った怪異です。夏の暑い日にカーテンを締めてくれるのはありがたいですけど、窓も締めちゃいますからね。一長一短というか」

 そのとき、すたぁん、と入り口の戸が締まった。ものすごい勢いの音なのに、戸が滑って半開きになるようなことはない。

「と、まあ、これがこの怪異の力です」

「閉じ込められたよね?」

 のほほんとしている愛桜を信じられないものを見るように目を向けた。

 別に、夏ではないし、元々時間の止まっている空間だ。熱中症などで倒れることはないだろうが、光源がないため、かなりの暗がりになってしまった。

「電気を……」

 と芥田がスイッチを探そうとしたところ、愛桜のいた方から、ぺかーっと光が届く。スマホのライトだった。

「影の守り人は暗がりが好きなんです。電気を点けてもすぐ消されますよ。それより、メリーさんの空間って基本時間が止まってるからスマホのバッテリー減らないんですね! マジで便利!」

 愛桜はスマホのライトを駆使して、芥田とメリーの側に寄った。メリーはスマホのライトを忌々しげに眺めている。

 何故そんな表情を、と芥田が不思議に思っていると、あることに気づいた。

 スマホのライトに芥田とメリーは照らされいるのに、メリーの影がないのだ。幽霊は影がないという説があるが、今までここまで明瞭な違和感をメリーに抱いたことがなかったので驚いた。

「それ、わざとデショ、愛桜ちゃん」

「え、わざと?」

「そうですよ。メリーさんはわかりましたか」

 愛桜はにっこにこである。芥田は大体察した。

 愛桜は怪異である以前に、重度のオカルト狂い。そんな愛桜がオカルトに巻き込まれて、こんなににこにこ機嫌よく笑っているなど、ろくなことではない。

 影の守り人はただの怪異ではない。

「影の守り人は『怪異殺し』の異名を持つ怪異たちに疎まれる存在です。たぶん、先輩はこの怪異伝にメリーさんに干渉しています」

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