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 プロジェクターを通してスクリーンに映し出されたのは、金髪紫目の美少年だった。制服をかっちり着こなすその人物は見間違えようもなく、芥田莉栗鼠である。

「っていうかこれ生徒手帳用の写真じゃないですか? こっわ」

「写真屋が知り合いなのだよ」

「個人情報!」

 愛桜のツッコミも入りつつ、話が進んでいく。

「芥田莉栗鼠くんは四分の一が日本人。つまり、ハーフと外国人の子だね」

「ほぼ外国人……道理で、目と言い、髪と言い派手なわけだ」

「そうそう。容姿のことをからかわれることも多かったようだ。でもそちらは両親の血ということで納得できる。金髪はともかく、紫の目は差別対象になる地域もあるから、そういう偏見の少ない日本で暮らしている。親御さんの英断だね。あ、ちなみに紫目は世界でもかなり珍しいらしいよ」

 この話始めると長くなるから割愛ね、と樫美夜は画面を切り替える。次に画面に映ったのは近所の保育園だった。

「下沢保育園? なんで?」

「これが芥田少年の通っていた保育園。彼の怪異の歴史はここから始まるのだよ」

 確かに、樫美夜の話だと、保育園の頃から芥田をからかう人物はいたらしい。人と違うところを面白がってからかうなんて、園児にはよくある話だ。からかわれて逆上するのもまた園児。子どもらしさをぶつけ合って、子どもは成長していくものである。

 が、芥田の場合、それが正常な衝突とならなかったらしいのは怪異や彼の二つ名から充分に窺えることだ。

「芥田少年は容姿端麗、幼さ特有の中性的雰囲気のため、女みたいだと思われていたらしい。そのことで男児からは『お前女だろ~、女はあっち行けよ~』とハブられていたそうだ」

「うわぁ、ガキ臭」

「ガキにガキ臭いといってもどうしようもないな。はは!」

 正にその通りである。三、四歳の子どもなんて生意気盛りのクソガキである。クソガキだった彼らも、高校生くらいに年齢を重ねていれば、自分の行いを省み、恥ずかしく思うこともできるだろう。

 年齢を重ねられれば、の話だが。

「芥田少年三歳のとき、それは夕方のことだったそうだ。クソガキAくんとしよう。クソガキAくんは奇妙な目に遭ったという。家族の迎えを待っていた彼だが、いつの間にか保育園の職員も他の居残り園児も見当たらなくなり、不安になって、外に探しに行こうとした折のことだった……」


 ぴるるるるるるる! ぴるるるるるるる!

 突然、職員室の方から電話がけたたましい音を立てて鳴り始めた。職員がいないので、当然出る者はいない。耳をつんざくようなコール音のみが静寂に響き渡る。

 怖くなったが、放置してもあまりにも止まないので、耐え兼ねたクソガキAは電話を取ることにした。幼いながらに、受話器を取ればコール音が止むことは知っていたのだった。

 その知識が彼にとって幸か不幸かは断定できない。ただ、受話器を取ったことで、コール音はぴたりと止み、クソガキAは安心した。

 が、それも束の間。

「わたし、メリーさん」

 受話器から聞こえてきた声に、クソガキAはびくんと肩を跳ねさせる。それは同年代の女の子の声のようだった。

「今、あなたの近くにいるの」

「え」

「あーそーぼ」

 ぷつ、と電話は一方的に切られ、ツー、ツー、と無機質な電子音が流れてくるのみ。

 けれどひとりぼっちで寂しい思いをしていたクソガキAにとって、そのメリーさんからの提案は願ってもないことだった。誰かと一緒に遊んでいれば、不安や怖いのもなくなり、そのうちお父さんかお母さんが迎えに来てくれるだろう、と。

 そう思って、メリーさんを探しに外に出ると、五時の時報のゆうやけこやけが流れ始めた。

 もうそんな時間なんだ、とクソガキAは思った。けれど、クソガキAの両親は共働きで、いつ迎えられるかはいつもまちまち。だからこそクソガキAは延長保育のある下沢保育園に通っているのである。

 待つのはつらいが、遊べば気も紛れるだろうと思って、グラウンドを見回すと、金髪紫目の子どもがいた。この特徴を持つ人物を他に知らない。

「リリス? なんでお前いんの?」

「わたし、メリーさん」

「ぷはっ! お前かよ、あんなイタズラ電話かけてきたの。でも、そのひらひらしたスカートよく似合ってるよ。やっぱお前、女なんじゃね? くくくく」

「わたし、メリーさん」

「メリーさんってなんだよ?」

 笑って腹を抱えていたところから、クソガキAがふと顔を上げると……

「わたし、メリーさん。あなたの目の前にいるの」

 メリーさんと言い続ける人形みたいに可愛い女の子はその身に見合わぬ凶悪な大鎌を持ち、瞬く間にクソガキAを解体した。

 右腕、右足、左足、左腕、首、残った胴を真っ二つに。

 けれど血も流れない。痛くもない。クソガキAはころころ転がって、逆さまになった視界で、自分の腕や胴があらぬところに転がっていくのを呆然と眺めていた。

 バラバラになった体をメリーさんは拾い集め、小さな箱にぎゅうぎゅうと押し詰める。頭も押し詰められて、血の臭いや排泄物の臭いで鼻がひん曲がりそうになる。小さい箱、しかも透明な箱に無理矢理詰め込もうとするので、体のあちこちがみしみしと言い、顔も半ば潰されて、それは何故か痛みを伴っていた。

 訳がわからないまま、されるがままになるしかない。メリーさんは無言でクソガキを箱に詰め込むだけだ。その静寂が、他の音、そう、さっきからずっと鳴り止まない音楽を引き立てる。

 ゆうやけこやけが狂ったようにずっと鳴っている。エコーのせいで音が重なったりずれたりして、ゆうやけこやけがうわんうわんと鳴り響き、クソガキは具合が悪くなってきた。

 徐に、メリーさんがクソガキAを覗き込む。

「うーん、もう少し細かくした方がいいかな?」

 不穏なことを口にし、メリーさんは今一度大鎌を構える。

「足も腕も体も、もう半分こにしようかな。あ、そうだ。頭も半分こにしたらいいかな。よーし、やるぞぉ」

「ひ、え?」

 メリーさんが箱からクソガキAの体を全部取り出し、楽しそうにパーツを半分こにしていく。

 クソガキAはメリーさんの言葉の一つが忘れられず、怯えていた。

 頭も半分こ。それはつまり、どういうことに? ──考えていると、メリーさんが大鎌を大きく振りかぶって……


「という話がクソガキAくんのお話だ。あ、もちろん、クソガキAくんは存命だよ? でも、芥田少年を見るたびに怖がるようになってしまって、遠くの街に引っ越して、精神科通いをしているとかいないとか……」

 そう話を締めくくると、樫美夜は愛桜を見た。愛桜は眉根を寄せ、なんだか不満そうな顔をしている。

 すると、彼女はこんなことを言い出した。

「これ、わたしの知ってる『メリーさん』の話じゃないんですけど!?」

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