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「うわー、えぐ……引くわー」

「これよりエグいことなどなんぼでもやってるメリーさんに言われたくないですね」

 少女の生首も体も耳も消え、愛桜についていた返り血も消えていく。メリーの空間が閉じたのだ。

 メリーは愛桜が開け放った窓から流れてくるゆうやけこやけに顔をしかめた。

「出られたワケではないみたいネ」

「そうですね。まあ、メリーさんの空間が解除されると負傷や返り血など、空間が開く前からの変化は帳消しされるっぽいのが大きな発見でしょうか」

「うわ、オカ研」

「当たり前でしょう。オカルトに命懸けられるんですからね」

 愛桜のオカルト狂いが相変わらずのようで、メリーはドン引きする。が、愛桜のような分析者がいるのは芥田たちにとってありがたいことだ。オカルトに精通していると、目のつけ所が違う。

 芥田は後ろ姿しか見ていなかったのでわからないが、メリーが空良との対戦時に負った裂傷や服の傷も消えている。怪異というのは便利だ。

 愛桜はメリーの回復能力は芥田の存在があるからだろう、と分析した。樫美夜が言いたかったことがわかる。メリーは芥田の容姿を依り代にすることで、芥田莉栗鼠と同じ姿を保つことができるのだ。二卵性双生児でも瓜二つなのはメリーが芥田に似せているからなのだ。

 芥田に自分の姿を似せることによって、自分を治すとき、芥田の容姿を参考にすればいいから簡単にいい見本を真似ることができるのだ。

 自分が守ったことによって、返り血の一つも傷の一つも負うことのない兄の美しい姿を保つ。それがメリーにとっての誇りで、行動指針や原動力になるのだろう。当の芥田にとっては迷惑なこともあるだろうが。

「さて、メリーさんの力で破れないとなると、やっぱり別の方法を探すしかなさそうですね」

 愛桜が宣言すると、メリーがもにょもにょとする。何か言いたげだ。

「どうかしました?」

「うーんと……感覚的なものなんだけど、わたしの空間をベースにしているのは確かなんだけど、わたしの空間にちょっとだけ手を加えて、通常なら並行発動できないわたしの能力というか空間展開が崩れないようにしているか、新たな空間展開で破れないように空間の効果範囲をちょっとだけ広げられてる気がするんだよね。だからさっきので破れなかったんだと思う」

 なるほど、と愛桜は思った。

 樫美夜が干渉した部分はそれだ。ほんの少しの手心。ただ、そのほんの少しが痒いところに手が届かない感じで、メリーはもやもやしているのだろう。

 ということは、このもやもやを晴らすために向かう場所は一つだ。

「次は視聴覚室に行きましょう」

「ああ、最初に愛桜ちゃんがいた二階の?」

「犯人は現場に証拠を残している可能性が高いです。先輩がメリーさんの空間を弄って閉じ込めている犯人だとすれば、メリーさんが出てくる直前まで先輩がいたあの部屋は怪しさ以外の何もありません。それに」

 愛桜は隈の濃い目をにんまりと歪ませて、不敵な笑みを浮かべた。

「視聴覚室はオカ研の部室です。つまりは私の領分ってわけですよ」

「おお、頼もしい」

 愛桜とメリーがぽんぽんと話を進める中、芥田は考えていた。

 愛桜という存在に強烈な違和感を感じる。芥田から見ると、愛桜は最初から全部わかっているような、そんな得体の知れなさがある。

 得体が知れないから、信用できないというわけではないけれど、嫌な予感とするには奇妙な感覚がした。

 これから進む道に何が待ち構えているのかわからないという漠然とした不安。怪異怪異と言っているけれど、愛桜は一体どういう怪異の存在なのかという謎。なんだか胸がぞわぞわとする。

 このまま視聴覚室に行ってもいいのだろうか。

 愛桜を信じてもいいのだろうか。

「莉栗鼠? 浮かない顔ダネ?」

 メリーに声をかけられてはっとする。

 自分の不安を少しでもメリーに気取られてしまってはいけない。芥田の愛桜への信頼が不安定になっていることがわかれば、メリーは間違いなく愛桜を敵視するだろう。これ以上、事をややこしくしたくなかった。

「いや。先輩が何か手がかりを残しているといいね」

「その辺は先輩、私に甘いんで」

「そこ自信持つところなの?」

「自信、持てますよ。だって、私が調べたいって言ったらわざわざ芥田のこと調べてメリーさんを挑発までしてくれるんですよ? これが甘くなくて何なんですか?」

「そのせいで僕たちはここにいるんだけどね」

 愛桜が芥田の怪異を追い求めて、この空間に招かれようとすることまで折り込み済みで、この空間を仕掛けているのである。愛桜は信用できても、愛桜の言う先輩を信用することはできなかった。

 メリーの能力に干渉できているのだ。その先輩も人間ではないのかもしれない。それなら、逃げられる術なんて、残すだろうか。

「芥田、安心して。私は伝家の宝刀を知ってるから、いざとなったらそれ使おう」

「ちょっと! それなら今使いなさいヨ!」

 メリーが言うのももっとだ。けれど、愛桜は難色を示す。

「できれば使いたくないんですよ。私が死ぬかもしれないんで」

「怪異だから死なないんじゃないの?」

「あはは、メリーさん。それは怪異だから人間の殺し方じゃ死なないって意味ですよ」

 愛桜はからからと笑って告げた。

「怪異には怪異の終わり方があるんですよ」

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