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 芥田より先にメリーが愛桜に詰め寄った。

「その提案」

 わざわざ俯いて、下から愛桜の顔を見上げて迫る。

「ありありのありだわ!」

「初めて聞いたけど、つまりメリーさんは気に入ったってことでよろしい?」

 うんうん、とメリーは満足げに頷く。芥田は少しやれやれと首痛め男子のようなポーズをした。

「この空間から出たいのは確かだけど、具体案がなくて困ってた。だから乗るよ。愛桜さん」

「何気初めて名前呼んでくれたんじゃないですか?」

「莉栗鼠はお嫁に出しませーん!」

「僕、男なんだけど?」

 メリーの頭をうめぼしでぐりぐりする芥田。痛い痛い痛い、と喚くメリー。ほのぼのとした兄妹喧嘩である。

 芥田はメリーによって、意地悪してくるやつがいなくなっていった。それは一見、いいことのように聞こえる。だが、実際は人がまともなのもまともじゃないやつも寄って来なくなっただけだ。

 メリーは過剰なブラコンだ。生きていたら、今見ているままの性格だったのだろうか。

「まあまあ、メリーさんや。私はただの怪異だし、芥田を娶ったりせんよ」

「どうかしらぁ? 女の形をしているだけで可能性はミリでもあるからネェ……」

「ブラコンこっわ」

 愛桜も自分のことを知らなくてはならなかった。自分が怪異だというのなら、一体何の怪異なのか。どうして怪異だと忘れて人間であるかのように過ごしていたのか。樫美夜とは元々どういう関係なのか。

 芥田を使って、自分という像を紐解いていく。芥田とメリーはドッペルゲンガーで、合わせ鏡だ。自分という外郭を知るには鏡を見るのが手っ取り早い。利用という形にはなるが、愛桜が結果を求める過程で芥田の求める結果が導き出せる可能性は高い。

「で、まず何をすればいい?」

「ドキドキ!? 学校探索でーす!!」

「真面目に」

「学校探索です。先輩が研究したいのなら、実験材料は私以外にも用意しているはず。メリーさんが来るまで学校という建物内にいたことは確かなので学校に仕掛けがあると見て探索します」

 真面目にやらないと、芥田がメリーをけしかけてくるかもしれない、と察した愛桜はひとまず真面目に振る舞うことにした。

 芥田とメリーは愛桜の提案に乗ることにしただけでまだ「仲間」と呼べるほどの代物じゃない。愛桜は先程まで芥田とメリーという怪異を楽しもうとしていた存在だ。本来なら協力するなどあり得ない。

 それはわかっているから、なるべく二人の機嫌を損ねないようにしつつ、やりたいことをやっていくのがベストだ。

「とりあえず保健室から回ろうか」

「なんで?」

 メリーが無垢に問いかけてくるので、愛桜は満面の笑顔で返した。

「お前ら普通に話してるけど、私二階から落とされた怪我人な」


 保健室。一応ノックをして入ったが、誰もいないようだ。

「というか、学校全体が静かだね」

「たぶん、先輩がこの空間に送り込んだのが私たちだけだったってことでしょ。もしくは私たちしか送り込めなかったか。私は後者だと思うな」

「どうして?」

 愛桜は慣れた様子で包帯や消毒やガーゼを用意しながら語る。

「先輩の空間のベースになっているのはメリーさんの能力だから。メリーさんの能力は特定の人物を現実によく似た異空間に送ること。かるーく芥田の過去を見せてもらった限りだと、基本一人ずつって感じかな」

「うん、合ってる」

「まあ、大勢がいっぺんに消えるより、一人ずつ徐々に消える方が怖いからね。怪異としていいセンスしてると思う」

「ホント?」

「それ、褒めてるの?」

 目を輝かせるメリーと胡乱げな芥田。愛桜はメリーの頭を撫でて褒めちぎる。馴染むの早くない? と芥田は思った。

 やはり怪異同士、女の子同士というのが打ち解けやすい秘密なのだろうか。いや、愛桜が単純に怪異特効を持っているだけかもしれない。そう確信できる程度には、愛桜の異様な怪異への愛を見てきたと思う。

「愛桜ちゃんすごーい。一人で頭に包帯巻けるんだ!」

「こんなスキル、役に立たない方がいいんですけどね」

 それはそうだ。頭は怪我をしないに越したことはない。それでも愛桜の頭の回転に支障がないのは、芥田のメリーという怪異が実際には死なないように設計されているからだろう。

 このことからも、樫美夜が設定した空間の定義は芥田のメリーに基づくものだと考えられる。

 消毒をしてもちっとも痛そうにしない愛桜を見る限り、メリーの痛覚遮断機能も適用されているようだ。

「痛みがなくても、骨が折れてたり、内臓にダメージが出たり、止血を怠ったりすれば、普通の人間と同じく、体の自由は利かなくなるはずです。だから私をちゃんと治療するところから始めないと」

「その節はどうもごめんなさい」

 メリーがぺこりと謝るのに対し、愛桜はからから笑った。

「謝んなくていいよ。私も面白半分だったのは確かだし。で、保健室に来たのにはもう一つ理由がある。学校の七不思議、保健室の恋人はご存知?」

 芥田とメリーはきょとんと顔を見合わせた。それからふるふると、愛桜に知らないことを示す。

 愛桜は語った。

「この保健室には二つベッドがあるでしょう? 昔、この学校には病弱な男子と病弱な女子がいて、ほとんど常にその二人がこの二つのベッドを塞いでいたことがあったの。二人はそれぞれクラスから浮いてしまって……でも、カーテン越しに語らううちに二人は仲良くなった。病弱という同じ悩みを抱える二人は友達になれた。だけど……ある日、男子の方が交通事故で死んでしまった」

「アラ、切ない」

 病弱も何も関係なく、飛び出した子どもを助けようとして身代わりとなり、死んでしまった男子。その死を最も嘆いたのは保健室で多くの時間を共にした女子だった。

「その女子も、日に日に元気がなくなっていって、卒業を待つことなく死んでしまった。

 その後、保健室の廊下側のベッドを使用すると、女の子の声が聞こえてくるんだって。特に男子が寝ると出やすいらしいですよ。芥田」

 にこっと愛桜が笑う。芥田は察した。

 この場に男子は芥田一人。保健室の恋人の女の子が出てくるとしたら、一番可能性が高いのは芥田だ。

「七不思議を実証して、何になるの?」

「簡単な検証実験です。保健室の恋人が仮に芥田に害を成したとして、メリーさんの防衛が効くとしたら、メリーさんは新たな怪異を閉じ込めるために空間を作ります。そうなると元々あった空間はどうなるでしょうか?」

「なるほど」

 考えられるいくつかのパターン。その中で希望を見出だせそうなのは、メリーが一度作った空間を壊して、新たな空間を作る方法。

「莉栗鼠! こんなの、この女、怖いもの見たさに言ってるだけだよ! そんなこと試す必要ないよ!」

「なら、瑪莉依、答えて」

 芥田はメリーの目を見つめた。

「瑪莉依は新たな空間を作るとき、同時に別な空間を存在させる? それとも空間は一つずつしか作れないから壊す?」

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