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 そうなると、と愛桜はぎろっとメリーを睨んだ。

「なんで私を殺そうと?」

 そう、メリーは最初からわかっていたはずである。自分のものではない空間に閉じ込められたことを。その原因が樫美夜で、愛桜はメリーと同じ立場だと理解できていた。にも拘らず、メリーさんごっこをやって、愛桜を二階の窓から突き落とすという所業をはたらいたわけである。

 ここが現実ではない空間であるため死ぬことはなかったが、夢と違って痛覚は生きている。つまり、痛いものは痛いというわけである。何故同じ立場の人物をわざわざ殺そうとしたのか、理解ができない。

 睨む愛桜にメリーはばちこーんとウインクを飛ばし、裏ピースを顎に当てる。

「ノリ?」

「ノリで人殺すな」

 秒速で愛桜が突っ込んだのは言うまでもない。

 メリーがそれらしい行動を取ってしまったせいで、愛桜の気づきが遅れたのだ。そこはきちんと謝ってほしい。

「でもそれを言ったらサ、あなただって気づくまで超ノリノリだったわけジャン? 人のこと言えなくナーイ?」

「ウザギャルだ」

 可愛いから許すが、メリー、だいぶ癖のある性格をしている。

「そもそも、なんで先輩は私たちを閉じ込めるような真似を……」

「それは決まってるデショ」

 メリーは愛桜の頬をつんつんとつついた。

「オカルト研究部がオカルト研究する以外のことする?」

「しないね」

 滅茶苦茶納得してしまった。

 愛桜は自分が何者なのかわからないままだが、芥田莉栗鼠という怪異にまみれた人物を一度は研究しようとした身だ。愛桜と同じくらいオカルト狂いである樫美夜が研究しようと思わないわけがない。愛桜だって、そういう特殊能力があるのなら、芥田を閉じ込めて試験風景を眺めたい。

 そのためには、芥田本人とメリーさんはもちろん、メリーさんの矛先となる人物を最低一人は入れておかなければならない。それに愛桜は選ばれたわけだ。

「光栄だわ」

「あなた、人のこと言えないくらいヤバい性格してるワヨ?」

 愛桜がオカルト狂いなのは何故かはわからないが、オカルトというのは往々にして死者が関わるもの。死者の妄念が愛桜を具現化しているのなら、これくらいおかしい方が正常まである。

「よく知りもしない人をよく信頼できるね」

 芥田もやや呆れ気味だ。

 それでもお構い無しに愛桜はぐっと拳を握りしめる。

「オカルトが好き。その心に一点の曇りもない私と先輩は口にしなくとも通じる絆があるんですよ!」

「こえー」

「その先輩が人間じゃないとしても?」

 メリーの問いに愛桜はうっそりと笑う。目の下に隈のある病んだ感じの顔をした愛桜が笑うと、それは不気味に見えた。

「私が人間じゃないんだもの。先輩が人間かどうかなんて、些末な問題じゃなぁい?」

「うおー、異常者」

「オカルト狂いってこんなんばっかなのカナ」

 それにしても、と愛桜は何気なく芥田とメリーを観察していた。

 同じ顔立ちをしているのに、喋り方や表情変化は随分と違う。やはり双子でも性別が違うと性格が違うものになるのだろうか。いや、双子であろうがなかろうが、人は個々に性格の違いがある。

 同じ顔でこんなに違う表情をするんだなー、と思うと、まるでメリーが芥田とは別の人間として存在しているかのようだ。

「ナニヨ? 顔になんかついてる?」

「あ、いやいや。顔はそっくりだけど、随分雰囲気違うなーって」

「そりゃ当たり前デショ。わたしたちは双子でありドッペルゲンガー。わたしの本当の顔なんてママだって知らないワヨ」

「んん?」

「瑪莉依が僕と同じ顔をしているのは、ドッペルゲンガーという形で瑪莉依を顕現しているから。でも僕たちは性別も違う二卵性双生児だからこれが瑪莉依の本当の姿ってわけじゃない」

 芥田と同じ顔をしているメリーは芥田の双子の妹の瑪莉依としての顔ではないということだ。

 そもそも愛桜が目をつけた通り、芥田は帰り道に自分の斜め後方に話しかけるくせがあることから、噂が広まり、怪異となった。誰もいないところに話しかける姿はエアフレンド持ちとか、痛々しい子とか、それはそれはひどい評価を受ける。

 悪い噂ほど尾ひれはひれがついて誇大化するものだ。それが謎のメリーさんと結びついて、芥田を生ける都市伝説にしているわけである。

「わたしは莉栗鼠に意地悪しちゃダメよって意味でみんなに悪戯するから、みんなにわかりやすいように莉栗鼠の姿をしているの」

 意地悪、と聞いて固まる。精神崩壊すらさせるあれを悪戯で済ませるのか。さすが怪異、肝っ玉が違う。

 そのせいで芥田に友達がいないようなのだが、メリーは芥田の交友関係には一ミリも興味がなさそうだ。

「だって人間って信じらんないジャン! くっそつまらないコトで因縁つけてサ、莉栗鼠のコトいじめるの。わたしがやったコトより数段ひどいコト、ひどい心の傷を簡単につけるようなヤツらなんだからネ! 莉栗鼠にはぜーったい幸せになってほしいんだから、嫌なヤツらは精神的に皆殺しヨ!」

 さすが怪異。猟奇的である。

 実際に殺していないだけマシなのだろうか。いやしかし、現代において精神破壊は一思いに殺すよりも残酷である。まあ、残酷であってこその怪異だが。

「それより、ここから出る方法をそろそろ探したいんだけど」

「え?」

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