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少女(男)は魔剣を夢見て鉄を打つ  作者: 大いなるハマチ
第一章 少女(男)は鍛冶屋を目指す
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プロローグ

 短めかもしれません。続きは早めの投稿頑張ります…。

 土曜日の昼下がり、溶けた氷で薄まったアイスティーをスマートフォン片手に啜る。

 ここは自宅から徒歩5分程度にある喫茶店。寝坊して会う約束に盛大に遅れている友人を待ち続け早2時間が経過していた。


 テーブルに肘をつき窓の外を見る。空は快晴、道ゆく人々は平日の疲れを忘れたかのように休日を満喫している。


「こんなアッチィのに外に出るんだもんなぁ…物好きだよな」


 背後から突然話しかけられ振り向けばそこにはまるで寝坊を悪い事だと思っていない、そんな顔をしている待ち人が片手を上げて立っていた。


「よっ、おはよう優斗」

「おはようじゃないんだよ。どうせ遅くまでゲームでもしてたんだろ?」


 はははっとはぐらかす様に笑い目の前の席に座る彼の名は五十嵐辰巳(いがらしたつみ)。俺は彼をタツと呼んでいる。大学生になり、気付けば幼い頃からの関わりで未だに友人と呼べるのはタツただ1人だけとなっていた。


「んで、届いたのか?例のブツは」


 そう言われて俺は少しニヤリと笑い答えた。


「おう、ついさっきな」

「やったじゃねぇか!これでようやく一緒にプレイできるわけだ」


 例のブツというのは発売から早くも4ヶ月が過ぎたゲーム。タイトルを『BlessedYourWorldOnline』といい、ブレユワと略され愛されている。

 そのゲームは曰く、とてつも無く自由。冒険するも良し、街で静かに暮らすも良し、なんなら街を作るのすらも良しとするそうだ。まぁ、まだプレイヤーが街を作ったという話は無いらしいが。


「んで、どういうプレイスタイルで行くんだ?」

「そうだなぁ…」


 俺はこのゲームをプレイするに当たり、事前情報はやむを得ない状況を除いて目に入らない様に尽くしてきた。しかし、目の前には発売当日からプレイしているタツという存在がおり、なんなら学生の身である以上周りには大勢の人間がいる訳で…。

 つまるところ、ある程度ネタバレを受けている俺はある1つのプレイスタイルが猛烈に気になっていた。


「魔剣を、打ってみたい」

「打つ…ってことは鍛冶屋にでもなるのか?」

「そういうこと」


 いつだったから忘れてしまったがある日の学食で何年かも分からない数人が会話しているのを聞いたことがある。近接武器でありながらそれ1本で魔法すらも扱うことができる魔剣、それをプレイヤーの手によって造る事が可能であるらしい。


「NPCの口から製作可能って言葉は出たらしいが…未だに1本も完成した話は聞かないぞ?」


 そう、その情報はあくまで情報のみが一人歩きしている。誰も成功した事がない、つまり4ヶ月遅れの俺にもまだ前線に立つ可能性があるという事。


「あ、すいませーん。アイスコーヒーお願いします」


 呑気にコーヒーを注文するタツ。彼はブレユワに於いて身の丈程はある大剣を振り回す戦士として活動しているらしい。


「造れる事は確定してるんだ。なんとかやってみるさ」

「ふぅん…ま、素材が必要なら言ってくれよな、護衛ならやってやるよ。その分報酬は頂くけどな」

「普通にありがたいわ。そん時は任せた」


 その後、ゲームのネタバレをされそうになりキレたり、今日から始まっている夏休みの予定を話したりと飲み物が無くなるまでの時間を駄弁って過ごし解散した。

 なお、遅れた罰としてアイスティーと喫茶店に着いて早々頼んでいたサンドウィッチはタツの奢りとなった。ご馳走様です。




◇◆◇




 帰宅後身支度を済ませた後、届いた包みを開きソフトのパッケージを見た。表側には大きく『BlessedYourWorldOnline』と書かれており、文字の下には世界地図の様な物が描かれている。

 海に浮かぶ円形に近い大陸。その中心がこれまた円を描く様な山脈となっており、山脈から伸びる川が大陸を六つに分割しているようだ。


 パッケージの裏を見る。表側から続いているのか海だけが表現された地図を背景に文章が書いてある。


『ようこそ『BlessedYourWorldOnline』の世界へ!あなた達にはこれから、この広い世界を互いに協力し開拓して貰います。大陸に住まう種族は6つ、それぞれの土地でそれぞれの文化を築く彼らと共生し、更に発展させていこう!』


 なるほど、大陸が6分割されていたのは種族が6つあるからなのか。

 納得しつつパッケージからディスクを取り出しパソコンに読み込ませる。パソコンから伸びるケーブルによって接続されたフルフェイスのヘルメットの様なフルダイブシステム搭載のVR機器『FUTURE3』を手に取りベッドへ。


「よし!」


 専用の手袋を装着しFUTURE3を頭に被り寝転ぶ。目を瞑り右後頭部辺りにあるスイッチに触れるとピッピッという電子音が鳴り、眠りに落ちる様な感覚が訪れる。気が付けば何も無い真っ白な部屋に立っていた。

 足元を見ると薄っすらと透けた青い体が見え、初期設定から変更すらしていない自分のアバターである事が伺えた。


 右手で前方を指差す。すると何も無かった空中に水面の様な波紋が広がり、その中心からいくつかのアイコンが横並びに現れた。

 一番左に表示されたアイコン、『BlessedYourWorldOnline』と書かれたそれに迷わず指で触れた。一瞬の視界の暗転の後、オープニングが流れ始める。


 恐らくゲーム内の光景であろう映像と盛大な音楽と共にソフトのパッケージの裏面に書かれた文章がそのまま読み上げられる。何か追加の文章があるかと思い見ていたが特に何も無く、再び視界が切り替わる。


 FUTURE3のホーム画面の様な白く何も無い空間、先程と変わらない透けた青いアバター。最近のVRゲームは大抵FUTURE社が関わっている様で、キャラクター作成前のアバターは統一してこれである。


 …先程何も無い空間と言ったが訂正だ。背後を見たらスーツ姿のマネキンが倒れていた。

 恐る恐る近づき、「あの」と声を掛けるとマネキンは物凄い勢いで立ち上がり前傾姿勢でこちらを見できた。


「ようこそ『BlessedYourWorldOnline』へ!」


 明るい、それでいてなんか胡散臭い男性の声で喋り始めたそのマネキンは自らの事をサポートAIのマネキン君と名乗った。


「お嬢ちゃん、この世界は初めてかい?」

「男です。初めてです」


 俺の声はお世辞にも高いとは言えない。何なら低い方である。つまるところ目の前のこのマネキンは恐らく(プログラム)が壊れてしまっているので後で運営に問い合わせるとして、キャラメイクが始まった。


「まず、いくつかの質問をさせてくれるかいお嬢ちゃん」

「男です。どうぞ」


 コホン、と咳払いの後質問が始まった。


「この世界で君は何がしたいんだいお嬢ちゃん?」

「男です。魔剣が打てると聞いたので鍛冶屋になって魔剣を打つ、ことですかね」

「うーん、それはイイね!頑張ってねお嬢ちゃん」

「男です」


 いちいちツッコむのも疲れるし次からは無視しよう。あと後で殴ろう。なんて考えている内に次の質問が投げかけられる。


「お嬢ちゃんは痛みに対してどの程度強いんだい?」


 これはフルダイブ型のゲームではよくある質問で、痛覚設定に関する物だ。VR機器本体を購入する際に特殊な規約書にサインをし、尚且つ実際に痛みを経験するテストを受けた後であれば痛覚を100%に設定する事ができる。ちなみに俺は毎回100%でプレイする。


「めちゃんこ強いです」

「なるほどなるほど…」


 ゲームにもよるが、痛覚を高く設定しておくと細かな感覚がより鮮明に分かる様になる。つまり鍛冶屋をするにしても何にしても有利に働く筈だ。


「お嬢ちゃんはマゾヒスト、と」


 殴った。


 尻餅をつき片手を床に体重を支える様につき、もう片手を頬に添えた姿勢になったマネキン。殴る際、マネキンは最初から前傾姿勢のまま微動だにしていなかった為、大変殴りやすかった事をここに記しておく。


「さて、と。このままお嬢ちゃんと愛について語らうのもやぶさかでは無いが早速次のステップに行っちゃおうか」

「あ、そのまま話すのな」


 敬語を使うのも馬鹿らしいので言葉を崩す事にした。マネキンも尻餅をついているし俺もその場で座り胡座をかく。


「まずは種族を選んでねお嬢ちゃん」


 マネキンの目の前に12体のフィギュアが出現した。男女セットで6種族。この中から選ぶ様だ。


「種族について説明しよう!まずはお嬢ちゃんから見て左から…」


 人間。現実世界で慣れ親しんだ種族。現実とは違って魔法が使える。印象としては器用貧乏といった感じ。


 森人。所謂エルフであり、鮮やかな金髪、宝石の様な緑の瞳が特徴的だ。定石通り魔法への適性が高いが力が無い。が、弓を扱う事に関しては群を抜いて適性がある。現実で考えれば弓を引くのは中々に筋力が必要な気がするが…。


 地人。こちらはドワーフ。背が低く男性は黒く長い髭が生えている。しかし髭を伸ばしていないドワーフも普通にいるらしい。やはりと言うべきか、鍛冶をするのにこれほど適した種族は居ない。まず築いている文化が鍛冶に特化している。筋力が高く肉弾戦でも活躍ができる。


 獣人。様々な動物の特徴を持つ種族。キャラメイクの幅が最も広いのがこの種族である。強く、そしてしなやかな筋肉によって俊敏な動きを可能とする。鍛冶屋を目指していなければこの種族を選んでいたかもしれない。


 鬼人。赤みがかった肌、額から生える角が特徴的。身体能力が高いのはもちろんだが、何より特殊な術を扱えるらしい。詳しくは聞いても答えなかったがプレイしていればいずれ分かるだろう。


 竜人。肌に所々見られる鱗、側頭部から生える立派なツノ、ドラゴンの特徴を色濃く反映したそのデザインは何とも男心をくすぐる。ちなみにタツはこの竜人を選択している。


 以上の6種類が選べる種族である。ちなみに種族の変更はゲーム開始後1回のみ可能であるらしい。決めたもののプレイスタイルに合わなかった、という人に対する救済措置だろうか。


「どの種族にするか決まったかいお嬢ちゃん」

「うーん…やっぱり鍛冶屋なら地人かなぁ」


 そう言うとマネキンは首を横に振った。


「ノンノンノン、お嬢ちゃんに1つアドバイス。魔剣を作製するなら人間がオススメ、だぜ☆」


 言い方にイラッとはしたがこれは有益な情報である。最初の質問の答えによってはヒントが貰える、というのは実はタツから聞いてはいた。


「ちなみに、何故?」

「それは自分で経験して知る事だよお嬢ちゃん。アドバイスは1つだけさ!」

「さいですか」


 ダメ元で理由を問うも答えは得られず。となると選ぶ種族は人間で確定である。


「さ、次は性別から選ん……」


 その後は自分が使うアバターのメイキングが始まり、俺はたっぷり時間を掛けて今後の活動を想像しつつアバターを作成した。



◇◆◇



「やっぱりお嬢ちゃんはお嬢ちゃんだったようだ…」

「……」


 目の前に鏡がある。映り込むのは1人の美少女。俺が両手を上げればその美少女は一切の時差も無く両手を上げた。つまりそういう事だ。


「このマネキン君の目に狂いは無かった!」


 言い訳をさせてほしい。このゲーム、ネカマ対策の一環なのか男性が女性アバターを選んだ際、声は元の男性の声のままなのである。つまりやや低めの声を持つ俺が女性、なんなら少女の姿で過ごす事で野太い声の少女が出来るわけで…魔剣を打つ野太い声の少女、それが面白くない訳が無い。この目の前にいるポンコツなAIのお嬢ちゃん呼びにつられて少女アバターを選んだ訳では決して無くあくまでこれは俺の意志、俺の想像の結果生み出されたアバター…つまり俺はお嬢ちゃんでは無い。言い訳終了。


 改めて今後扱う自分の肉体を見る。身長は現実での俺の身長、171cmからかなり落とし145cmに。顔立ちは非常に整っており、ドワーフの髭の様に黒く、しかしドワーフとは違いサラサラとした髪が肩まで伸びている。瞳はエルフの瞳を参考にし明るい翡翠色だ。

 うん、我ながら会心の出来である。1時間半を注ぎ込んだだけある。


「ではお次に、ステータスポイントの割り振りをしてくれるかいお嬢ちゃん」


 マネキンの言葉と共に目の前に1つのウインドウが表示された。表記はこの様な感じ。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


HP:20/20

MP:10/10

VIT:5

STR:5

INT:5

DEX:5

AGI:5

LUK:5


残り:50


_____________________



 表示されてから暫し考えたものの、鍛冶屋になる為に必要なステータスが分からない今決めるのは得策では無い様な気がする。


「あー、これって今決めないとダメなのか?」


 物は試しと聞いてみると、その答えは「いいえ?」という簡単なもので、ならば今決める必要もあるまいとステータス決めは後に回す事にした。


「ではお次に初期スキルの選択をしてくれるかいお嬢ちゃん」


 スキルポイント残り5という表記と、ズラリと並んだスキルのリストをチラリと見てすぐに、これも後で決める事にした。


「それも保留で」

「オッケー!あ、そうそう。知ってるとは思うけど大抵のスキルはプレイしてたら手に入るからスキルポイントのご利用は計画的にね!」


 初耳ではあるが次に進みたいので黙っておく。

 さて、と声を出しマネキンがようやく立ち上がった。俺もそれに合わせ立ち上がる。


「最後に武器を選んでもらったらチュートリアルが始まるよお嬢ちゃん」

「お、いよいよか」


 目の前に現れた武器は5つ。短剣、長剣、斧、ハンマー、杖。鍛冶屋といえばハンマー。そんな安直な考えの元、俺は1メートル程度の柄に人の頭程度の石の球が取り付けられたハンマーを選んだ。


「それではお嬢ちゃん、良い旅を」


 マネキンは消え、今居る白い空間の床、壁、天井が青い粒子となり消えて行く。薄れゆく壁の向こうには草原が広がっており、恐らくチュートリアル用である魔物、見た通りで名前を想像するのであれば『スライム』であろうそれが目の前に佇んでいた。

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