あっちこっちへ
母と祖母の死、父の暴力やネグレクト経て花子は、その後施設や親戚の家で過ごすことになる。
施設にいた時間は幼少期の中では最も穏やかで、心の余裕から友人と遊ぶ機会も多かった。
しかし、引き取った親戚とは非常に折り合いが悪かった。それというのも、厳しい躾がなされるその家において、まともな躾などロクに受けたことのない花子は順応することができなかったのである。
家事の能力も学習の能力も基礎から出来上がっていない花子に、親戚は厳しく接する。特に、『アナログ時計が読めない』件を恥じていたようで、何秒以内に時刻を答えられなければ夕食抜きだとか、そんな教育が施された。
更には、老人もいる家だったため介護が必要となり、当然花子に白羽の矢が立った。この頃中学生の花子は、無報酬のヘルパーとして働くことを要求される。
褒めて伸ばす、これは幼少期には必要不可欠であり、ここから自己肯定感や次の挑戦への糧を得ていくものだが、親戚宅でも花子がそれを享受することは叶わなかったのだ。
介護していた老人が亡くなって間もなく、親戚は花子を『返品』した。
その後18歳まで施設で過ごす、なんてことには、残念ながらならなかった。
再婚して家庭を持った父が、花子を連れ戻しにやってきたのである。それは、花子が高校に上がってすぐのことだった。
父の再婚相手——花子の継母は、3人の幼い子供を持つ高校教師。夫が連れてきた花子に対し、彼女は『息子ならともかく、こんなに大きい娘を愛せるわけない』と溜息を吐いた。
そうして、実の父親、継母、連れ子たち、継母方の父である義祖父。計6人が、花子の家族となる。




