ざまぁな真相
今回の件は簡単に言うと、ハーバー公爵家の婿による妻暗殺と乗っ取りだった。老い先短いであろう公爵は自分を通り越して孫娘を次期公爵にしようとしている。成人となるまでは妻が後見人となり、婿の立場の自分には資産を自由には出来ない。おまけに娘の夫となるのはこの国の王子である。子供ながらに自分の思うままにはならない。
だったら殺せば良い。生き残った自分が次期公爵となり、愛人との間の息子を家に入れれば跡継ぎに問題は無い。
しかし上手くいかなかった。娘は傷はあれど生還し、意識もしっかりしている。だから薬を盛り、意識を朦朧とさせて領地へ返した。傷を理由に婚約破棄もさせた。
けれど公爵はミラを次期公爵に指名した。ただし条件付きで。ミラがどこかの家に嫁ぐのであれば考え直すと。
だからミラが良いと言った男がいれば婚約破棄させて、結婚させようとした。コロコロと変わる相手にも我慢した。
何故ここまで知っているかと言うと、隣国に残した母に逐一手紙を送っていたからだ。もっと言えば襲撃も隣国の影に命令した。もちろん影は動かず隣国を伝ってこちらの王族に露見した。
「もちろん襲撃は狂言だ。首謀者が本当にお前か疑われてな。調査に時間がかかった。やっと調査が終わると、今度はミラ嬢から芝居をするから卒業パーティーまで待って欲しいと言われて、ずっとこの時を待っていたんだ。」
王弟は苦労を思い出したのか眉間を揉み、騎士に合図する。
「国に連れ帰るようにと兄に言われている。暗殺計画などで厳しく裁判するから覚悟しろよ。」
へなへなと座りこもうとする父を騎士は許さず、チャーリーは声を上げた。
「私はこの件には関わっておりません。全ては父が行ったこと。伯父上、どうか私を隣国で騎士にしてください。」
こちらの国での爵位は無くとも、隣国では父は罰せられても王族。国王は伯父だ。隣国はこの国よりも強大だ。剣の腕はある。立場は上になれるだろう。チャーリーは先程クリスティーヌに「世間知らずのお坊ちゃま」と呼ばれたことを忘れていた。
「二言は無いか?北東の騎士団に空きがある。そこであれば雑用係から雇ってやるが。」
眉間に皺を寄せた王弟が言えば、騎士の礼をしてチャーリーは返事をする。
王弟の深いため息のあと、ミラがケラケラと笑った。
「申し訳ございません。耐えられませんわ。」
扇で必死に口元を隠し、肩を震わせていると隣のクリスティーヌもアンジェリーナも笑いを噛み殺している。会場の一部も意味が分かったのか失笑が聞こえる。
「何がおかしい。無礼だぞ。」
チャーリーが噛み付けば、ようやく笑いをおさめたミラが応えた。
「ごめんなさい。お兄様があまりにも無知だから。北東の騎士団と言えば、少し狂った方が多くて。雑用係は3年も持たずに自殺か殺される。伝統の床磨きがあるそうです。」
「裸でするんだよ。助かる。人手不足なんだ。」
話の続きを引き取った王弟は騎士に合図をし、チャーリーを拘束した。
「何でそんな所に?私は王族ですよ!」
抗うチャーリーに陛下はミラを見つめた。
「息子の言った通りになったな。この男が静かに退場すれば言わなかったんだが、もう1つの秘密も話さねばならないか。」
「私が教えますわ。可哀想な坊っちゃんに。」
髪を解いたクリスティーヌが楽しげに微笑んだ。
私たちの結婚は生まれた時から決まっておりました。
結婚後、1年経っても子供は出来ません。念の為と調べると、夫はどうやら幼少期の高熱で子供を作れない体になっていました。ですから父が陛下に抗議を致しました。私は一人娘なのに、黙っていれば血を絶やすことになります。事情を知っていれば無駄なことをせずに親類から養子も選べるのに、なぜ教えないのかと。
すると陛下たちはご存知ないとお答えになりました。だから今度は我が国から隣国に抗議をしたのです。これは我が国の公爵家を潰すための裏切りではないかと。すると隣国の国王陛下もご存知なかったのです。どこで情報が消されたのか隣国に調べていただくと、夫の母君が隠していらっしゃったようでした。だから夫から母君に送るお手紙は全て検閲が入ったのです。
「ではミラと私の父親は?」
呆然とするチャーリーにクリスティーヌが扇で口元を隠した。
「ミラは陛下の許可を得て、私の初恋の方にお願いしましたの。これで夫とも離婚になりますから、その方と結婚しますわ。あなたの父親は、お客の誰かでしょう。旦那様以外は平民だった筈だけど。」
「私には子供が出来ない。」
「ほら旦那様が可哀想な事実を知ってしまったわ。あなたも貴族の血が混じっていると思っていたのに、平民と娼婦の子だと知ってしまうなんて。」
夫と、その息子の筈だった青年は体から力が抜けたのか無言になった。
「私、お兄様は知っていたと思っていました。だってこう言いましたの。『結婚する前に1度味見をさせろ』と。血が繋がっている妹には言わないでしょう。」
ミラの言葉で厳しい視線がチャーリーに向かい、騎士の拘束が強くなった。
騎士により連れて行かれる2人を見送っても、卒業パーティーを再開する雰囲気にはならない。ゆっくりと解散する空気が広がる中、ミラが動いた。
舞台上に取り残されていたリオンの元に向かい、心配そうに声をかける。
「大丈夫ですか?座りますか?それとも横になれるようにベッドでも?水は?それとも酸っぱい物でも?お医者様を呼びましょうか?」
質問の内容にご婦人たちが首を傾げ始める。
「まるで妊婦に質問するような内容ね。」
アンジェリーナがのんびりと話せば、リオンはお腹を押さえた。
「だって事実ですもの。お腹の子はチャーリーのでしょう?我が家からは何の援助もしませんが、平民の子をどうか頑張ってお育てくださいませ。」
静かに泣くリオンは教師に連れられて家に返された。
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