婚約破棄三昧の妹
10歳までのミラは活発で利発な美少女だった。産まれてすぐに第2王子と婚約し、仲睦まじく過ごしていた。
それが変わったのは領地の別荘にて賊に襲われ母が殺され、ミラ自身は誘拐されてからだ。1ヶ月後に助け出されたミラは公爵令嬢として致命的な左頬に大きな痣や腕に傷をつけて帰ってきた。父は婚約していた王子に解消を願い出た。本人はショックが激しく茫然自失となり、領地へと戻された。ミラが行方不明の中行われた母の葬式は遺体の特に顔の損傷が酷いと棺の扉は開けずに、ひっそりと行われた。
それから半年後に父は娼婦と10歳の少年を屋敷に迎え入れた。別荘に居なかった理由が愛人というのは皮肉なものだった。チャーリーの母はミラの母の取り巻きが怖いと一切社交もせずに暮らしている。
貴族の一縷の望みをかけられたミラは5年が経ち王都に戻ってきたが、優秀な頭脳はそのままにけばけばしく派手な女に成り果てていた。左手には常時黒いグローブをはめている。水がかかってグローブを外した姿を見たものによると、白く艶かしい腕にはまだ火傷や傷が残っているらしい。化粧が濃いのは痣が残っているからだと、胸元から見える小さな傷跡から貴族たちは推測している。
父はミラに王都の外れの屋敷を買い与え、公爵家のタウンハウスには入れずに妻にした女を守っている。ミラが住む屋敷には療養に同行した老執事とメイドが数人しか居ないが、噂によると自称画家が入り浸っているという。
どんな絵を書くのか同級生が聞くと、ミラは輝くような白い二の腕を目の前にしてみせた。
「体に描くから、ここでは無理よ。我が家ならお見せするわ。」
その言葉と動作に初なご令嬢は倒れたらしい。療養中も親交のあったアンジェリーナや、母の旧友の夫人、未だに次の婚約者を作らない第2王子も出入りするという屋敷で何が行われているかは分からない。
「父上はこれからいらっしゃるだろう。すぐに了承を頂ける。お前はそのまま馬車に乗り、修道院に連れて行かれるんだ。お前のドレスや宝石は売っぱらって、リオンのウエディングドレスの支払いにでもあててやろう。」
「そんな事よりもお兄様、今日は私の誕生日だとご存知かしら?」
そんな事と遮られたチャーリーは怒鳴る。
「話を聞け、ミラ!お前の誕生日がどうした。1つ老いただけだろう。そのドレスも直に似合わなくなる。」
今は似合っていると、うっかり認めたチャーリーをミラは笑った。
「お兄様にとって私の誕生日はとっても大事な日よ。」
ご機嫌なミラにイライラとしながら、入口に父を見つけたチャーリーは鼻で笑う。
「父上がいらっしゃったぞ!あぁ父上、アンジェリーナに婚約破棄を言い渡してやりました。ミラと共に修道院で一生独身で暮らせばいい。そうですよね、父上!」
主人に擦り寄り褒美を貰おうとする犬のような態度に周囲は顔をしかめ、父は青くなった。
「チャーリー、なんて事を。アンジェリーナ、ただの冗談だ。卒業パーティーの余興だよ。ミラ、お前は結婚しなさい。素敵な人を私が見つけてやるから。」
息子が貶めた2人に父は尻尾を振る。近寄ってくる父にミラは扇を突きつけた。
「まずはお誕生日おめでとうでしょう?お父様。ずっと私が成人する日を怯えて暮らしてらしたのね、少し痩せたみたい。今まで苦労が絶えなかったのね。これからは私の後見人ではないのだから、ゆっくり暮らしてね。私が公爵になって、立派に領地を繁栄させるわ。」
笑顔で告げたミラを父は宥めにかかる。
「これまで通りにしよう、ミラ。そうだ、領地が好きなんだろう?あちらで好きな男を見つけて。平民でも商人でも、また男爵家の男でも選んで結婚するといい。」
「お父様。王都での公爵代理のお務め、お疲れさまと言っているのよ。」
ミラは父の言葉を無視して、カーテシーをみせる。
「公爵代理?」
チャーリーは全く話についていけない。
「おい、ミラ!父上は公爵だぞ。そして嫡男の私が次期公爵だ!」
声を張り上げても、父も誰も同意しない。後ろにいるリオンは不思議そうに周りを見ているだけだ。
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