第87話
「そんな難しい質問の答えなんて私には全然わからないよ。私の学校の成績よく知っているでしょ?」
笑いながら私は言う。
「茶化さないできちんと質問に答えて。僕は真剣そのものなんだよ」
王子様は言う。
開けっぱなしの窓から夏の終わりの風が私たち以外誰もいないからっぽの教室の中に吹き込んでくる。
その髪が綺麗な王子様の髪を優しく揺らしている。
「ごめん。真剣になって考えてみたけどやっぱり全然わかんないや」
冗談ぽい口調で(赤い舌を出して)私は言う。
「そっか。残念だな」
少しだけ身にまとっていた緊張を振り解いて王子様は言う。
それから王子様は一度だけ茜色に染まり始めている窓の向こう側にある夕焼け空に目を向けてから、私に視線を戻して、しっかりと私の目を見つめながら「じゃあ正解を言います。それは自分の『愛する人』を見つけることです」と本当に優しい顔をして笑いながらそう言った。
王子様の言う愛する人を見つけることが、どれくらい大変なことで、どれくらい難しいとこで、どれくらい(王子様の言う大切の言葉通りに)大切なことなのか、私には全然理解することができていなかった。
きっとそのせいなのだろう。
私はこのあと王子様から「あなたのことが好きです。僕とお付き合いをしてください」と言われたのに、私はその王子様からの勇気を振り絞った告白を「ごめんなさい」と言って断ってしまった。(私は全然、恋愛に興味がなかった)
すると王子様は笑ってから、「そっか。君は、たぶんそう言うのかなって思ってた」と私に言った。
それから王子様は椅子から立ち上がると、私をみて「いつか君を振り向かせることができるくらいかっこいい人になります。それまで、あなたのことを今までと同じように片思いのままで愛していてもいいですか?」と王子様は言った。
私は王子様に「いいよ」と言った。
王子様と別れて家に帰ってから、それから私は一人ですごく考えた。頭の良くない頭で必死になって考えた。
人を愛するっていったいどういうことなのだろうっ、て。
あの日、あのときの王子様の顔を思い出しながら、私はあのときからずっと、そのことを考えるようになったのだった。




