第55話
『さなぎちゃん。ほら、早く、早く』
妖精さんは小声でさなぎにそう言った。
「うん? なにか小さな声が聞こえる気がする。もしかして、さなぎちゃん。さなぎちゃんの友達の妖精さんがなにか言ってる?」
なんだか子供みたいに目を大きくして、じっとさなぎのほうを見るようにして、のぞみさんがそう言った。
「いえ、別に」とさなぎは言う。
「あ、さなぎちゃん。今、嘘ついたでしょ?」のはらがいう。
「えっと」
のはらにすぐに自分のついた嘘を見破られてさなぎは動揺する。
「じゃあ、やっぱり妖精さんがなにか言っているのね。どこ? どこにいるの? 妖精さん」のぞみさんはいう。
困ってしまったさなぎは仕方なく本当のことを言うことにした。
妖精さんがのぞみさんには自分の姿が見えて、声が聞こえるかもしれないこと、それからさなぎは妖精さんのことをのぞみさんに紹介したいけど、妖精さんは大人の人には自分の姿は見せないほうがいいです、と言っていること、そのことを妖精さんとさなぎが(話し合いの結果)約束していること、などを素直に話した。
そのお話を聞いてのぞみさんは「なるほど」と言って納得した。
「まあ、私から教えても良かったんだけど、せっかく今日は家にお母さんがいるし、お母さんから教えてもらったほうがいいかなって、そう思ってさ」
いつもののはらに戻ったのはらが笑顔で言う。
「うん。別にいいよ」
のぞみさんが言う。
「よろしくお願いします」ちょこんと頭を下げてさなぎが言う。
「そんなにかしこまらないでよ、さなぎちゃん。そんなに大したお話じゃないんだからさ」
笑顔のままでのぞみさんが言う。
「えっと、じゃあ、お話するね。私たちが幸せになる方法についてのお話」
そう言いながら、のぞみさんは真っ白なソファのさなぎとのはらのいる真ん中のところに強引に「ちょっとどいてね」と言いながら座ってきた。
それからのぞみさんはさなぎを見ながら「まずはその一、あんまり怒らないこと」とにっこりと笑いながら言った。
「あんまり怒らないこと」
さなぎは言う。
『ふんふん。怒らないこと。なるほど』
さなぎのポケットの中で妖精さんが小さな声でいう。
「そう。怒らないこと。普段、生活をしていて、日常の生活の中で、ああ、私はなんて不幸なんだろう? とか、どうしてこの人はこんなことを私にしたり、言ったりするのだろう? とか、どうして私はこんな(求めているものとは違う)生活をしているのだろう? とか、まあ、いろいろとあると思うんだけど、とりあえずは怒らないこと。これが幸せになるためにまずは基本になる生きかた。あるいは方法だね」とのぞみさんは言う。




