完璧メイド、異世界転移せずだらしがない駄女神様の専属メイドとなる
これはとあるメイドの物語である。
彼女の名はアシュリー。お掃除から護衛まで何でもこなす完璧メイドだ。
しかし現世のご主人様を庇い悲運の死を遂げた彼女。
幸運な事に働き者の彼女は運命の女神の目に留まった。
「あなたを異世界に転移させてあげる」
女神の提案はこうだ。
完璧メイドとして姿・能力・記憶を維持したまま異世界へ転移させてくれると。
どこの馬の骨かも分からない人間や犬や猫等の小動物に転生するよりも万倍お得である。
しかしメイドの答えはこうだった
「あの…部屋の掃除をしてもよろしいでしょうか?」
「へ?」
女神の部屋は脱ぎ散らかした服やお菓子の袋等で散らかっており、
完璧を目指すアシュリーとしては許せない状況だった。
「え、いいけど…」
「では早速」
メイドのアシュリーは女神に掃除道具を出して貰うとさっそく掃除を開始した。
アシュリーは慣れた手つきで部屋を綺麗にしていく。
脱ぎ散らかした服は洗濯し干し、ゴミはゴミ袋に入れてまとめておく。
「失礼いたしました、では話の続きを・・・」
「すごーい!あんた中々やるじゃない!」
「これもメイドの嗜みですので」
汚部屋を新居同然に綺麗にされ驚く女神、いや駄女神。
女神はふかふかのベッドにダイブするとにやけ顔でじたばたする。
「いやー、快適快適。こんな綺麗な部屋久しぶりだわー」
「お喜び頂きなによりです」
女神の満足そうな顔を見て深々とお辞儀をするメイドのアシュリー。
「じゃあさっそく話の続きを―」
ぐー
「あ」
女神の腹の虫が話を遮る。
「よろしければお食事の準備もいたしましょうか?」
「お、お願いします!」
アシュリーは女神の部屋のキッチンを漁る。
しかし冷蔵庫にも台所にも碌な物がなかった。
年頃の娘の部屋なのにお酒とインスタント食品しかなかった。
「あの、買い物に行きたいのですが」
「あーはいはい異世界転移ね」
「いえ、現代に戻してください。異世界では私のお金が使えないので」
「ごもっともで…」
―
「ただいま戻りました」
「メイドちゃん、おかえりー」
さっそく散らかっている女神の部屋。
アシュリーは女神を部屋から追い出すと掃除を再び行い、
そして料理を始めた。
「ディナーの時間には早いので軽食をご用意いたしました」
メイドがBLTサンドを用意し、紅茶と一緒に机に置いた。
「何これ、超おいしそ~!」
「では私は台所の後片付けがありますので」
「ひゃーい(もぐもぐ)」
威信の欠片も無い女神はBLTサンドを頬張りながら頷いた。
―
「さて食事も片付いた事ですし話の続きを」
「話の続き・・・なんだっけ?」
「私を異世界転移するかどうかの話です、女神様」
「あ、そう、それそれ。もういいわ」
「はい?」
キョトンとするメイドのアシュリー。
「私の専属メイドになって貰う事にしたから。よければ永続雇用で」
「承知致しましたご主人様」
「え!?いいの!?ラッキー♪」
こうして新しいご主人様を見つけたアシュリーは、
異世界転移も異世界転生もせず、駄女神様にご奉仕を続けたのであった。
―
「メイドちゃーん、異世界転移・転生の未解決リストがこんなに溜まっちゃったよー;」
大量の仕事の書類を抱えた女神はアシュリーに泣きつく。
「かしこまりましたご主人様」
アシュリーの平穏な日々はまだまだ遠い様である。