イマジネーティブ・ワールド ~小説家の妄想力で世界を救う!~
2051年、約20年前にスマートフォンに代わる新たな通信手段として提唱されて以降普及している眼鏡型通信端末・メガネフォンのアプリケーションが突如として故障した。
そんな中で、高校生ネトノベ作家の私は、《故障》と出くわした。
ニュースで流れてくる情報によると、《故障》からは逃げるしかないという。
しかし昨日の情報では、《故障》を想像力によって解決できるようになったという。
そんな情報に命を賭ける気はさらさら無い。
私は逃げる事にした。
《故障》は足が遅かった。
すぐに逃げられた私は、メガネフォンで緊急通報して、避難を促した。
翌日の事。
《故障》は学校周辺を未だうろついており、休校となった。
何故《故障》が恐れられるようになったか。
そろそろこれについて述べておこう。
我々の付けているメガネフォンは、着脱可能な部品と着脱不能な部品に分かれている。
情報をより効率的に処理するため、0歳段階から既に脳に電極を突き刺しているのだ。
そしてその《故障》は、着脱不能部品の中にあるネットワーク部品から脳に侵入する。
脳は乗っ取られ、かくして人は凶暴化する。
現在もその凶暴化を止める術はなく、麻酔銃を撃って鎮静剤を四六時中投与するくらいしか方法は無い。
しかも脳内のウィルス除去を試みた所、自爆プログラムにより脳が植物状態にされたという。
つまり「逃げるしかなかった」のだ。
結局その時は翌週になってやっと、《故障》はどこかへ行き、学校は再開された。
午前8:00。授業が始まるまで30分といった時だった。
学校のシステムがダウンした。
またもや休校か。生徒らがそう談笑する中で、学校は《故障》に感染した。
感染した細胞はウィルスを撒き散らす。
まさにその通りだった。
校舎内にいた生徒が暴徒化し、登校中の生徒を襲い始めた。
私も襲われたが、何とか運動部の部活棟に数人で籠城する事に成功した。
とはいえ扉一枚隔てた先の数十人が攻勢を弱める気配はなく、食糧も無い。
幸いにして《故障》は物理的障害物である部活棟という存在に邪魔され、我々が見えていない。
包囲する生徒からその様子を察する事もなく、我々だけが助かった。
生徒の殆どが迎撃され、一部の生徒は裏山からどこかへ逃れた。
校内に残るは我々4人。地域住民も汚染され、市街を東西に横切る大川以南に、他の生存者はいなくなった。
幸いな事に、包囲していた暴徒らは周囲へとバラけてくれたので、いつでも出られる。
このまま籠城戦を続けても勝ち目はない。
しかし方策が無い。
今残っているのは私と次の3人だ。
曽我美幸: 地元の隠れ名家出身故か、たまに常識外れな発想に至る。でもそれを知っているのは私くらいしかいない。私とは幼馴染だが、最近は全く話せていない。結果至上主義で基本的に他人に関心がないが、才色兼備とはこの事かと思われるほどに頭脳明晰で美人。背丈は低めで、髪型は不定。現在はポニーテール。
刈谷雪乃: 美幸とはよく話す仲で、私ともよく話す。最近では美幸との間の通訳のような存在になっている。美幸と私の仲について知っていて、事あるごとに付き合えと言ってくるお節介。
田中優太: 私の親友。雪乃に恋心を抱いており、美幸を足掛かりにしようとしたものの拒絶され、何とか仲良くなろうとしていた所を美幸への恋心と勘違いした私が詰問。誤解を解いて以降は親密であり、私も雪乃へのアプローチに加担している。
当時、私は優太の恋を応援していたため、雪乃との会話は優太を介していた。優太が雪乃と話す口実を作っていたのだ。
そのため、美幸と会話するには、私⇔優太⇔雪乃⇔美幸という図式になっていた。
「優太、雪乃に『美幸にこれからどうする?』って言ってと伝えて」
こんな調子であるから、美幸が遂に呆れてこう言った。
「あんた達は私と違って両想いなんだからさっさとくっつけっての!」
優太と雪乃は互いに顔を見合わせる。
「えっ?オレ/ワタシら?」
「そうよ、そしてこの下らない会話方式を改めるのよ」
美幸はいい加減にしろという風な顔をしてそう言う。美幸にも好きな人が居るのだろうか。
こんなプチ・ラブコメイベントのような事も起こったのだが、どうするかの結論は出ていない。
寧ろ、優太と雪乃がくっついて議論の参加者が4から2に減ってしまったくらいだ。
2人は別の所で楽しく歓談している。つーかそんな場合かよ、おい。
「外に出ても《故障》が居るのはどうする?想像力で戦えるって言われても魔法が使える訳じゃないし…」
そう美幸が呟いた瞬間―対抗手段が選択されました―とニュースが入った。
「プレイヤー名ミユキ・高位魔術師Lv9999」
これが表示された瞬間、私は絶望し、美幸は訊いてきた。
「これは何だろ?」
間違いない。これは私が書いている小説の、美幸をモデルにした登場人物・ミサキのデータそのままのものだ。
ならば私は?
プレイヤー名が個人名に変換されただけで、あとはステータスそのまま。
ジョブは詐欺師。
通常攻撃力がゼロである代わりに、周囲の思い込みが強ければ強いほどに攻撃力が上がる、ユニーク過ぎるジョブだ。
我ながら、こんなジョブをどうして考え出してしまったのだろうと思う。
敵味方関係なく全員を騙し続ける事により効果を発揮するのだが、裏を返せば知られてしまえば無用の長物だ。
しかし攻撃力がゼロである代償として、HPは通常の2倍くらいある。
そんな事を考えていると、美幸が話しかけてきた。
「詐欺師…?」
あっバレた。しかしこのジョブの説明については誰も知る訳がない。私が投稿した小説のブックマーク数はたった1。よってセーフ。
「まさかだけど…それって『思い込み』で作用するジョブじゃないよね?」
何で知ってんの。
「1つしかないブックマークって…」
そう問いかけると、言い終わらないうちに
「そうよ」
と美幸が言う。あの小説には私の妄想がふんだんに入っていたのだが―美幸に全部筒抜けだったなんて!
現状確認は、最も悲惨な形で終わった。
美幸をモデルにして隠れて書いてたネトノベが本人にバレてしまった案件によって。
美幸と私は同時に残りの2人のジョブを見た。
2人は作品には登場していない。つまり多くの一般人は優太や雪乃のようになっていると期待できる。
イチャイチャしている2人のステータスを開くと、次のように表示された。
「プレイヤー名ユウタ・平民Lv.1」
「プレイヤー名ユキノ・平民Lv.1」
この小説の中ではレベル上げをとにかく超面倒にしていた事を深く悔いた。
レベル上げには2のレベル乗の経験値が必要となる。
つまり、最大レベルの9999に上げるには2^10000の経験値が必要となる。
10^3000程度の経験値。1回の経験値周回で得られる経験値は上限100であるから、10^2998回の周回が必要となる。
何年かかっても無理な数値だ。
取り敢えず私達はステータス偽装スキルを獲得して、それぞれLv.2とLv.3という事にした。
そんな事をしているとイチャイチャしていた2人も流石に気付いたようで、自身のステータスを確認する。そして言ってきた一言。
「なんで2人ともレベル上なのよー」
「最初からレベル2とかズルいだろー」
本当はレベルカンストしてるんだけどなぁ。
何はともあれ、これなら《故障》を倒せるかもしれない。
扉を開けると、そこには《故障》が居た。
優太と雪乃は奥で震えて肩を抱き寄せ合っている。せめてどっちか守り役になろうよ。
美幸と私が《故障》を左右から挟む形で同時に駆け出す。
美幸が魔法で結界を作り出し動きを封じ、同時に「詐欺師」の能力で作り出したバズーカを発射する。
このバズーカの性能は、奥で震えている2人がどれほどの威力を期待するかに掛かっている。
美幸が表面だけ爆発を起こすようにはしてあるので、見た目は大爆発になる。
威力は奥で怯える2人の期待次第、果たして。
轟音の前の大爆発(但し美幸の演出)と共に、《故障》が倒れこむ。
「ダメージ累計: 2^100」
ダメージの計算は〔期待率〕×〔獲得済累計経験値〕で計算される。
つまり10%しか期待されてなかったらしいが。
「人類初の《故障》解決」
翌日のニュースではもうこの話題が持ち切りであった。
「小説家の想像力、世界を救う?」
まさか私の書いた妄想小説が《故障》を倒してしまうとは。
このニュースの所為で美幸としたい事を綴っただけの妄想小説のPVは爆上がりしてしまった。
しかしこれは同時に、有名になってしまった小説の設定通りのステータスである事を隠すという、地獄の生活の始まりでもあった。
~役立たなかった悲しいセカンドジョブの話~
そういえば、と思ってセカンドジョブを見てみる。
ここには「兵器開発科」というジョブを設定してあった。
小説の中では、好きな兵器を作り出し、その攻撃力を自身で設定可能というものだ。
但し、攻撃力の分だけHPを消費してしまうという難点はあるのだが。
幸いな事に、ファーストジョブ「詐欺師」が奪う攻撃力は自身の攻撃力のみ。
つまり、HPを削る形ならば、遠距離に限って確実に攻撃可能なのだ。
先程のお飾りバズーカにも多少その効果を付与しておいたが、2^100という火力は出せない。
殆どは「詐欺師」のお陰だったのだろう。
評価☆☆☆☆☆など下さると嬉しいです!
レビューなど下さると続編書いちゃうかもです!