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オカルトマニアのぼくっ娘と陰キャオタクな先輩のラブコメホラー(仮)

【悲報】時間停止モノAV、9割がヤラセだった

作者: 大萩おはぎ

○登場人物


ぼく:本作の語り手。カメラ片手にオカルト蒐集や謎解きに情熱を燃やす変人。実は女の子。


先輩:アニオタにして、学園随一の秀才。学食の食券と引き換えに、”ぼく”の謎解きに協力する。重度の懐疑主義者で、「この世には信じられるものなど何もない」という信念を唯一信じている。


 私の地元は高校から電車で一時間ほど行った田舎街です。

 これは、私が地元の小学校に通っていた頃に体験した不思議な出来事です。


 田舎って、いわく付きだとか、所謂(いわゆる)”入ってはいけない場所”みたいなモノがあるじゃないですか。

 コレって田舎あるあるだと思うんですが、何故か誰も同意してくれません。

 とにかく私の地元ではそういう場所が確かにあって、神社の裏山には誰も入っていけないと言われていました。奥に進むと迷ってしまうから、と。

 でも子供って、「行くな」と言われたら行く生き物じゃないですか?

 だから私も、友達を誘ってそこに行くことにしました。


 裏山に入って、深くなる森林をかき分けるように進みました。

 ちょっとしたひと夏の冒険ってつもりで、遭難するんじゃないかなんて危機感は頭にありませんでした。

 だけどなぜだか、私はどんどん奥へ踏み入っていました。脚が軽かったのです。

 友達は「疲れた」とか「暗くて怖いよ」と文句を言い始めたのですが、何かに導かれていたのかその時の私は奥へ進み続けることにこだわりました。

 やがてケンカになって、友達は先に降りてしまいました。


 その後、たった独りで夜になるまで歩き続けた私。

 どこを進んでいるかなんて全くわからなくて、でも「迷った」なんてさらさら思っていなくて。何かに導かれる感覚のまま進んでいたら、いつの間にか到着していたのです。

 そこは、木々が育ちすぎて足元の草木が育たなくなった森の奥の中で、なぜだかその地点だけが背の高い草にビッシリ覆われた場所でした。

 周囲を取り囲むように伸びた五本大木の間がしめ縄のようなモノで結ばれていて、五角形に囲われていました。

 私は何も疑問に思わず、胴体くらいの高さのしめ縄の下をくぐって中に入っていきました。


 次の瞬間、誰かに腕を掴まれました。

 ビクリと身体がはねて、振り返るとそこには両親がいて、私の腕を掴んでしめ縄の外に引っ張ったのです。

 周りには両親だけじゃありません。地元の大人たちがたくさんいました。

 先に下山した友達もいました。ワンワン泣いていました。


「勝手にいなくなって、心配したんだぞ!」


 お父さんは私を抱きしめました。何を言っているのか、どういう状況なのかわからなくてなんとなく空を見上げると、いつの間にか日が昇っていることに気づきました。

 その時私は気づいたのです。

 山をさまよっているうちに夜が明けていた。私は遭難したと思われて、捜索されていたのだと。

 しかしそんな私の仮説はすべて間違っていた(・・・・・・・・・)のでした。


「本当に、三日もどこに隠れてたんだか」

「え?」


 三日? 私は父の言葉に耳を疑いました。


「三日? 一晩じゃなくて?」

「何言ってるんだ。三日前に家を抜け出してから今までずっと山の中にいたんだろ?」

「お父さん、昨日の夜……ていうかさっき来たばっかりだよ……?」


 私と父の話は全く噛み合わないまま、私は大人たちに連れられて下山しました。

 後になってわかったのですが、本当に私と友達が出発してから三日が経っていました。友達は先に下山してから、戻ってこない私を心配して大人たちに相談。

 そこから捜索隊が結成され、三日間の必死の捜索の末に私が発見されたようでした。

 発見された時の私は、しめ縄の内側でボーっと立っていたらしいです。お父さんが腕を掴んで引き寄せると、とたんにハッと目覚めるように動き始めたとのことでした。


 その後は特に健康に問題もなく、普通に生活しています。

 あの出来事が気になって、地元の大人や神社の神主さんに山の奥のしめ縄に囲まれた場所の件を聞いたのですが、「何もない」とのことでした。

 はぐらかしているとか隠しているとか、そういう様子はなく、本当に「神隠し」みたいな伝説とか言い伝えはないのです。

 「神社の裏山に入ってはいけない」という教えは、単純に遭難しやすいから。それだけだったのです。


 だったら、私のあの体験は何?

 私にとって一瞬だった時間が、他の人たちにとっては三日間だった。

 あの場所だけ、時間が止まっていたとしか思えません。

 とても気になります。お二人は、こういう謎に詳しいと聞きました。

 どうかこの謎を、解き明かしてください。

 お礼は食券3枚で♡




   件名:神隠し、あるいは時間が止まる場所。




「田舎だな」

「田舎ですねー」

「マジで田舎だぞ、ここ。ほら見ろよ、木の上にひっかかってるアイツ。蜘蛛だ。クソデカい蜘蛛だ。蜘蛛がマジでクソデカい。蟲が異様にデカい地域は総じて田舎なんだ」

「先輩の田舎の定義、全力で偏ってません?」

「逆に、イオンがあったら田舎じゃない。コレ、豆な」

「『うちの地元はイオンあるから田舎じゃない』は田舎者の常套句(じょうとうく)十年連続No.1なんですけど? モ○ドセレクション金賞受賞しちゃいますけど?」


 他愛無い話をしながら、ぼくと先輩は山の中を歩いていた。

 ここは依頼文にあった「神社の裏山」。

 「神隠し、あるいは時間が止まる場所」の調査依頼をうけたぼくらは、電車に一時間ほど揺られ、降りると早速くだんの「五角形のしめ縄」を目指していた。

 依頼人がメールに添付してくれた手書き地図は正直心もとない。地形図と照らし合わせつつ進み、道筋はぼくが手持ちのビデオカメラで撮影。さらには定期的に目印を残して安全対策はバッチリだ。

 とはいえ山に入ったときには日が高かったハズなのに、もう日が傾こうとしている。

 夜になると遭難しそうだし、危なくなったら引き返そうかな――なんて考えていた、その時だった。


「なあ、知ってるか? 時間停止モノAVの9割がヤラセなんだってよ」

「は?」


 は?

 先輩の放言に、素で返すしかなかった。


「先輩……見てるんですか? そーゆーの」


 じとーっとした目つきで先輩を睨みつける。


「やめろ、その2週間放置した生ゴミを見るような目は」

「フケツです」

「やめろやめろ、わかったって。俺は二次元専門だから実写AVは観ない、俺が言いたいのはだなぁ!」

「つまりその――時間停止モノの……アレ、の1割が本物ってコトですか?」

「ああ」


 バカだコイツ。ぼくはそう確信した。

 ぼくの先輩は学園随一の秀才と言われている。アニオタで友達がいなくて、授業中いつも寝ているダメ人間だけど、テストは常に学年トップ。

 そんな頭脳をあてにしていつも学食の食券をエサに調査依頼を手伝ってもらっているんだけど――もはやその頭脳も当てになりそうにない。


「だったら先輩には何が残されてるっていうんですかぁ……ただでさえ友達も彼女もいないぼっちなのに……先輩がかわいそうです、あまりにもダメすぎて……生きてるのがかわいそう」

「おい……さすがに俺も泣くぞ。泣いちゃうからな? っていうか今までのは冗談だ、俺が言いたかったのはつまり――時間を止めるってのは、なかなかハードルが高いってコトだ。熱力学第二法則って聞いたことがあるだろ?」


 突如真面目モードになった先輩。目的地が近い、そう感じ取ったのかもしれない。

 夕日に照らされたメガネがキラリと妖しく光った、気がする。

 ぼくもふざけるのはやめて、いつものように謎の考察に入ることにした。


「エル○ンドルパサーの増大、みたいなヤツでしたっけ」

「なんでそこで凱旋門賞二着に輝いた日本競馬史上屈指の名馬が出てくるんだよ。それを言うならエントロピーだ」

「ええと、エントロピーってつまり、時間がたてば部屋が散らかっていく……みたいなコトですよね」

「極限まで簡略化して説明するとそうなる」

「ぼくの部屋が汚いのも熱力学第二法則のせいなんですね!」

「それは単にお前が片付けられない女だからだ」


 先輩は無慈悲に言い放った。


「つまり、現代の自然科学の原則に言わせれば『時間は不可逆』ってコトなんだよ。過去から現在、現在から未来に向かって流れ続けていくんだ。あるいは、矢のように方向性を持っていると捉えられている。量子力学的には少し違うが……それは今はいい」

「先輩が言いたいのは、時間が止まるなんてコトはほぼあり得ない……でいいんですよね?」

「ま、あり得ないなんてコトもあり得ないし、この世には決まりごとなんてないんだがな……しかし今は、時間が本当に止まるなんて想像は飛躍が過ぎると思う。そう思わせるだけの材料が足りない」

「ううーん……でも、依頼人の文章を素直に読み取るなら、その場所だけ時間が止まっていたとしか思えないんですよねえ」


 ぼくはこめかみに指を当ててうんうん唸った。

 先輩はぼくの考察を助けるように、優しい声色で言った。


「そもそも時間ってなんだと思う?」

「え……? それは、時計が一定のリズムで示す間隔のことですかね……」

「良くはないが、悪くもない。そいつはちょっと古い考え方だ。時間は常に未来に向かって一定間隔で進む、ってな。だが現在の解釈は違う。重力や速度の影響で時間の流れが違って見えるという現象が確認されている」

「そ、そーたいせーりろんってヤツですよね。りろん、りろんはしってます」

「そこで仮説1だ」


 先輩はカメラに向かって指を一本立てた。


「しめ縄の内側の重力ポテンシャルが特殊だった」

「は……はへ?」

 もはや話についていけない。

 先輩は構わず話を続けた。


「簡単に言えば、重力が強すぎて時間が遅れたってことだ。しめ縄内部は極度にゆっくりとした時間の流れ。外部は通常の時間の流れだったとして、依頼人が内部で過ごした数秒が外部では三日になった。時間は止まっていない。これが仮説1」

「嘘でしょ!?」

「ああ、嘘だ。嘘っていうか、かなり無理がある。こじつけだ。だいたいそんな高重力下で人間が生きられるわけがない」

「ですよねー」

「結局はアレコレ理屈をこねくり回すより――着いたぞ」


 そう言って先導していた先輩が立ち止まった。

 そこは森の奥の奥。五本の巨木が円状に並んでおり、それぞれがボロボロのしめ縄で繋がれていた。

 依頼人の言う通り、日差しが当たらず本来は地面の草花が育たないハズの環境下で、その場所だけは青々と背の高い草花が生い茂っていた。


 ぞくり。

 ピリピリと刺すような感覚。

 沈みかけの夕日が冷たく、木々の隙間から差し込んでくる木漏れ日が肌を撫でるたび、ぞわぞわと鳥肌がたった。

 そんなぼくの状態なんて知らねー、とばかりに、ボサボサ頭を掻きながら先輩が言った。


「で――どっちが入るんだ?」

「どっちって?」

「入るのはどっちか一人だろ。依頼人の体験がすべて真実なら、もしも『停止』しちまったら誰かが引っ張って外に出そうとするまで終わらないハズだ。だったら『入る役』と『出す役』が必要だ」

「……」


 正直、怖かった。

 情けない、ぼくは小動物みたいな潤んだ瞳で先輩を見つめた。

 先輩は、はぁーとため息をつき。


「ま、もしもの時は助けてくれよ?」


 しめ縄を潜ろうと身をかがめる先輩。

 その姿を見て、なぜだか胸騒ぎがした。ダメだ、行っちゃダメ――!


「っ――ダメ!」


 いつの間にか、ぼくは先輩の腕を掴んで制止していた。

 先輩は優しい声色で聞いてくれる。


「どうした?」

「なんか……心配になって」

「珍しいな、お前が俺の心配してくれるなんて」

「こっちは本気で言ってるんですからね!」

「わかったわかった。ヤバそうなら、今日はもう帰るか? 暗くなってきたし、これ以上かかると遭難するかもしれない」

「……ぼくが、入ります」

「いいのか?」

「先輩が外に残ってくれたほうが、なんとかしてくれそうだから」


 ぼくはそう言って、カメラを先輩に渡した。


「大切なカメラですからね、落とさないでくださいよ」

「ああ」

「先輩――信じてますからね」

「”信じる”ってのは、俺の信条に反するんだな……だが、出来る限り努力するよ」

「それでこそぼくの先輩です」


 ぼくは先輩に笑いかけた。精一杯の強がりだった。

 正直、ビビってる。

 ここはヤバい、脳がビリビリ揺れている。先輩は気づいていないかもしれないけど。

 ぼくだって、べつに霊感あるわけじゃないけど。

 それでも……。

 ぼくは一気にしめ縄の下をくぐり抜けた。


「っ――!?」


 その瞬間だった。

 先輩がぼくの腕を引っ張っていた。


「ちょ、先輩止めないでください! 今、ぼくが超カッコいいモノローグとともに覚悟決めたトコロなんですから!」

「は、何いってんだお前?」


 先輩は怪訝そうな目をぼくに向けていた。


「何って……今まさにしめ縄の中に入ろうとしたんじゃないですか」

「……」


 先輩は顎に手を当てて、何かを思案していた。


「なあ、お前。今日が何月何日かわかるか?」

「え――」


 ぼくが先輩に今日の日付を伝えると、先輩は「ふム」と唸った。

 そしてぼくに告げた。


「それは三日前の日付だ」



   ☆   ☆   ☆




 逢魔時(おうまがとき)

 夕暮れは、現世(うつしよ)常世(とこよ)が交わる瞬間だ。

 だから昔から、その時刻に人は化け物と出会うと言われていた。


 それからいろいろと先輩との問答があったけど結論から言うと、ぼくは三日後の夕方まで一瞬で飛んで(・・・)いた。

 まるでタイムスリップみたいな感覚だった。


「それにしても、先輩。ぼくがしめ縄の内側で三日間も停止(・・)してたのを黙って放っておいたんですか? ひどい人ですね……」


 先輩を睨みつけると、先輩は困った顔をして頭を掻いた。


「いや、お前は停止なんてしてない。してなかったんだ……」

「は、何言って……だってぼくの時間は実際に止まって、三日後にここにいたんですよ?」

「説明するのは難しいが、ここにカメラがある。お前がしめ縄の内側に入った後のことも記録されているが……」

「先輩?」


 先輩は、カメラを持って少し迷っているようだった。


「本当に、知りたいか?」

「もちろん、真実が知りたいです!」

「知らないほうがいいことだってある。もしかしたら、カメラに写っていないことが――お前の主観だけが真実かもしれない。時間が止まる場所は本当にあって、お前の時間は三日間停止した。それで終わったほうが良いかもしれないぞ」


 先輩は妙にまどろっこしい言い方でごまかそうとする時がある。

 正直そういう先輩はイラつく。軽く背中を蹴ってやりたくなる。


「いいから見せてください!」


 ぼくは強引にカメラを奪い、液晶画面で録画を再生した。

 狙いは三日前の夕方、ぼくがしめ縄に入った直後。


『それでこそぼくの先輩です』


 決死の覚悟を決めて、不安な面持ちのぼくが冷や汗を掻きながらしめ縄の下をくぐるぼくの姿が見えた。

 その後――ぼくは、五角形の中心で数秒立ち止まる。

 やっぱり止まってる……? そう思うのも束の間、カメラの中のぼくが振り返って言った。


『先輩、やっぱり何もなかったです』


「え……?」


 カメラの中のぼくはケロリと笑顔に変わっていたのだった。


『神隠しとか時間停止とか、結局は”気のせい”にすぎなかったんですねー』


 なんてヘラヘラ言いながら、「ぼく」はしめ縄をもう一度くぐって外に出た。

 そして信じられないことに――


『せーんぱい♡』


 先輩の腕にしがみついていたのだ。


「な、なにやってるの……?」


 困惑するぼくに構わず、「ぼく」は先輩に見事な涙目上目遣いで訴える。


『でも先輩、この場所やっぱり怖かったです。家まで送ってくれませんかぁ?♡』


 まるで語尾に「♡」がついてそうな媚び媚びの声色で先輩にくっつく画面の中のぼく(・・)

 『あ、ああ』と、先輩はぼく(・・)の豹変っぷりについていけず、困惑したまま二人でそのまま下山したそうだった。


「なんで、こんなコト……これ、ぼくじゃない……誰コレ……?」


 ワナワナと震えるぼくの身体。

 もうワケがわからなかった。ぼくは確かに三日間の時間を跳躍(・・)したハズ。なのにその三日間の間は、確かにぼく(・・)が存在して、先輩と会話して……。

 あまつさえ、こんなにくっついて腕組みまで――ぼくもまだこんなことしたことないのに!


「先輩?」

「な、なんだ……?」

「このままぼく(・・)を家まで送ったんですよね?」

「あ、ああ。震えてたからな。放っておいたらかわいそうだろ?」

「まさか……手、出してませんよね? 送り狼、シてませんよね!?」

「……シテナイヨ、ナニも」


 先輩は汗ダラダラでなんとか返答を絞り出した。

 一応、嘘じゃなさそうだった。知らないうちにエロ――じゃない、エラいことになっていたらもったいな――じゃない、本当にヤバかった。何がヤバいのかわからないけれど、ヤバかったに違いない。


 先輩の話によると、確かにその日の夜は様子がおかしかったらしいけどそれから二日間はいつものぼくと何も変わらなくて、違和感は一切なかったらしい。

 普通に学校に来て、授業を受けて帰っていたと。

 だけど三日目の今日、ぼく(・・)は不可解な提案をした。


『もう一度あの山に行きましょう。今度は二人で(・・・)しめ縄をくぐりませんか?』


 不思議に思ったらしいけど、実際先輩の目からみれば何も起こらなかったわけだし、二人で入っても問題ないだろうということで渋々着いてきたらしい。

 たぶん、一人で山に入らせるのは心配だという先輩の配慮もあったのだろう。

 そして、現在に至る。

 しめ縄の中に先に入ったぼくは正気を取り戻した。三日分の記憶は綺麗サッパリ消え去っていた。


「結局、どういうことだったんでしょうか」


 ぼくと先輩は二人で下山していた。

 日が落ちて、夜になっていた。目印があるし、先輩からすればもう何度か通った道だし、実はふもとからそう遠くないから遭難する心配はなさそうだった。


「どうって……記憶喪失?」

「そうなりますか」

「オッカムの剃刀(かみそり)ってヤツだ。俺たちは、ものごとを複雑に考えすぎだったんだ。実際はもっとシンプルで……そうだな、『あの場所に入った人間は、三日後に三日間の記憶をすべて失う』。理由はわからないが、そういうルールだと考えるべきなんじゃないのか?」

「……本当に、そうですか?」


 ぼくは納得できなかった。

 だってあの時のぼくは確かに先輩を内側に入らせるのが危険だと思ったんだ。

 だから自分で入ることにした。

 仮に、自分が入ってみて安全を確認できたとしても。ぼくが先輩をしめ縄の内側に誘うなんてコト――ありえるだろうか?


アレ(・・)は、ぼくじゃなかったと思います」


 ポツリと、そう漏らした。

 きっとカメラの中のぼく(・・)は、ぼくの顔をして先輩とぼくを連れ去ろうとする――山の怪物(モノノケ)だったのだ。

 いや、もっと正確に言えばたぶん、狙いは先輩だった。きっとぼくが先輩が入る瞬間に感じた嫌な予感は、当たっていた。ぼくは先輩を誘い出すエサだったのかもしれない。

 しめ縄は、現世(うつしよ)と死後の世界、常世(とこよ)を隔てる役割をすると言う。きっとこの五角形は、山の怪物を閉じ込める一種の”結界”だったのだろう。

 怪物は結界の中に入った人の身体に乗り移り、狙った””真の獲物””を誘い込む――。


「そうかもな」

「え?」


 先輩が意外にもぼくの説を肯定したので、ぼくは一瞬あっけに取られる。

 先輩は、恥ずかしそうに頬を掻きながら言った。



「やっぱああいうの、お前らしくないわ。なんつーか、変に素直過ぎる。もっとひねくれてるのがお前だよ」

「……先輩」

「なんだよ」


 ぼくは先輩の方に手を差し出して。

 震える唇で、言った。


「先輩が迷子にならないように……降りるまで手、つないであげてもいいですよ?」

「……ああ、助かる」




   FOLKLORE:神隠し、あるいは時間が止まる場所。 END.


本作をお楽しみくださった方はぜひとも評価をいただけると嬉しいです。

評価はこの下の☆☆☆☆☆を押せばできますので、面白かったという方はポチっていただけると作者のモチベがガン上がりします。


本作には連載版がありますので、そちらもよろしくおねがいします(下にリンクを貼っておきます)

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ΦOLKLORE:オカルトマニアのぼくっ娘と陰キャオタクな先輩のラブコメホラー
本ホラー短編シリーズをまとめた連載版です。
短編版に加筆修正を加え、連載版オリジナルエピソードも多数挿入しています。
本作を読んで面白かった方は是非お読みください!
― 新着の感想 ―
[良い点] 3日分の記憶がないんですよね。 3日間宇宙人に体を乗っ取られたんじゃなかと想像してしまいました。
[一言] うーむ、めちゃくちゃ好き・・・。 多分元ネタは洒落怖の時間が止まる場所がある、みたいなやつですかね。 それを想像していたらまさかの入れ替わりアンド三日間の記憶を失うという全く予想できない怪異…
[良い点] ラブコメからホラーの温度差がやばい。 結局何もわかっていないところがゾッとする。 [一言] イオンがあるのは田舎じゃない証拠なんだぁby北関東民
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