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第3話 パーティ追放


「ピケ、お前レベルなんぼになったんや?」


 浅黒い肌につり目の青年、カクータはピケを見下ろしながら言った。

 カクータの言葉にピケはビクリと震える。

 犬の耳と尻尾を生やした獣人の少年、ピケは3人のパーティメンバーに囲まれ、俯きながら答える。


「レベルは……3だよ」

「3!? なんやて! 聞いたか、お前ら! こいつまだ3やとぉ!」


 カクータと取り巻きの青年2人はゲラゲラとピケを嘲るように笑った。

 カクータのパーティは今から一年前に誕生した初心者パーティではあるが、他の同期パーティと比較しても抜きんでた成果を上げている。

 特にパーティメンバーのレベルアップ速度が著しく、それが功を奏して中堅どころの魔物でも倒せるようになっていたのだ。

 冒険者組合からの評価も上々。これからを大いに期待されたパーティだった。

 だが、ピケだけは違った。他の3人のパーティメンバーと比べると年齢差もあったが、それ以上にレベルアップの速度が全く違ったのだ。

 

 1年前は4人全員が同じレベル1でスタートし、同じ敵を倒してきたにも関わらず、ピケのレベルは3に届くのがやっとだった。

 反して、カクータらは誰もがレベル15を超えていた。

 通常の冒険者でも1年もすればレベル10には届くものなのだが、ピケだけはレベルアップが非常に遅かったのだ。

 

「お前なぁ……はっきり言って、ワイらの足手纏いやねん。ワイらとレベルが離れすぎとるわ」


 ピケは悔しさに歯を食いしばる。

 カクータの指摘はピケも常々気にしていた事だった。

 初めは良かった。

 年の離れている自分をパーティに迎えてくれた恩も感じていた。

 しかし、現実は非情だ。パーティメンバーとのレベル格差が広がっていくにつれ、ピケを見る目がどんどんと冷たくなっていった。

 

 だが、ピケも簡単に現状を受け入れたわけではない。

 一人だけ足手纏いになる事が嫌で、隠れてソロで魔物を倒しに行った事もある。

 だが、レベル3では味方がいなければ、どんなに弱い魔物も倒せない。

 ピケは一人で黙々と体を鍛える事しか出来なかった。

 それらが拍車をかけ、カクータ達とレベルに大きな差がついてしまったのだ。

 

「ピケ……お前、もうこのパーティから出て行ってくれへんか? このパーティが結成した目的は勇者選抜試験に受かる精鋭を作る事や。受かる見込みのない奴をここには置いとかれへん」

「……」


 ピケは呆然とカクータを見る事しか出来ない。しかしカクータの言う事も一理あった。

 ピケは血が滲む程、拳をきつく握り締める。

 この世界の勇者とは勇者選抜試験を乗り越えた者が名乗る事を許される称号だ。

 魔王を倒す為には必ずしも勇者にならなければならない訳ではないが、世界の名だたる英雄達の全てが勇者である。

 だが、その英雄達ですら魔王には全く歯が立たない。

 勇者選抜試験に通らないようでは魔王討伐など夢のまた夢。

 

 しかし勇者選抜試験は非常に狭き門で、試験に合格出来る者は極々僅か。

 そんな勇者選抜試験に合格する為にこのパーティは結成された訳だ。

 ならば受かる見込みの無い者はお払い箱になるのは当然の事。

 冒険者で名前が売れない程度の実力では、勇者選抜試験に勝ち残る事はまず不可能。

 それこそがこの世界の暗黙の了解だった。


「僕は……諦めない。絶対に……勇者になる」

「はぁ? 聞こえへんかったわ。もっかい言うてくれる?」


 カクータが嘲るように言った。笑いを堪え切れないと言わんばかりに唇を大きく歪ませる。


「僕は勇者になるんだ!」

「あっはっはっはぁ! お前になれる訳ないやろが! 低レベル冒険者風情が!」


 カクータは唾を飛ばしながらピケを睨みつけた。

 それでも、どんなに馬鹿にされてもピケは真っ直ぐカクータの目を見た。

 ピケにはどんな事があっても勇者にならなければならない理由があったのだ。

 ピケの両親は勇者だった。

 

 しかし、6年前、両親は魔王によって殺された。

 両親の敵討ちの為、ピケが勇者となり、魔王を倒す。

 その強い覚悟こそ今のピケを突き動かす原動力だった。

 故に、例え馬鹿にされようともピケは全く動じることは無い。

 そんなピケの姿を見て、予想外の意思の強さに思わず視線を外したカクータは吐き捨てるように言った。


「……ふん、まぁ、ええわい。試験を受けるのだけは誰にでも出来るしな。けどここからは出て行ってもらう。ええな?」

「わかった。今までありがとう」


 即座に答えるとピケはもう振り返る事はなく、3人の下を後にした。

 実際のところ、ピケにはまだ希望があった。

 実はレベルはカクータ達と大きく離れてはいてもステータスはレベル差のように大きく離れている訳ではなかった。

 カクータ達よりも低い事には変わりはないが、もしもこのままピケが数レベルだけでも上げればすぐに追いつけるであろう数値差にあったのだ。

 勇者選抜試験まで後1ヶ月。

 それまでにあと数レベルさえ上げれば勇者選抜試験にも通用出来る実力を得られる。

 ピケは両親の仇を討つ為にも、一人で強くなると心に誓って歩き出した。






「とはいってもこれからどうしよう……」


 大通りに出て、トボトボと歩いていたピケは、はぁ、と力無くため息を吐いた。

 冒険者組合での魔物討伐依頼は、低ランク冒険者の場合はパーティで挑まなければ受ける事が出来ない。

 それもそうだろう、初心者は不測の事態に対応する事が難しい。

 ソロでの魔物討伐は死亡率がグッと跳ね上がるからだ。

 そういう理由もあって、今までピケは常に馬鹿にされながらも、我慢してあのカクータのパーティに入っていたのだ。

 だが、パーティをクビになったせいで、とうとう依頼さえ受ける事が出来なくなってしまった。


「でも……後悔はない」


 ピケには遅かれ早かれこうなる予感があった。

 カクータ達の目標は勇者選抜試験を合格する事だ。

 ならどの道、試験では競い合う敵同士になっていたはず。

 それが少し早まっただけだとピケは考え直した。

 カクータを倒せなければ、勇者になるなど夢のまた夢だ。

 頑張って強くなろう、とピケは前を向いて意気込みながら大通りを歩いていた、その時だった。


 ふと何気無くゴミ捨て場に目をやると、なんと美しい人間の女の子が虚ろな瞳でゴミの間に挟まっていた。


「わ、わぁああっ! 女の子がゴミに埋まってる!? 顔色も真っ青だ!」


 この出会いがピケの人生を大きく変える事になるとは、この時はまだ知らなかった。



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