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第2話 ゴミ収集馬車


 しかし俺の願いはオヤジに届く事は無かった。

 気がつけば俺は館の外にあったゴミ捨て場へと捨てられ、ゴミの間に挟まっていた。

 顔だけがゴミから出ている。

 何も知らない人が端から見れば死体がゴミ捨て場に落ちているように見えるだろう。

 軽くホラーだ。

 それにしてもあのオヤジ、こんないたいけな少女の人形をゴミに捨てるなんて頭がおかしいとしか思えない。


 俺は動かない目玉を必死に動かすような感覚で周りを見た。

 オレンジ色のレンガ造りの家が立ち並び、石畳で舗装された大通りに馬車が行き交っている。

 さながら中世のヨーロッパといった風景だ。

 オヤジの屋敷も随分立派なもので、どうやらあのオヤジが貴族という推測もあながち間違いではないのかもしれない。

 そんな中、俺はある一台の馬車に目がいった。

 馬一頭が引く荷台にはデカデカと『ゴミ収集馬車』と書かれている。

 俺が埋まっている手前のゴミ捨て場に馬車が止まると、馬が後ろ足でゴミを天高く蹴り上げ、荷台に乗せた。

 器用な馬だな……流石はファンタジーだ、と俺は思わず感心する。


 ……って違う! このままだと俺はゴミ収集場行きになって、燃やされてしまう!

 や、やばい! そうなったら俺はこの人形ごと火葬されてしまう!?

 も、もう、誰でもいい! 誰でもいいから助けてくれ!


 ゴミ収集馬車を引く馬は満足げに、ヒヒーンといななくと、次のターゲットである、俺が埋まっているゴミ捨て場へと視線を向けた。……その瞬間。

 

 ……ヒッ! 馬と目が合った! あの鋭い眼光は敵に狙いを定めた瞳だ! 

 俺は冷や汗で全身が硬直する。まぁ、元々動く事は出来ないのだが。

 

 何故か馬は猛スピードで、こちらへと走ってきている。

 俺を大物のゴミだと認識したのだろうか。絶対に逃すまいとの堅い意志を感じる!

 もうダメか……! ああ、こんなところで終わるのなら、あのデスゲームの世界で朽ち果てれば良かった……と全てを諦めようとした時、それは起こった。


 「わ、わぁああっ! 女の子がゴミに埋まってる!? 顔色も真っ青だ!」

 

 俺は声がした方へと視線を向けた。

 そこには腰を抜かして俺を呆然と見る小さな少年の姿があった。

 この少女の人形と同じくらいの年だ。10歳程だろうか。

 ただ一つ人間と違う部分は、頭から犬のような耳が飛び出しているところだ。

 獣人という奴だろうか。顔もなんだか、犬のような愛嬌のある顔つきをしていた。

 馬がゴミ捨て場に辿り着く前に、少年は俺の方へと素早く駆け寄って、ゴミの中から俺を引っ張り出す。


「た……体温がない!? それに呼吸もしていない!? 死んだ魚のような目だ! うわぁぁあ!」


 死体と勘違いしているのだろうか、犬の獣人の少年は、俺を持ち上げてパニックになっていた。

 しかし気持ちは分からなくもない。

 ゴミ捨て場にこの人形が落ちていれば、俺でも少女の死体が捨てられていると思うだろう。

 驚かれるのはいい。それよりも今はとりあえずこのゴミ捨て場から出る事が先決だ。

 そう考えていると……。


「いや、まだ間に合うかもしれない! 待ってて、今すぐにプリーストの元へ連れて行ってあげるから!」


 決意を決めた獣人の少年の言葉に、俺は不覚にも感動してしまう。

 な、なんて良い子なんだ……!

 約200年振りに体感する人の暖かさに触れた俺は内心で咽び泣いた。

 俺はいつか体が動かせるようになったらこの子に恩返ししようと決意する。

 少年は俺を抱きかかえると、そのまま走り去った。


 ふと俺は少年の後ろを見ると、ゴミ収集馬車を引く馬が獲物を逃した悔しさに、ヒヒーンと嘶いていた。

 


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