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第42話 力量



 ベルレフィリア城、宮殿内にて本性を現した魔王軍幹部、サキュバスクイーンのエキドナは壮絶な笑みを浮かべてメルルを見ていた。

 ピケは凄まじいエキドナのステータスと禍々しいエーテルに思わず後ずさる。


 胸に穴が空いたカゲトラをプリーストへと引き渡すと、ピケは再びエキドナとメルルの戦いを見守った。

 エキドナの一撃でカゲトラとジュッテが戦闘不能に陥った事実に改めてピケは戦慄する。


 しかし……メルルはそんな禍々しいエーテルを噴出させるエキドナを直視しても、まさに柳に風といったような風体で、エキドナに対面している。


 だが、ピケにはメルルが怒りを抱いているという事が肌で感じ取れた。

 いつもと同じように無表情で分かりにくいが、毎日メルルと接しているピケにはよく分かった。


「あなた……この私が誰だが分かって喧嘩を売ってるのかしらぁ? 私は魔王軍幹部のサキュバスクイーンよ。謝るなら今のうちよぉ?」

「分かったからさっさと来い。俺をグチャグチャにするんだろ?」


 エキドナの目が吊り上る。

 瞬間、ありえない量のエーテルがエキドナから溢れ出す。


「いいわぁ、死ななければ解らないようねぇ……。ハァッ!」


 ドンッ! とエキドナが地面を踏み込んで、メルルに突進した。

 メルルは腰を低く下ろし、微動だにせず、エキドナを待つ。


 エキドナの渾身の殴打がメルルの右頬に炸裂しようとしていた。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 ズン! 地を揺るがすような振動がエキドナの体の奥深くに刻まれる。

 気がつけばエキドナは地面に倒れていた。


(な……何が起こったというの……?)


 渾身の殴打だった。

 メルルの頬を完全に捉えていた一撃だった。

 その筈が、何故か地面に沈んでいたのは、エキドナの方だった。


(これは……まさか……!)


 その時、エキドナは脳裏に電流が駆け抜けた。

 

(間違いない……こいつは相手の力を利用して返す体術を使っている! 私の攻撃を利用したのかッ! 小賢しい!)


 エキドナは魔王軍きっての武闘派だ。

 サキュバスクイーンではあるが、近接戦闘をメインとした戦い方を好んでいる。

 武術に関してもそれなりの知識があった。

 だからこそ一瞬にしてメルルの技の正体を見破る事が出来た。


 バッ! とエキドナは瞬時に立ち上がってメルルとの距離を取る。

 そして注意深くメルルを観察した。

 

(こいつ……エーテルもろくにないくせに、尋常じゃない体術を使ってくるわぁ。なるほどねぇ……だからこその自信というわけか。ならば……)


 エキドナは体の中からエーテルを噴出させ、拳にエーテルを集中させた。

 そして改めてメルルと向き合う。


「あなたと同じ土俵で勝負してやるわぁ。私もあなたの技を使えるの」


 そう、エキドナもメルルと同じような技を習得していた。

 それはまだエキドナが弱かった頃、必死になって身につけた技術だった。

 その技を使えば、弱かった頃の自分が思い出してしまうという理由で、エキドナはあまりこの技を好んでいなかったが、今は状況が違う。


「あなたのその自信、粉微塵にしてやるわぁ!」


 エキドナは壮絶に笑って、メルルの頚椎を狙うように素早く手刀を突き出した。


 しかし、それを許すメルルではない。

 エキドナの動きを完璧に把握していたのか、エキドナの放つ手刀をいとも容易く躱し、代わりに掌をエキドナの脇腹に当てようとする。


 だが、1度の交錯で、メルルの技の正体を知ったエキドナはメルルの動きを予測し、メルルの繰り出す掌を避け、体勢を僅かに崩したメルルの顎に向けて掌底を放つ。


 ドンッ!


 エキドナは掌に確かな手応えを感じた。


(当たったわね……)


 エキドナはここが最大の好機と見て、流れるように技を繰り出す。

 仰け反ったメルルの腕を取ると同時に足を素早く刈る。

 巴投げの要領で体を反転させ、素早くメルルの頭部を刈り、回転速度を上げる。


 そのまま頭部から地面に落ちるようにメルルを叩きつける……が。

 メルルは両足をエキドナの頭部にくくりつけて一回転し、逆にエキドナを投げ飛ばす。


 だが、それすらも読んでいたエキドナはメルルの腕を離さずに引き寄せ、メルルの顔面に渾身の殴打を叩き込む。

 ……が、しかし。


「……なっ……ぐぁっ!」


 顔面にとてつもない衝撃を受け、吹き飛んでいたのはエキドナの方だった。


(……あの一瞬で返された!? ありえないっ! なんて技術と反射スピードなのぉっ!?)


 周りで観ていた者は何が起こったのか正確に理解出来た者はいないだろう。

 

 しかし、実際に技を返されたエキドナには何が起こったのか正確に理解していた。

 エキドナが殴打を放った瞬間、メルルは何倍にも力を増幅させてエキドナに返したのだ。


 まさにそれは体術の理想とも呼べる技術だった。

 

 奇しくもエキドナの最も得意とする柔拳ではなく、剛拳で対応してしまった事がこの結果を招いてしまった。


(いや、違う……剛拳を使わされてしまったという事……!)


 エキドナは全身に鋭い痛みを感じながらメルルを見据える。

 素早く体勢を立て直すも、思わずたたらを踏んで尻餅をついてしまう。


「くっ……ゴミみたいなエーテルの癖に、私のエーテルを利用してダメージを与えるとは……」


 殴打の威力を何倍にも増幅させて返されてしまった事に戦慄を覚えながらエキドナは言葉を零した。


「あなた……一体何者? ただ者ではないわね……」


「……いや、こっちも想像以上だった。まさか俺の技の心得を知ってる奴がいるとは思わなかった。けど、まだまだ練りが甘いね」


 メルルから嘲りの声が漏れるが、エキドナはもはや怒りよりも、この上ない敗北感を感じていた。

 

 今の一瞬の攻防で完璧に気付いてしまったのだ。

 相手は自分など歯牙にもかけない程の体術の高みにいるという事が。


 あれほど近くで観たというのに、エキドナには殴打を返されたメルルの技を正確に見切る事が出来なかった。


 エキドナの額にヒヤリと汗が流れた。



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