第37話 戦端
カクータが盾となる事で、生門を出る事に成功したピケの様子を遠くから見守っていたメルルは思わず呟いた。
「あの関西弁……ナイスガッツだ」
メルルは座り込んでいた足を解き、スクッと立ち上がって、足に付いた土を手でパンパンッ、と振り払った。
ピケ達とは別行動を取っていたメルルは4つの門を開く事を最優先に行動していた。
メルルはその優れたエーテル操作技術によって、カゲトラのエーテルを常に補足していた。
つまりメルルにはカゲトラの位置は手に取るように分かっていたのだ。
受験生達が次々とカゲトラの餌食になる中、4つの門を全て見つけていたメルルはカゲトラのいる位置から離れた場所から順番に門を開いていた。
そのお陰で、最短の時間で全ての門を開く事が出来たという訳だ。
しかし、その間に15名もの受験生がノックアウトさせられた事に、メルルは流石強敵と認めた相手だと感嘆の声をあげた。
「これで……あの生門を抜けたのは、ジュッテ、革鎧のお姉さん、ピケ少年の3人か。あとこの場に残っているのは、気絶した関西弁と俺だけって訳だな」
ジュッテとエキドナについては、メルルが最速で門を開けている事に気付くと、自分で門を開く事を止め、一目散に門へと向かっていた。
そして4つの門が開いたと同時に、二人は生門を出た。
まさに作戦勝ちだとメルルは内心で苦笑いする。
カゲトラに見つかった受験生に関しては、もれなく全員がカゲトラによって戦闘不能にさせられ、監視役のクマゴロウによって転送させられていた。
一次試験とは違い、全員が気絶させられただけで、誰一人死んでいないのが唯一の救いだ。
「さてと……行くか」
状況を把握し終えたメルルは重い腰を上げて一歩一歩、歩き出した。
目指すはこの世界に転生して、初めて出会った強者、勇者王カゲトラだ。
メルルは戦闘前の独特の高揚感に笑みが零れる。
それにしても……とメルルは周囲を見渡した。
夕日に照らされ、草原が黄金に輝くこの風景には見覚えがあった。
この景色は忘れもしない、かつて明石 徳次郎が200年の時を生き抜いたデスゲーム『生と死の狭間』で死闘を繰り広げた大地によく似ていたのだ。
この空間は外界から切り離されていると試験官は言っていた。
もしかしたらこの空間を作った人物はあのデスゲームについて何か知っているかもしれないとメルルは考えた。
カゲトラは門の前に仁王立ちしていた。
その威容はまさに王者といった威風堂々たる出で立ちで、何かを待ち受けるように、生門を守っている。
おそらくはカゲトラ本人も、まだこれ以上ない敵がこのフィールドに残っているという事に、気付いているに違いない。
その顔には油断のかけらもなく、ある一点をただただ見つめていた。
ザッ、ザッ、ザッ。
やうやくメルルはカゲトラを視界に捉えた。
カゲトラは迸るようなエーテルを身に纏い、ただメルルだけを見つめている。
しかし、メルルはカゲトラへの視線を外して、ふと下を見つめる。
そこにはピケを守った事で、カゲトラに殴られ、気絶したボロボロのカクータの姿があった。
「お疲れ様、良い戦いだった」
メルルはそれだけ呟くと、気絶したカクータを抱き抱え、カゲトラの前へと歩いていく。
カゲトラとメルルの距離が20m程になった時、徐にカゲトラが口を開いた。
「あれほど早く門を開いたのはお主か?」
低い威厳のある声音が場に響く。
メルルは無表情に答える。
「うん、あんたが弱いものイジメしてる間に開けさせてもらったよ」
「ガッハッハ、弱いものイジメときたか、なるほど、お主から見たら受験生など、弱いもの以下だろうて。それにしても、してやられたわい。よもや3人もここから出させてしまうなんてなぁ。儂も老いたものよ」
軽口を叩くカゲトラにメルルは堂々と言い切る。
「いや、脱出者はこの関西弁の男も含めて5人だ。あんたボケてるみたいだから最初に教えておくよ」
「クックッ……言いよるわい、この小童が! この勇者王カゲトラを前にして、そんな啖呵を切る奴は久方振りだ! いいだろう、いざ尋常に立ち会おう、ゴッズアーティファクト・メルルよ!」
この瞬間に、デスゲームを一万回生き抜いた男と、勇者の頂点の一人、勇者王カゲトラとの闘いの火蓋が切って落とされた。




