第35話 ピンチ
パーン! と再び音が響いた。
ピケとカクータによって開いた門とは別に新たな門が開かれたのだとピケは悟った。
満月を見上げると、そこには数字の2が刻まれており、自分達と同じように誰かが門を開けたのだと理解した。
これで残すところ、門は後2つだけだ。
後2つの門が開いた時、ゴール地点である生門が開く。
「おぉ! こりゃあ、行けるんちゃうか!? みんな上手くバラけとるから後2つも誰か開けてくれるやろ!」
立て続けに2つの門が開き、カクータがはしゃぐ。
ピケも喜びに叫びたい気持ちだったが、まだまだ勝負は分からないと気を引き締めた。
「カクータ、まだ喜んじゃダメだ。相手はあの勇者王カゲトラなんだ。待てよ……普通、ここまで開門を許すだろうか……?」
ピケは猛烈に嫌な予感が脳裏を駆け抜けた。
相手はあのメルルですら警戒する程の相手、勇者十傑の一人だ。
ピケやカクータの行動など、カゲトラにとっては予想の範疇内にあるに違いない。
もしもピケの行動がカゲトラに筒抜けである場合、次にカゲトラが取る行動を予想した時、ピケは怖気が走った。
「違う……! 僕らは門を開けたんじゃない! 開けさせられたんだ!」
ピケの言葉にカクータが驚愕する。
「な……なんやて!? どういうこっちゃ、それは!?」
カクータが訳も分からず、喚いたその時だった。
「おるわい、おるわい。二人おったか」
凄まじいエーテルを纏いながらピケとカクータの前に突如として現れたのは、なんと2mの筋骨隆々の体躯を持つ男、勇者王カゲトラだった。
いつの間に現れたのか、カゲトラはピケとカクータの背後に立っている。
ピケは本能で臨戦態勢を取るも、もはや現状が詰みの状況である事を悟った。
(しまった……! あれだけメルルにカゲトラとは戦わずに逃げろって言われたのに、カゲトラに見つかってしまった……!)
ピケはパニックになりながらも、カゲトラと距離を取り、叫んだ。
「カクータ! 逃げるんだ! 僕らに勝ち目は無い!」
「う、うわぁぁぁあああ!」
ピケの叫びにカクータは一目散に駆け出した。
しかし、それを見逃すカゲトラではなかった。
カゲトラはいつのまにか、カクータの前へと立っていたのだ。
カゲトラは徐に右腕をカクータに振るう。
ピケには一眼見ただけでわかった。
カゲトラは無造作に腕を振るっているが、その腕には濃密なエーテルが乗っていた事に。
あの腕がカクータに直撃してしまうと、カクータはタダでは済むまい。
そう考えると、ピケの身体は勝手に動いていた。
「危ないっ!」
ピケは瞬時に足にエーテルを流し込み、ワンダフル特有の優れた瞬発力を活かして地面を蹴る。
ピケはカクータへと体当たりする事で、カゲトラの攻撃を避ける事に成功した。
だが……。
「仲間を助けたか。結構、結構」
今度は攻撃対象をカクータからピケへと変更したカゲトラが、地面に横たわるピケに向けて濃密なエーテルをふんだんに乗せた拳を振り下ろそうとしていた。
まともに受けたらピケなど容易く消し飛ぶような恐ろしい量のエーテルだった。
ピケは絶対絶命の大ピンチに、思考を高速で巡らせた。
しかし、今にも拳がピケに触れようとする、まさしくその瞬間だった。
何故だか、勇者王カゲトラの拳がピケの目と鼻の先で停止する。
突然の事態にピケが呆然とした、その時。
パーン! と、場に軽妙な音が響いた。
満月を見ると数字の3が刻まれている。
あと残り1門でゴール地点、生門が開く。
その瞬間、カゲトラが訝しげに呟いた。
「おかしい、予定よりも早すぎる。もう15名は間引いたというのに、この開門のスピード。これはどういう事だ?」
ピケは勇者王の言葉に戦慄した。
なるほど、道理で余裕があると思った。
確かにもう15人も退場させたというのなら、二つの開門くらいは許容範囲内だろう。
カゲトラの言葉に寄れば、このフィールドには後5人しか受験生が残っていない事になる。
最後に見つかった自分達は単に運が良かったのだと、ピケは思い当たった。
「小僧……貴様らの中に、手練れがおるな? そいつについて何か知っておるか?」
カゲトラの言葉にピケはピンと来た。
カゲトラの言う手練れとは十中八九、メルルの事に違いないとピケは悟った。
もしかしたらこの事を上手く利用すれば、この窮地から脱せるかもしれない、とピケは踏む。
「……知ってるよ。僕らはただの時間稼ぎだ。彼女こそが本命さ。今頃最後の門の開門に向かっている筈だよ。こんなところにいるよりもさっさと追った方がいいんじゃない?」
ピケは挑発する様に笑った。
「その者とは金髪で青い瞳を持つ少女か?」
心当たりがあったのか、カゲトラが尋ねてきた。
正直に言うか、ピケは迷ったが、ここで真実を告げてもさしてメルルの迷惑にはならないと踏んだピケは応えた。
メルルならカゲトラが辿り着く前に、きっと最後の門を開けてくれる筈だと信じて。
「そうだよ」
「……」
ピケの言葉にカゲトラは何かを考えるように押し黙った。
数秒の沈黙の時間が流れる。
「やはりな。これはすぐにでも追わねばなるまいて。しかし、小僧の始末だけはしっかりとしておかねばな」
倒れるピケに向けて、再度死を告げる拳が振り下ろされた。




