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第34話 開門


「お前を手伝う、言うたんや。この試験は協力こそが肝の試験や。……今は過去の事は忘れて門を開ける事が先決やと、そう思ただけや」


 カクータはそっぽを向きながら言った。

 ピケはカクータの言葉を完全には信用出来ないものの、この提案は素直に有難いと思った。


 カクータの言う通り、今この時だけは過去のしがらみは忘れるべきかもしれない、とピケは考えた。

 そんな中、カクータが門を開きながら徐に尋ねてきた。


「なぁ、ピケ。……なんでお前はそないに強くなったんや?」


 陰を感じさせる問い方に、ピケは思わずカクータを見つめる。

 カクータは悔しそうに俯いていた。

 ピケは一次試験でカクータを倒した実績がある。

 レベルが離れているにも関わらず、そんな不利の差を覆してだ。


 ピケはあの時の事を気にしているのだろうかと、推測した。


「メルルが僕を鍛えてくれているんだ。メルルは言っていた、レベル差なんて関係ない。必要なのは、努力と経験だって。それさえあればレベル差なんて覆せるって教えてくれたんだ」


 カクータはメルルという言葉を聞いてビクリと震えた。

 何か思うところがあるのだろうか。


「メルルって……あのおっかない人形か。なるほどな、あの人形が動いてんの見た時はド肝抜かしたもんや。確かにあの御方やったらそれぐらい出来るかもしれんなぁ」

  

 カクータは何やら遠い目をして言った。

 カクータも昔、メルルの逆鱗に触れ、キツイお仕置きを貰った事がある事をピケは思い出した。


 どうやらカクータもメルルの真の実力に気づいているのかもしれない。


 そんな中、カクータはポツリと呟くように言った。


「なぁ、ワイもその人に教えてもろたら強くなれるんかなぁ?」

「へっ!?」


 思わずピケはカクータの顔を二度見する。

 確かにメルルに鍛えてもらえば、誰でも強くなれるのは間違いがない。


 しかし、あの修行……というか地獄に耐えられたらの話だが。


「あ……あんまりオススメしないよ? 修行というか拷問に近いし……。カクータはそんな事しなくてもレベルが上がって強くなれるんだから今のままで良いと思うよ……」


 ピケの虚ろな瞳を見て、カクータも何かを感じ取ったのか、同じように遠い目で答えた。


「お、おお……そうか……お前はお前で苦労してたって訳なんやな」


 カクータの呟きに、ピケも思わずカクータに問い掛けてしまう。

 それはピケがずっと昔から気になっていた事だ。


「ねぇ……カクータはどうして勇者になりたいの? 勇者になってどうしたいの……?」


 曲がりになりも、カクータは冒険者組合では将来を有望視されるエリートの一人だ。

 こうして最終試験に残っている辺り、その実力というか悪運は本物だ。

 

 そのねじれ曲がった性格は別として。

 同じパーティの頃は聞くに聞けなかったが、今なら答えてくれるのでは、とピケは思った。

 すると、カクータは鼻を掻きながら、恥ずかしそうにボソリと呟いた。


「………………………………モテたいからや」

「は?」


 ピケは聞き間違いかと思い、もう一度聞き返した。


「え……? もう一回言ってくれない……?」

「やから……ワイはモテる為に勇者目指しとんのや! 言わせんな、恥ずかしい」


 カクータは顔を真っ赤にして叫んだ。

 あまりの素直な欲求の爆発に、ピケは呆然とカクータを見つめる事しか出来ない。


「ワイはなぁ……死ぬほど女にモテまくって、金も稼ぎまくって、豪華な家建てて、嫁を10人作って静かに暮らしたいんや。魔王なんか誰が倒しに行くか……! あんなバケモンに勝てる訳ないやろ」


 まさかのカクータの独白にピケは唖然とした。

 自分の目標とのあまりにかけ離れたカクータの願望にピケは膝から崩れ落ちそうになる。


(こいつ……! そんな欲望の為に僕を追い出したのか……!?)

 

 思わずカクータの頭をぶん殴りたくなったが、グッと堪えて拳をギュッと握った。

 今、門から手を離してしまえば、全てが水泡に帰してしまう。

 やっと半分まで扉を開けたというのに、扉を離した瞬間にこの門は閉まってしまう。 


 ピケは湧き上がる怒りに、我を失いそうになった瞬間、カクータが声を上げた。


「わっ!? なんやこいつ!? 魔物か!? やばい、助けてぇ!」


 カクータの叫びに、ピケは思わずカクータを見た。

 なんとカクータは一本の角を生やしたうさぎにお尻を突き刺されていたのだ。


「ぎみゃああああ!」


 凄まじい声を上げるカクータを見て、ピケは思わず門の扉を離して足にエーテルを集中させる。


 カクータの絶叫する姿を見て居た堪れなくなったピケは、カクータのお尻に角を突き刺すウサギを蹴っ飛ばした。

 

 思いもよらない攻撃を受けたウサギは彼方へと飛んでいく。


 ウサギの角から抜け出したカクータはお尻を摩りながらピケを見た。


「ピケ……すまへんな。ワイ……ほんま弱いわ。ほんまはな、ワイ……ここまでお前の後を尾けて来たんや。お前と一緒ならここから抜け出せるんちゃうかと思ってな」


 カクータは静かに言った。

 思わずピケはカクータの顔を見る。


「ほんまは……ワイ……ピケが誰よりも才能に溢れとる事は知っとった。いつか、お前に軽く超えられるんやろなと思ってたんや」

「え?」


 ピケはカクータの思いがけない言葉に動揺した。


「お前がなかなかレベルが上がらんのは必要経験値が人よりも多いからや。証拠にレベルが上がれば、ピケのステータスは誰よりも上がっとる。ワイはそれを認めたくなかった」

「カクータ……」


 ピケは思わず呟いた。


「いつかこうなる事はなんとなく分かってたんや。来るべき時が来たって訳やな。やからワイはお前に負けた時になんか納得したんや」

「……」


 ピケは何も言う事が出来なかった。

 その時、パーン! と軽妙な音が場に響き、ようやく扉が完全に開く。

 扉が完全に開いたと同時にカクータはピケに対して頭を下げた。


「ピケ、今まですまんかった。お前は強い。ワイは認める。パーティに戻って来いとは言わん。けど、またなんかあった時は宜しゅう頼む!」


 カクータは誠心誠意、ピケに謝った。

 その姿を見て、ピケは氷が溶けるように今までの確執が消えていくような感覚を覚えた。

 

 ピケはそんなカクータの姿を見て答える。


「カクータ……。こちらこそ宜しく」


 完全に開いた門の前でピケはカクータに満面の笑みを浮かべた。

 夜空に浮かぶ満月には、ピケとカクータが開けた努力の結晶である数字の1が確かに刻まれていた。


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