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第32話 開始



「はっ」


 魔法陣の転移による独特な浮遊間が無くなり、ピケはゆっくりと目を開ける。


 目の前に広がっていたのは、大草原の中に点在する寂れた建物の残骸が夕陽の光を浴びて一身に光り輝く、幻想的な風景だった。


 周りを見渡しても受験生の姿はどこにもない。

 

 ただあるのは、広大な草原が陽の光を浴びて、金色に輝く光景だけだ。

 真っ直ぐ遠くを見上げると、天に伸びる大きな光の柱が見えた。

 

 いやよく見ると、それは光の柱ではなかった。


 あまりにも巨大な扉が空を覆っていたのだ。


 扉は閉じられており、扉の隙間から微かな光が漏れ出ている。

 それが光の柱に見えただけだ。

 

 ピケは見た瞬間に分かった。

 あれこそが、勇者王カゲトラが言っていた生への門『生門』なのだと。


 このフィールドのどこかにある4つの門を開く事であの巨大な門が開かれるのだと理解した。


「ピケ少年、今回は別行動で行く」


 ピケのすぐ後ろで聞き慣れた声がし、ピケは振り返ると、メルルが珍しく難しい表情でじっと空を見上げていた。

 ピケは緊張感すら感じさせるメルルの表情に、驚きを隠せない。


「あのカゲトラとかいう奴が相手なら、俺が率先して門を開けた方が効率が良いはずだ。ピケ少年、今回は奴から逃げる事だけを考えろ。絶対に戦っちゃダメだぞ。それが今回の修行だ」


 ピケはメルルの言葉に頷いた。

 流石のピケもあのカゲトラ相手に戦って勝てるとは微塵も思っていなかった。

 

 メルルの言葉に素直に従う事を心に刻む。

 そんな中、ピケは気になっていた事を聞いた。


「メルルなら……あの勇者王に勝てるの?」


 ピケはじっとメルルを見る。

 するとメルルはいつも通り、何を考えているのか分からない表情を浮かべて答えた。

 

「それはやってみなくちゃ分からないな。けど……あれ程の強さを持ってるんだ。是非とも闘ってみたいな」


 メルルは心から嬉しそうに笑った。

 

(勝てる……かもしれないんだ……)


 ピケはあの勇者王を見て、本気で戦いたいのだと考えているメルルを見て、心から戦慄した。

 しかし、この得体の知れない力を持つメルルなら、本当にあの勇者王カゲトラが相手だったとしても勝ってしまうのではないかと思えてしまう。


 ピケは、メルルはやはり心底頼りになると再確認したところで、続々と受験生達が転移されてきた。

 その顔触れには見知った者も交じっていた。


 ピケ達へのじっとりとした視線を捉えて離さない、革鎧を着た薄着の美女、エキドナ。

 輝くような白い髪に、縦に割れた黄金の瞳を持つ龍人の少女、ジュッテ。

 さらには意外な事にカクータまでもが転移してきた。


 カクータが最終試験に残っている事に、ピケは素直に驚く。

 どうらや運良くここまで生き残れたようだと、理解した。


 20名の受験生がフィールドに揃った時、最後にクマの試験官、クマゴロウが姿を現す。

 クマゴロウは受験生が全員揃った事を確認した後、口を開いた。


「皆様、全員が揃われましたので、最終試験を開始したいと思います。その前に皆様、あちらの生門をご覧下さい」


 すると皆が一斉に天まで伸びる光の柱、閉じられた生門を見た。

 クマゴロウが続ける。


「あちらの門の前に、カゲトラ様がスタンバイされております。スタートしたと同時に、こちらへいらっしゃいますので、皆様ご注意下さい。それとあちらの満月をご覧下さい」


 ピケは一際大きく輝く満月を見た。

 その満月には数字の0が刻まれていた。


「あれは開いた門を表しています。あちらの数字が4になった瞬間に、生門が開きます」


 その時、男が手をあげて質問した。


「クマゴロウさんはこの試験に参加されるのでしょうか?」


 ピケも気になっていた疑問に、クマゴロウは応えた。


「いえ、私はただの監視係ですので、どうかお気をなさらずに。オブジェの一つとして考えて頂ければと思います」

「いや、オブジェって……」


 クマゴロウの当然の回答に、男は肩を落とした。

 もしも現役の勇者が仲間になれば、心強いと考えていたのだろう。

 しかし現実は甘くはなかった。


 クマゴロウは皆を見渡すと、大声で宣言した。


「ではこれからスタート致します。皆様……どうかご武運を。只今を持ちまして、最終試験スタートです!」


 その瞬間、20名の受験生が一斉にスタートを切り、バラバラの方向へ一斉に走り出した。


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