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第30話 強襲


「はっ」


 と、ピケは気がつくと、煌びやかな白亜の壁が陶磁器のように白く輝く宮殿の中にいた。


 一つ一つが凝ったデザインの調度品やシャンデリアが立ち並ぶその光景は二日前に見た時と全く同じで、見る者を圧倒する。


「助かった……のか……?」


 辺りをキョロキョロと見渡すと、受験生がちらほらと見えた。

 ピケはどうやら試験終了に間に合ったようで、ベルレフィリア城の宮殿まで強制転移したのだと悟った。


 ピケは最後のエキドナの攻撃を思い出し、ビクリと震えた。


(転移が間に合わなければ、確実にやられていた……)


 ピケは禍々しいエーテルを纏ったエキドナを思い出して、よく生きて帰れたものだと胸を撫で下ろした……が。


 瞬間、ゾクリと鳥肌が立った。

 ピケは顔を真っ青にしてある一点を見つめる。


 なんとそこには唇を吊り上げながら、禍々しいエーテルを纏わせたエキドナが魔法陣の中から現れたのだ。


 エキドナは寒気を感じさせる笑みを浮かべ、じっとピケを見つめている。


 周りの受験生達もあまりのエキドナが放つエーテルの禍々しさに騒然としている。


 その瞬間、ダッ! とエキドナはピケに向かって地面を蹴った。


 まさに瞬間移動するかのような速度で真っ直ぐピケへと向かってきていた。

 

 猛然とありえない量のドス黒いエーテルを乗せた拳がピケの眼前へと迫る。


(ダメだ……避けきれない……!)


 エキドナの本気の一撃に、もうダメだと、ピケは覚悟をして思わず目を閉じた。


 しかし……。


 パシッ! と音がし、ピケは閉じた目を開く。


 すると目と鼻の先には、エキドナの拳があった。


 エキドナの拳が何者かによって、寸前で止められていたのだ。


 ピケはふと視線を横に向けると、そこにいたのは、ピケが最も信頼する少女、メルルだった。


 メルルは鋭い視線をエキドナに向けながら、エキドナの殴打を片手で受け止めていたのだ。


「試験はもう終わっているはずだけど、俺の友達に何をするつもりだ?」


 メルルの静かな怒りの籠もった言葉に、エキドナも鋭い視線をメルルを向けている。


「あら? これはちょっとした挨拶よ、お嬢さん。このボウヤに聞きたい事があったのぉ。この手を離してくれないかしら?」

「……嫌だね」


 メルルが即答すると、エキドナの笑みがますます深まった。


 同時に、エキドナのドス黒いエーテルがますます濃くなっていく。


 ピケにはエキドナの力が増していっている事が肌で感じ取れた。

 ギリギリとメルルの手の拘束を力づくで解こうとしている。


 しかし、それでもメルルはエキドナの手を握ったままだった。

 その手はピクリとも動かない。


 僅かに端正なエキドナの眉が吊り上がった。


「あら……あなた……どうやらその辺のゴミとは違うようねぇ。それに……ゴッズアーティファクト……動いて生きている。あなた……何者?」

「それはこっちのセリフだ、露出狂。試験が終わったって言ってんだよ。なんでピケ少年に突っかかってくるんだよ?」


 ピケは二人のやりとりをヒヤヒヤしながら見ていた。

 エキドナが知りたい事、それはメルルの引き起こしたエーテル爆発の原因だ。

 

 言わずもがな、あのエーテル爆発を引き起こした原因は、今エキドナの目の前にいる。メルルだ。

 エキドナが何故そんな事を知りたがっているのかが、不明な現状では真実を知られるのは良くない。

 

 というかこんな禍々しいエーテルを持つ者に真実を知られると厄介毎に巻き込まれるのは目に見えている。

 

「少し聞きたい事があるって言ったでしょう? それにそんなボウヤを庇って何になるというの? このボウヤのランプは私が破壊したわ。すなわち試験失格。なら何をしたって私の自由でしょう?」


 ニヤリと余裕の笑みを浮かべるエキドナにメルルはキョトンとした顔で応えた。


「何言ってるんだ? ピケ少年は火の点いたランプを持ってるぞ?」

「え?」


 その時、初めてエキドナが目をパチクリとさせた。

 ピケはメルルの言葉に応えるかのように懐から何かを出す。

 それは青い小さな炎が灯った蝋燭【ブレイブランプ】そのものだった。


「な、何故それを……!」

 

 ピケのブレイブランプを見て、エキドナは驚愕の表情を浮かべた。


「あんたがピケ少年に砂をかけられた時だよ。あんたが余分にランプを持ってる事に気付いたピケ少年は、自分のランプが壊されると予測して、あの隙にあんたから奪っていたんだよ」


 ピケはメルルの言葉にうん、としっかり頷いた。

 と、同時に……。


(やっぱりメルル見てたんだ……)


 ピケは苦笑いしながらメルルを見た。

 薄々とだが、メルルが何処かで見ているのではないかと思っていたが、案の定見ていたか、と理解し、ピケは薄く笑みを浮かべた。


「なるほど……そのボウヤに一杯食わされたって訳ねぇ……面白いわぁ」


 その時、凄まじいエーテルがエキドナから溢れ出した。

 宮殿中をエキドナのエーテルが覆う。

 周囲にいた受験生達はあまりの格の違いに怯えていた。


 だが、メルルだけは依然として、じっとエキドナを見続けている。


「だけど、それならそれで構わないわ。今この場で、あなたのお友達に無理矢理にでも吐かせばいいだけの事」


 エキドナは禍々しいエーテルを隠そうともせず、ピケとメルルに叩きつけてくる。


 メルルも臨戦態勢に入り、構えを取る。


 そして目にも止まらぬ速さで、エキドナが動き出したその時だった。


 パシッ! と再び音が響く。


 するとピケの眼前には、エキドナの拳を受け止める試験官のクマゴロウの姿があった。

 

 外見が完全にクマのクマゴロウはエキドナの腕を器用に掴んでいた。


「ここで見境なく暴れる事は、勇者の資質が無いと判断し、あなたを失格と致します」


 クマゴロウが緊張感のない声音で一言呟くと。


「チッ……」


 流石に失格はまずいと判断したのか、エキドナは禍々しいエーテルを霧散させると、振り返って歩き出した。


 最後に捨て台詞のようにメルルとピケに告げた。


「次の試験、精々背中に気をつける事ね。私は貴方達の顔を忘れないわぁ」


 エキドナは寒気の走る笑みを浮かべると、スタスタと歩いて言った。


「はぁ……」


 ここでようやく脅威が去ったと判断したピケはため息を吐いて、地面に尻餅をついた。


 メルルが心配そうにピケを見る。


「大丈夫か? ごめん、助けるのが遅くなった。君がどれだけ格上相手に粘れるか見ていたんだ」

「ううん……こっちこそありがとう。僕も心の中でずっとメルルに頼っていた部分があったんだ。だから良い機会になったよ。いつまでもきみに頼りきっちゃいけないって事がよく分かった」

「ピケ少年……成長したな。それでいいんだ。それにしても本当によくやった。あの強敵相手によく逃げ切ったもんだよ」


 ピケは心からのメルルの賞賛の言葉に、素直に喜びを感じた。


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