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第27話 仇


 一気に場が緊張に包まれた。

 ピケはメルルの言葉の意味が分からない。


(ジュッテが嘘を吐いている……? それは一体どういう事なんだ……?)


 すると、ジュッテは観念したように、笑いながら呟いた。

 地面に落ちていた布を拾い上げ、体を隠すように覆う。


「やっぱり貴方には敵わないみたいね。そうよ、龍にそんな掟は存在しないわ」

「へ……? どういう事……? どうしてそんな嘘を……?」


 ピケは訳が分からず、呆然と呟く。

 メルルはそんなジュッテの姿をじっと見つめていた。


「私はメルルを仲間に引き込みたかったの……。私を歯牙にもかけない貴方の力があれば……きっとあいつらにも勝てるわ!」


 ジュッテの言葉に、ピケは疑問を浮かべた。


「あいつら……?」

「そう、魔王幹部のサキュバスクイーン。私の両親を殺した仇よ。私の目的は奴らの抹殺。でも……奴は強すぎる。私では相手にならないくらいに……」


 瞬間に、ジュッテの黄金の瞳が輝きだす。

 何かを思い出しているのか、顔は憎しみに囚われていた。

 そんなジュッテを見て、ピケは自分と似ていると思った。

 

 ジュッテは、両親の仇を取る為に魔王を倒そうとしている自分と同じだとピケは感じたのだ。


「なるほど……それで君はこの勇者選抜試験に何をしに来たんだ? その幹部の抹殺ならここに来る必要はないだろ?」

 

 メルルの疑問にジュッテは答える。


「いえ……つい二週間程前……。私はとてつもない量のエーテルをこの地に観測した。そのエーテルは天にも達する程の莫大なもの……どの龍達よりも圧倒的に上だったわ。そして……あの憎きサキュバスクイーンよりも……」


 ピケは何か思いついたように手をポンと叩いた。

 それは十中八九、メルルが目覚めた時に爆発したエーテルだろうと理解したのだ。

 ジュッテはあの謎の美女と同じように、メルルのエーテルに惹かれてここまでやってきたらしい。


「あのエーテルは研ぎ澄まされたように清澄で、まるで聖水のように清らかだったわ。そのエーテルの持ち主だったら、あのサキュバスクイーンにだって勝てるはず。そう思ってこの勇者選抜試験に参加した。きっとあのエーテルの持ち主も試験に参加すると踏んでね。そしてそれは正解だった。……メルル、あなたこそがあのエーテルの持ち主なのね」

「……っ!?」

 

 ピケは驚愕してジュッテを見た。

 ジュッテの推測は間違っていなかったからだ。

 まさかの告白にピケはおずおずとメルルを見ると。

 メルルは静かに微笑んでいた。


「どうして俺がそのエーテルの持ち主だって思ったの? 俺のエーテルは完全に消していた筈なんだけど」

 

 メルルの問いにも、ジュッテは即座に答える。


「私のアイアンメイデンを無傷で受け止めた奴なんて見た事ないわ。それに貴方からは底知れない何かを感じる……。きっと貴方は私なんかが想像もつかないくらい遥か高みにいるんでしょうね。まるで勝てる気がしないわ」


 ジュッテの言葉にピケは心から驚愕した。

 ピケがメルルに抱く感想と、ジュッテがメルルに抱く想いが同じだったからだ。

 

 ピケとジュッテを比較すると、その実力の差は歴然としている。

 圧倒的にジュッテの方が実力が上だ。

 さっき戦った事でピケは身に沁みてそう感じた。

 

 だが、そのジュッテを以ってしても、メルルの実力の底は見えないらしい。

 ピケがメルルの実力を見抜けないと同じように。


(メルルは……一体どれほど強いんだ……?)


 ピケはジュッテですら勝てる気がしない、と言わせるメルルの実力に改めて畏怖を覚えた。

 メルルはジュッテの言葉を聞いて頷く。


「なるほど……やっぱり君もピケ少年と同じように凄い才能を秘めているよ。正解だ、俺こそがそのエーテルの持ち主だよ」

「やっぱり……! ならお願いよ。私と一緒にサキュバスクイーンを討伐して! あなたの力ならきっとサキュバスクイーンにでも通用するわ」


 ジュッテが頭を下げた。

 じっとメルルがジュッテを見る。

 何かを考えているのだろうか、ピケはゴクリと唾を飲んでメルルの返答を待った。


「ごめん、ジュッテ。それは出来ない」


 だが、メルルはジュッテの頼みを断った。

 ジュッテは信じられない、とばかりに顔を見上げる。


「そ、そんな! どうして!? あなたならきっと……!」

「いや、そういう問題じゃないんだ。仮に俺がその幹部を倒したとしよう。けどそれで君は満足なの? それで想いは全て晴れるの?」

「それは……っ!」


 ジュッテが顔を背けた。

 ピケも何も言えずに、思わず俯いてしまう。

 メルルの言葉にピケは己を恥じた。


(そうだ……僕も心の中で、メルルがいるから安心だと思ってしまっていた。メルルに頼り切ってしまっている自分がいる……)


 ピケも両親を魔王に殺されている。

 自分こそが必ず魔王の仇を討つと誓った。

 しかし、メルルがいる事に安心感を覚える自分が確かに存在している事にピケは気付いた。


「仇は自分で討たなければ、意味がないと俺は思う」

「だったら……私はどうすれば……!」


 メルルが一拍置いた後に静かに言った。


「ジュッテ……君自身が強くなって自分の手で、仇を討てばいいんだ。君には素晴らし才能が眠っている。鍛えれば誰にも負けない強さを得られるよ」


 するとジュッテはハッと顔を上げてメルルを見た。

 

「それじゃあ……あなたが私を鍛えてくれるというの……?」


 縋るような目でジュッテはメルルを見ていた。

 しかし……。


「いや、ごめん。それは無理なんだ。今は俺、このピケ少年を見てるから」

「えっ?」


 まさかの返答にピケはメルルを見つめた。

 ジュッテの殺気を篭った視線がピケを貫く。


「だったら私はどうすればいいの!?」

「俺はこの少年に恩があるんだ。だから今はこの少年を鍛える事に専念したい。だからピケ少年を立派に育てあげたその時は、君を見る事にしよう。約束する」


 ジュッテは渋々とピケを見た後、ゆっくりと頷いた。


「分かったわ、先客がいたんじゃあ仕方ないわ。だけど、そのワンコが強くなったら、私を修行してよね! 予約しとくから。ワンコ! 早く強くなってよね!」


 ビシッとジュッテが指をさした。

 ピケは思わず頷く。

 そして、メルルの想いにピケは深く感動した。


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