第26話 嘘
「いやぁ、この肉本当に美味いな! ピケ少年、もっと食っていいぞ。なに、まだまだ肉はあるからな!」
「う、うん……」
上機嫌で肉を頬張り続けるメルルを見て、ピケはどう反応すべきか、困った。
ふと、横を見るとジュッテが気を失って倒れている。
龍化した影響で、ジュッテは素っ裸になっていた。
目のやり場に困ったピケは布切れ一枚を被せて、散らばった白い鎧を集めて隣に置く。
龍化する事を前提に作られているのか、鎧に破損は全くと言っていいほどなかった。
そんないつ目ざめてもおかしくない様子のジュッテを見て、ピケは気が気ではなかった。
それはそうだろう、もしもメルルがいなければ、ピケはランプの火を消されて失格になったどころか、殺されていたかもしれないのだ。
そんな敵の横で、飯を食うなど正気ではないとピケ思った。
実はピケは場所を移動した方がいいのではないか、とメルルに提案していたのだが、何故だか却下された。
ピケにはメルルの考えが全く分からない。
(まぁ……でもメルルがいれば安心か。とりあえずメルルはジュッテを歯牙にかけないくらい強いという事は分かったんだし)
ピケはそう考える事で納得する事にした。
ふと、メルルを見ると、メルルは幸せそうに、バスターウルフの肉を頬張っていた。
信じられない事に、3mの巨体の半分以上は既にメルルの腹に収まっている。
明らかにメルルの体積以上の量を食べていた。
どこにそんな量が入るのか、とピケは邪推する。
(それよりも……最後どうやったんだ?)
ピケはメルルとジュッテの戦いの最後を思い出す。
龍化したジュッテがクラススキルを発動し、力の塊をメルルに射出したところまではピケは覚えていた。
しかし、その後はあまりに眩い光に、思わず目を閉じてしまった。
その所為でメルルが何をしたのか分からなかったのだ。
気がつけば、無傷のままのメルルと全裸のジュッテが倒れていた。
全く意味が分からない。
と、ピケが深い思考に囚われていたその時だった。
「う……うん……」
小さな声が漏れ、優れた聴覚を持つピケは、瞬時に音の方へと視線を向ける。
すると、さっきまで気絶していたジュッテが目を擦りながら起き上がっていた。
ハラリと布が捲れ上がり、ジュッテの豊満な胸が露わになる。
「ぶっ!」
思わずピケは鼻をおさえる。
気付くとメルルも鼻を抑えながら、ジュッテの胸を凝視していた。
「ここは……ってひぇぁっ!?」
ようやく今の自分の状況を理解したのか、ジュッテが胸を手で隠し、顔を真っ赤にしながら縮こまった。
それでもメルルはそんなジュッテの痴態をじっくりと凝視している。
「ここは……そうよ、確か私は……そう、負けたのね……」
ジュッテは何かを思い出したように、じっとメルルを見つめる。
するとジュッテは何かを悟ったように、俯いた。
どうやらメルルに完膚なきまでにやられた事を思い出したのだろう。
ジュッテは何かを決意したように、キッと鋭い視線をピケとメルルに向け、立ちあがった。
「さぁ、煮るなり焼くなり好きにしなさい!」
するとジュッテは顔を紅くし、恥じらいながら、布をバサリと払った。
鍛え抜かれた美しい肌が露わになる。
というか、全裸だった。
「ぶっ!」
メルルとピケが再び、鼻を押さえる。
(何やってるんだこの娘は!? 頭がおかしいのか!?)
と、混乱していると、ジュッテは覚悟を決めたような瞳でメルルを見た。
「我が生涯の全てをあなた様に捧げるわ。どうか、私を伴侶にして!」
「「え……?」」
ピケはもちろん、メルルも目を点にしてジュッテを見た。
しかし、次の瞬間、メルルはキリッとした表情になって答えた。
「いい……かもしれない」
「ってちょっと待って! メルル何言ってるの!?」
ピケは慌ててメルルの口を覆う。
もごもごするメルルを他所にピケはジュッテに言った。
「君も何言ってるの!? さっき僕らを殺すって言ってなかったっけ!?」
「龍は生まれつき強大な力を持って産まれるわ。だから人間如きに敗れる事は許されない。だけどもしも人間に敗れ、全裸を見られた時は、その人間と伴侶にならなければならないという掟があるの」
「全裸を見せたのは君からだよね!? 今の脱ぐ必要あったの!?」
「全裸を見せなければ伴侶にはなれないの。その儀式みたいなものよ」
「でもメルルは女の子だよ!?」
「龍に性別は関係ないわ。アレだって生やす事も可能よ」
その瞬間、メルルが顔を真っ青にして口を開いた。
「それは勘弁してくれ……」
ジュッテは恍惚とした表情を浮かべ、メルルを見た。
「あなたは……メルルと言うのね……。さっきの戦い、御見逸れしたわ。私の完敗よ。どうか……私をあなた様の伴侶にして」
ジュッテのいきなりのプロポーズに、ピケはパニックになる。
(メルルとジュッテが結婚!? 一体どうなってるんだ……!)
あまりの事態にピケは呆然と二人を見つめる事しか出来ない。
メルルはじっとジュッテを見た後、少しの間を置いて答えた。
「ジュッテだっけ? ごめん、それは出来ない」
「ええっ!?」
ピケはメルルの返答に驚いた。
さっきまではちょっと鼻を伸ばしていたのに、今は真剣な表情だ。
ジュッテも驚愕に目を見開いている。
「ジュッテ……君は嘘を吐いているな」
「……え?」
ピケはメルルの言葉に固まった。




