第25話 画竜点睛
「く……レベルの低い犬如きにこの私が触れられるなんて……」
ピケを一撃でノックアウトさせた龍人の少女、ジュッテはわなわなと震えながら、地面に倒れているピケを睨みつけた。
ピケは今にも吹き飛びそうな意識の中、精一杯の笑顔をジュッテに向けた。
「へっ……一発ぶん殴ってやったよ。こんなレベルの低い犬っころに殴られるなんて龍人て、大した事ないんだね」
「こ、このッ……! 畜生風情の分際で、この私になんて口の聞き方……! 殺してやるッ!」
ジュッテは目を吊り上げてピケを睨みつける。
だが、急にキョロキョロと辺りを見渡して、何かを見つけた瞬間に、ジュッテはニヤリと笑った。
瞬間、ジュッテの姿がピケの視界から掻き消えた。
ピケはキョロキョロと辺りを見渡すと、ジュッテは肉を焼いている炎の側で何かを拾い上げていた。
「くっ……クク。良い事を思いついたわ。これ、なんだと思う……?」
ジュッテはニヤリと笑いながら何かを掲げた。
それは透明のケースの中に、小さな青い光を灯した蝋燭があった。
それを見た瞬間に、ピケは己の失態に顔を歪ませた。
「それは……僕の【ブレイブランプ】! くそっ! やめろ、返せ!」
ジュッテはピケの悔しそうな叫びにますます唇を吊り上げた。
「やっぱりあんたはこっちの方が効くようね。このランプは勇者志望者にとっては命よりも大切なもの……。今からあんたのランプをぶっ壊してやるわ!」
「や……やめろ!」
ピケは絶望に包まれる。
ここは弱肉強食、弱い者が負ける絶対真理の世界。
ピケは自分の弱さを心底憎みながら、今にもランプを地面に叩き壊そうとするジュッテの姿を見つめた……が、しかし。
「あら……?」
ジュッテが何かの異変に気付き、恐る恐る手を見る。
……しかし、ジュッテの手の中には、ランプが無い。
忽然とランプの姿が消えていたのだ。
ピケは何かに気付き、おずおずとメルルに視線を向けると……。
「恩人のランプに何してくれようとしてんだ。危ないからこれは俺が持っておく」
メルルの手の中にはブレイブランプが収められていた。
あれは間違いなく、自分のランプだとピケ確信する。
なんとメルルは目にも留まらぬ速さで動き、ジュッテからピケのランプを奪い返したのだ。
そのメルルの姿を目撃したジュッテは驚愕に目を見開いた。
「な、なんですって!? 今何をしたというの!? 何も……見えなかった! この私からランプを奪い取ったというの……!?」
驚愕するジュッテを見たメルルはニヤリと笑ってジュッテに笑いかけた。
メルルはピケのランプをちょこんと頭の上に乗せる。
「お嬢さん、そんなにピケ少年のランプを壊したいなら、俺から奪ってみなよ。頭に置いとくからさ」
メルルの挑発の言葉に、ジュッテの顔が怒りに染まる。
「な……舐めやがって! あんたの方からまずバラバラにしてやるわ!」
瞬間、ジュッテの姿が掻き消えた。
と、同時にメルルの姿もピケの視界から消える。
ピケには両者の動きが速すぎて、目で捉える事が出来なかった。
瞬間移動のように、二人の姿が一瞬見えるだけで、どんな動きをしているのか分からない。
それでもジュッテの驚愕したような表情と、ランプを頭に乗せたままのメルルを見ると、どちらが優勢なのかは一目瞭然だ。
「わ……私の動きについて来られるですって……!? な、なんなのアンタは!?」
ジュッテは立ち止まり、信じられないとばかりにメルルを見つめた。
しかし、メルルは表情一つ変える事なく、じっとジュッテを見つめていた。
当たり前のようにメルルの頭の上にはピケのランプがちょこんと乗っている。
(……やっぱりメルルはすごい! あのスピードの中、ランプを頭に乗せたままなんて、一体どんな体幹をしてるんだ?)
ピケは呆然と二人の攻防を見つめる。
するとメルルが不意に背に隠し持っていたものをジュッテに見せた。
それはもう一つの【ブレイブランプ】だった。
瞬間、ジュッテは目を見開いて驚く。
「そ……それは、私のランプ!? 一体いつの間に!」
「ピケ少年のランプを奪い取った時だ。やられたらやり返すのが俺のモットーなんだ」
メルルは軽口を叩きながらジュッテのランプを頭の上に乗せた。
ランプ二つがメルルの頭の上で灯っている。
(メルルはやっぱりすごい……あの龍人ですら子供扱いだ……)
ピケはメルルの底知れなさに、もはや笑うしかなかった。
……しかし。
「こ……この、絶対に……絶対に許さない……!」
ジュッテがプルプルと震え、顔中に筋が現れる。
金の瞳は輝きが増し、威圧感が増大する。
「ガァァアアア!」
瞬間、ジュッテの姿が一変した。
体が4m程の巨体に膨れ上がる。
体は真っ白な鱗に包まれ、すらりとした体の中には鍛え込まれた筋肉がしっかりと宿っていた。
しかし、縦に割れた金色の瞳は未だに健在のままだ。
ピケの目には、真っ白な龍となったジュッテの姿が映っていた。
凄まじい威圧感にピケは体がブルリと震える。
ピケはすかさず鑑定を使った。
名前:ジュッテ 【ホワイトドラゴン】龍人
クラス:ドラゴニック・ル・グラン
クラススキル:アイアンメイデン
Lv:37
EP:5,678
「エーテルポイントが倍以上に膨れ上がってる!? まずい!」
しかし、メルルは完全な龍となったジュッテを見ても、少しも動じずに、ランプを二つ頭に乗せたまま、静かに佇んでいた。
メルルは左手を地面と垂直になるように立て、右手は脇に添えている。
足を半開きにして、重心を低く落としていた。
その構えにピケは見覚えがあった。
「本気で潰してやる……! クラススキル発動! これがドラゴニック・ル・グランの真骨頂、アイアンメイデンよ!」
ジュッテは牙の生え揃った口をメルルに向けて大きく開けた。
光が力となってジュッテの口へと収束していく。
「メルル!」
ピケは叫ぶが、それでもメルルはじっと佇んだままだった。
流石のメルルもこの凄まじいエーテルの高まりに、受け切れないのではないかとピケは焦るが……。
「ガァァァアアアッ!」
光の玉がとうとう臨界点を超え、迸る力の渦が佇むメルルに迫る。
あまりの光量にピケは思わず目を瞑った。
……しかし。
「画竜点睛」
メルルがそう呟いた瞬間、凄まじいまでの光がピタリと消え、威圧も消え去る。
ピケが目を開けるとそこには、二つのランプを頭に乗せたまま、何事もなく佇むメルルの姿と、大の字で素っ裸で仰向けに倒れているジュッテの姿があった。
「……は?」
ピケは呆然と呟いた。




