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第19話 ヴルドの森



 光が収束し、やがて周囲の様子が明らかになる。

 魔法陣によって魔王領、ヴルドの森へと転移したピケは目を開け、キョロキョロと周囲を見渡した。


 真昼間にも関わらず、辺りは薄暗く、木々が鬱蒼と生い茂り、不気味な雰囲気を醸し出している。


 上を見ると紫色の空が広がっていた。

 雲もまるで血のように赤く、雨が降れば本当に血が降るんじゃないかとピケは身震いした。


 魔王領とは、魔王の加護を一心に受けている土地の事で、太陽の光すらも遮られている。

 作物も育たず、人は全く住む事が出来ない、魔物だけが蔓延る土地だ。

 周囲に生い茂る木は、魔王の加護の土地のみに生える魔樹と呼ばれる、魔王領特有の樹木で、枝が細く、色も灰色なので人骨のように見える。

 控えめに言っても気味が悪い。

 ピケは初めて入った魔王領にゾクリと震えた。


 そんな中、ピケは手の中に大事に抱えていた青い火が灯る蝋燭、勇者の灯火【ブレイブランプ】を掲げた。


「この火を二日間消さずに守り通せば、試験合格だ」


 ピケは気合いを入れ直す。

 キョロキョロと周りを注意深く観察するも、同じ受験生の気配はどこにも感じなかった。

 ピケは試験官のクマゴロウが言っていた事を思い出す。

 魔法陣はこのヴルドの森の何箇所かに設置されており、均等に受験生が分散されるようになっているらしい。


 しかし、ここから受験生が現れる可能性も十分にある。

 それにメルルも去り際に言っていた。


『転送されたらピケ少年は出来るだけ動かず、身を隠していてくれ。俺が必ず見つけに行くから』


 と。ここには魔王領に生息する魔物以上に強い人間、勇者志願者が存在している。

 特に、ピケは広場で最初に声を掛けられた謎の美女を思い出す。

 

 あれほどの強敵と遭遇して、このランプの火を守り切れる自信などピケにはなかった。

 情け無い話だが、メルルの協力無しではこの試験を通るのは難しいと判断したピケは、メルルの言いつけ通り、まずは身を隠せそうな処を探そうとした、その時だった。


「……っ!?」

 

 背後に何かを感じたピケは、獣人の強力な瞬発力を活か、ダッと一瞬にして前方にダッシュし、振り返る。

 するとそこには……。


「っ!? カクータ!」

「……チッ!」


 剣を振り下ろした状態のカクータが、舌打ちをしながらピケを睨みつけていた。

 カクータの剣は正確にピケの持つランプを捉えており、もしも即座に反応出来ていなかったら、ランプごと斬られていただろう。


「お前……! どうしてここ……!」


 カクータは避けられた事に焦りの表情を浮かべていたが、ピケの言葉を聞いた瞬間に、何やらホッとしたような顔つきに変わった。


「……その様子やと、今のお前はあのおっかない人形やないみたいやのぅ! 今のうちや! 今のうちにピケ! お前を殺したる! あの時殴られた借りを千倍にして返したるわ!」

 

 ピケはじっとカクータを観察した。

 カクータは以前、メルルのエクストラクラススキル『撚糸』によってピケを操り、ボコボコにされている。

 募り募った恨みもあるだろう。

 ピケは油断なく戦闘態勢に入った。

 だが、ピケはどうしても一つ、気になる事があった。


「……どうしてカクータはここにいるの? あの勇者王のエーテル爆発を自力で乗り越えたの?」

 

 カクータは自分よりはレベルが上だが、はっきり言ってあのエーテル爆発を受けて、立っていられるとはピケはどうしても思えなかった。

 あの場にはカクータよりもレベルが上の者はたくさんいた筈だと考える。


 するとカクータは訝しげな表情で応えた。


「何言うとんのや? ワイは遅れてきたから前座は見とらんけど、今回は受験者が少ないみたいでラッキーやったのぉ。たった百人だけとは拍子抜けやわ。まぁ、こんなヤバい処に連れていかれるんや、怖気付くのは分かる。けど勇者になるこの選ばれし男、カクータ様や! ワイに不可能はないんや!」


 堂々と言い切るカクータをピケは目を点にして見ていた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 同じこと考えてたらピケが言ってくれた 元のピケより少し強いくらいのカクータが本試験に進めるわけないからな これは、運も実力のうち、の、 ラッキーマン的なキャラなのか?
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