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第16話 喝

 

 泡を吹いて気絶している大男、リッピの横でメルルが平然と口を開いた。


「ところでいつ試験は始まるんだ?」

「う、うん、多分もうそろそろだと思うけど……」


 ピケが気絶しているリッピに哀れな視線を送りながら返答する。

 おずおずと顔を上げると、皆が一点を見つめている事にピケは気付いた。

 皆が見つめる視線の先にはベルレフィリア城の天守閣があり、その露台を取り囲むように様々な楽器を持った楽団が見えた。

 とその時、一斉にラッパの大合唱が始まり、男の野太い怒号が辺りに響く。


「勇者王カゲトラ様のおなぁぁりぃぃぃ!!」

「「「うぉぉぉぉおおおおおおお!!」」」


 その瞬間、地響きを起こすような人々の歓声が沸き起こった。

 太鼓やラッパの大合唱もここぞとばかりに場を盛り上げる。

 

 いったいこれから何が起こるのか、ピケは混乱しながらも前を見続けた。

 すると天守閣の露台から一人の大男がぬっと現れた瞬間、人々の怒号のような声がさらに大きくなった。

 

 そんな興奮気味の人々を尻目に、ピケは注意深くその男を観察する。

 ここから何百メートルと離れているというのに、男の姿ははっきりと見えた。

 

 おそらくそれは2mを優に超えているだろう筋骨隆々の体躯と、そのあまりに常人離れした圧倒的な純度のエーテルがそう見せているに違いない。

 

 隣で気絶している男とは放つエーテルがまるで違っている。

 男は見事としか言いようのない真っ白なローブを羽織っており、手には3mを超える立派な長槍を構えていた。

 

 男の髪は色素が全て抜け落ちているのか、白雪のように真っ白であり、爛々と鋭く光る眼光は歴戦の猛者を思わせる。 


「おお……あれは強いな……」


 メルルがポツリと小さく呟いた。

 珍しいメルルの賞賛の言葉を聞いて、ピケは内心で同意しながら鑑定を行った。


名前:カゲトラ【ベルレフィリア王国・国王】

クラス:エクストラウォリアー

クラススキル:断裂拳

Lv:81

EP:110,340


「レベルが81……!? それにエーテルポイントが11万を超えてる!?」


 ピケはあまりの凄まじいステータスに一瞬、言葉を失った。

 遠くからでも分かる溢れださんばかりのエーテルがカゲトラの存在感を増大させている。

 ピケは呆然と呟いた。


「噂には聞いていたけど、あれが勇者を束ねる勇者十傑の一人にして、ベルレフィリア王国の国王……勇者王カゲトラか……! 凄い威圧感だ」

「へぇ……有名人なんだ」


 メルルが嬉しそうに呟いた。

 ピケは両親が勇者だった事もあり、勇者については多少の知識があった。

 

 よく両親が言っていた。

 勇者の称号を持つ者はこの世に少ないが、その中でも勇者達の頂点に立つ10人の勇者の存在を聞かせてくれたのだ。

 

 その者達は勇者十傑と呼ばれ、突出した力を持っているらしいという話だ。

 

 ピケは実際に自分の目で見た事で理解出来た。

 目の前の勇者王カゲトラの持つ力が本物だという事が。

 

 そこで、己が知る知識をメルルに伝えると、メルルはますます唇を吊り上げて、その端正な顔で深い笑みを浮かべていた。


「あれ程の傑物があと9人もいるのか……これは是非とも手合わせ願いたいな」


 臆するどころか嬉しそうに笑うメルルに、ピケは心から頼もしく思う。

 あれ程のプレッシャーを浴びても、笑っていられるのはメルルくらいだろうとピケは考える。


「でもさぁ、あんなに強いのが10人もいるんだったら、魔王なんてすぐに倒せるんじゃないか?」


 何気なくメルルが呟いた疑問を、ピケは即座に否定した。


「いや、それでも魔王は倒せないんだ。魔王の強さははっきり言って別次元。100年前に十傑全員が魔王に挑んだ事があるんだけど、それでも倒せなかったらしいんだ」

「そうなのか……! って待て、100年前だって? 魔王は一体いつからこの世界に存在しているんだ?」

「今からだいたい300年前からいたって言われてるよ。魔王討伐は人間の宿願なんだ」

「300年前……」


 なにやら考え込むメルルを見て、何か思うところがあるのだろうか、と邪推する。

 魔王の持つ力はレベルの低いピケでは到底計り知る事が出来ない。

 

 しかし、それは目の前にいるメルルも同じ事だ。

 カクータを指先一つで倒し、天にも到達しそうなエーテル量を誇るメルルの実力もピケでは捉え切れない。

 

 ただメルルを近くで見て思う事があった。

 もしかしたらメルルなら300年間一度も敗れた事のない魔王にすら届き得るのではないか……と。

 

 メルルは突然人形に宿ったと言っていた。

 また、この世界の情勢にも疎く、たまに訳の分からない言葉を話す。

 

 メルルの正体は一体何者なのか、日に日に好奇心が増してきていた。

 しかし、メルルは以前言ってくれた。

 

 正体はいつか必ず話す……と。

 ならメルルから話してくれる機会を待とうとピケは誓った。

 それこそ、いろんな事から自分を救ってくれた恩人に対する礼儀だとピケは思ったのだ。

 

 時には弟子として……そして唯一自分を案じてくれる大切な友達として……。


 そんな中、天守閣の露台で異様なプレッシャーを放っていた勇者王カゲトラがようやく口を開いた。


「よくぞ集まってくれた、前頭有望な勇者志願者達よ。儂こそが勇者王カゲトラ。勇者十傑の一人にして、今回の選抜試験を取り仕切る者である」


 重低音の深く威厳ある声音が広場に響く。

 ピケ達がいる場所まで随分と距離があったが、何故かここまではっきりと声が聞こえた。


「勇者に必要なもの……それは……一つ! 他を寄せ付けない圧倒的な実力! 二つ!研ぎ澄まされたアダマンタイトのような精神力! そして三つ! 何者も恐れない勇気であるッ!」


「「「「うぉぉおおお!!!」」」」


 カゲトラの言葉に会場が沸いた。


「勇者達よ、今立ち上がれ! 今こそ魔王を倒す為に立ち上がるのだ! 今から儂から君達に餞別を贈るとしよう!」


 カゲトラはそこで言葉を区切った。

 会場がカゲトラの言葉によって湧きに湧いている。

 ……しかし、その瞬間。

 ピケの第六感とも呼べる直感が激しく警鐘を鳴らした。


(……何か来る!)


 その時だった……!


『『『『喝ッッッ!!!!』』』』


 ドォォオオオオン!!


 カゲトラが耳をつんざくような大声で叫んだ、その瞬間。

 カゲトラの体の中から、爆発するようなエーテルが溢れ出した。

 一瞬にして会場中を包みこんでいく。


 カゲトラの全開のエーテル爆発を間近で受けた勇者志願者達、一万人のほとんどが地面に倒れた。

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