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第8話 撚糸(ねんし)

 


 俺こと、メルルは珍しく怒りを感じていた。

 命の恩人とも呼べるワンちゃんの耳と尻尾を生やしたピケ少年が、関西弁を流暢に話す青年に馬鹿にされていたからだ。

 

 それも原因は俺のせいで。

 ピケ少年は心優しい少年だ。

 こんな俺をデートに誘ってくれ、まるで人間のように接してくれた。

 この世界に来て、本当に良かったと思える程にだ。

 そんな大恩ある少年が今まさに、男に剣を向けられている。

 

 店を出た男とピケ少年は俺を連れて広場へと向かい、ピケ少年と関西弁の青年が戦闘を始めたのだ。

 それは一方的なリンチだった。

 ピケ少年には他の人にはない、素晴らしい才能が眠っている。

 それは俺が今まで見た事もない程の凄まじいものだ。

 

 俺にはよく分かる。

 しかし、今のピケ少年は才能があまりにも磨かれておらず、俺から見たら素人も同然。

 そんな相手に関西弁の青年は体格差も考えず、一方的にピケ少年を剣で斬りつけていた。

 わざといたぶるようにピケの皮膚を浅く斬っている。

 典型的な弱者を痛めつける行為だった。


 俺ははらわたが煮えくり返りそうになる。

 だが、悔しい事に今の俺は人形でしかない。

 指先一つ動かせない。

 指一つさえ動けば、あんな男など敵ではないと言うのに……。

 

 ここで俺はある事を思い出した。

 それは丁度二週間前に、あのシズとか言う怖いお姉さんが言っていた事だ。

 なんと俺にはクラススキルというものがあるそうだ。

 そしてピケ少年も、かつて愚痴と一緒に語ってくれた。

 

 生物は皆、『鑑定』を使う事が出来、クラススキルも魔法以上の効力があるらしいというのだ。

 俺はゴッズアーティファクトとかいうアイテムのはずなのに、何故か生物のようにステータスもあるらしい。

 

 ならば俺でもその『鑑定』も、もしかしたら使えるかもしれない。

 俺はその事を思い出して祈った。『鑑定』と。

 すると、それは現れた。


 名前:メルル(Gods Artifact)

 Exクラス:操り人形師【パペットマスター】

 Exクラススキル:撚糸ねんし

 Lv:——

 EP:Ex


 現れたステータスの中で、俺はクラスとクラススキルの項目に注目する。

 操り人形師【パペットマスター】。

 それは人形の俺からすれば皮肉な言葉だ。

 

 ……操られるはずの人形が操る者ってどういう事だ……?

 

 だがその疑問も一旦置いておく。

 今はそれどころではない。

 俺はもう一つ気になった、クラススキルにある『撚糸』をさらに鑑定してみた。

 すると……。


 『撚糸』……生物の五感全てを支配するパペットマスターのみに許されたExスキル。


 その項目を見た瞬間に俺は決意した。

 これを使えばピケ少年の窮地を救えるかもしれない!

 

 俺はキッ、と視線をピケ少年に向ける。

 ピケ少年は全身が血だらけになっており、今にも倒れそうな程、ボロボロだった。



「もう遊びもここまでや。ほな死んでもらおか。お前の顔なんてもう見たないねん、ほなな」


  関西弁の男が剣を上段から真っ直ぐに、ピケ少年へと振り下ろす。

 ピケ少年はそんな光景を虚ろな目で見つめるばかりだ。


 まずい……! 

 間に合え! とばかりに俺は祈るように唱えた。


『撚糸』! 


 その瞬間、俺はまるで空間転移したように視点が移動した。

 今目の前にあるのは、嫌らしく笑う関西弁の男の顔だ。

 

 上段からは、俺の命を刈り取ろうと剣の刃が迫って来ている。

 俺は瞬時に状況を理解し、指を小さく動かす。


 ポキ……。


 瞬間、俺はニヤリと笑った。

 体が動く。

 どうやら撚糸が上手く発動し、ピケ少年の体を動かす事に成功したようだ。

 

 だが、もう剣が頭に触れる直前だ。

 しかし、それでも何も問題ない。

 体さえ動けばこんな剣など、静止しているのと同じ。

 俺はピケ少年の少ないエーテルを練り上げ、素早く右手に移動・収束する。

 そのままエーテルを指先に流し込み、電光石火の如く、上手うわてに振り上げた。


 キンッ! と硬質な音が響き渡る。

 関西弁の男が驚愕に目を見開いた。


「な……なんやとぉっ!?」


 俺は指先一つで、関西弁の男の剣を受け止めて見せた。

 男は信じられないとばかりに、ぐぐっと剣に力を込めるが、全くビクともしない。


「そ……そんな訳ないやろ! ワイはレベル17の剣士やぞ! レベル3のゴミに止められるはずないっ!? エーテル量やってワイの3分の1しかない筈やのに!」


 喚く男に俺は静かに告げた。


「レベル差なんて関係ないって。要は使い方の問題だ。俺に言わせたらこの世界の人達はエーテルの使い方がなっちゃいない。もっと修行した方がいいんじゃない?」


 俺は指先をピンッと弾く。

 少ないながらも練り上げたエーテルを強化し、一点に集中させて指先に乗せた。

 すると剣が、今度は男の方へと高速で帰っていき、剣の柄が男の頭に直撃する。


「がふんぁっ!」


 男がみっともなく尻餅をつく。

 目からは少し涙も出ていた。


「な……なんでや……こんなんおかしいやろ!  鑑定! なんでや……こいつ、ステータスも前と変わってへんぞ」


 俺もピケ少年を鑑定で見てみる。


名前‥ピケ 犬族【ワンダフル】の獣人

クラス:戦士【ウォリアー】

クラススキル:なし

Lv:3

EP:48


 対して俺は男のステータスも見た。 


名前:カクータ 

クラス:剣士

クラススキル:なし

Lv:17

EP:150


「なんでやねん! 何が起こっとるんや……」

「エーテルを一点に集中させて放出させたんだ。あんたはただエーテルを纏わせているだけ。無駄に力を分散させすぎなんだよ。たとえエーテル量が少なくても、技術と経験でエーテルの量の差はなんとでも覆せる。こんな風に」


 足にエーテルを集中。

 そしてドンッ、と地面を強く踏み込むと地割れのように地面が割れた。

 その地面の隙間に男はすっぽりと埋まり、身動きが取れなくなる。


「お……お前は一体誰なんや!? ピケに……あんなゴミにこないな事出来る訳がない!」


 俺はピケ少年を侮辱された事に怒りのボルテージがまたひとつ上がる。


「俺はメルル。あそこでぐったりしてる人形に宿っている者だ」


 俺は人形の体の方に指を指す。

 人形は相変わらず死んだ魚のような目でこちらを見ていた。

 なるほど確かに気味が悪い。


「な……なんやて……」


 まぁ、簡単には信じられないだろう。

 でもそんな事は関係ない。

 俺は残り少ないエーテルを拳に集中させてポキポキと指を鳴らす。

 一歩、一歩、男が埋まっている方へと近づく。


「よくも散々、俺の恩人を侮辱してくれたな。俺への侮辱は別に良い。けど、ピケ少年に対する侮辱だけは絶対に許さない。覚悟は出来ているな?」


 どんどん近づく俺に、男はみっともない悲鳴をあげた。


「ヒィ、ヒィイイイイ! も、申し訳ございまへんでした! 全部ワイが悪うございましたです! 見逃して下さい!」

「俺じゃなくてピケ少年に謝れ」

「わ、分かりました! ピケ様にも精神誠意謝りとぉ御座います! ですから、どうかこの通り!」

「よし」


 俺はひれ伏す男の前で頷くと、エーテルを集めた右拳を大きく振りかぶる。

 腰を下ろし、男の顔面へと狙いを定めた。

 その光景を見た男が呆然と俺を見つめる。


「あ、あの……謝ったら見逃してくれるんではなかったのですか……?」

「謝っただけで許したら警察はいらんでしょ。それとこれとは別。あ、殴った後にピケ少年に謝らなかったらどんな手を使ってでもあんたをボコボコにしに行くから」

「けいさつ……? って、そ……そんにゃあ……」


 俺は思いきり大きく振りかぶって、死なない程度にエーテルを乗せた拳を男の顔面に叩きつける。

 ズバッ! と小気味良い音が場に響いた。


「ぶべらッ!」


 男の頬を減り込んだ拳は、男の歯を粉砕しながらより遠くへ殴り飛ばす。

 みっともない悲鳴をあげながら、男は冗談のように吹き飛び、100m先にある広場の噴水の中へ、ドボンと大きな水飛沫をあげて落下した。


「ふぅ。これでお掃除完了……と」


 片づけを終わらせた俺は、ぐったりと動かないメルル人形を担いでピケ少年の家へと向かった。

 久しぶりに体感する自由な体を満喫しながら。


 心の中でピケ少年に謝りながら、せめて家路に着くまではこのままでいようと思った。



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