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第6話 デート

 家に帰る途中、ずっとメルルを抱きかかえていたピケは行き交う人々から突き刺さるような視線を感じていた。

 ようやく家に着くとホッと胸を撫で下ろし、部屋のベッドにそっと腰掛けるようにメルルを置く。


 人形とはいっても、見た目は本当に人間の少女にしか見えない精巧な作りだ。

 

 すれ違った人は何を思ったのだろうか、とピケは気が重くなる。

 とりあえず知り合いに出くわさなくて良かったと安堵した。


 ピケの部屋ははっきり言ってボロ屋だ。

 部屋は非常に狭く、ベッド以外には机が一つあるだけ。

 だが余計なものがない分、スッキリしている。

 ピケのような初心者冒険者はまだまだ稼ぎが少なく、おまけにカクータからは足手纏いだからという理由で、魔物討伐の給金も等分ではなく、極々僅かしか貰えなかった。

 

 よって家賃にお金をかける余裕の無かったピケはずっとこの部屋に住んでいたのだ。

 しかし、こんなにも狭く、所々壁が剥がれているような汚い部屋ではあるが、一人で住む分には問題はない。

 だが……ピケは恐る恐るメルルに視線を向けた。

 部屋が狭いせいで、ベッドに腰掛けるメルルへと視線が否応無く、向いてしまう。

 メルルは相変わらずどこを向いているのか分からないような虚ろな視線でベッドに腰掛けていた。

 それにしても……とピケは思う。


「この子……凄く綺麗だよね」


 ピケは食い入るように、改めて人形・メルルを見た。

 煌びやかな金髪は腰まで伸び、どこまでも青い瞳は澄みきっている。

 目・鼻・口は完璧にまで整っており、もはや人間離れしていた。

 背丈はそれほど高くはなく、ピケと同じくらいだ。

 年もピケと同じ10歳程で、着ている真っ白なワンピースもメルルに良く似合っていた。

 だが、ピケはどうしても気になってしまう事があった。


「夜とか勝手に動き出さないよね……?」


 ピケはこのメルル人形は神が作ったものだという事を思い出した。

 なら、何が起こってもなんら不思議ではない。

 ただ、ゴーストやアンデッド系の魔物が苦手なピケは夜勝手に動き出す事だけはやめて欲しいと心から願う。

 トイレに行く時に位置が違っていたりしたら、漏らす自身がピケにはあったからだ。


「でもまぁ……これからよろしく。こんな部屋で申し訳ないけど」


 こうしてメルルとピケの奇妙な共同? 生活が始まった。





 それから二週間が経過した。

 ピケは新たなパーティメンバーを探すも、やはり一年経ってもレベルが3のままという理由で未だにどこのパーティにも入れてもらう事が出来ていなかった。

 僅かだった貯金も底を尽きかけており、日に日に焦りが募ってくる。

 ソロで隠れて魔物討伐に赴いたりもしたが、やはり一人では弱い魔物ですら倒す事が出来なかった。


 この体たらくでは勇者選抜試験に合格するなんて夢のまた夢だ……と絶望する日々だったが、いつも帰るとメルルがちょこんとベッドに座っている。

 何故だかピケはメルルを見ると、安心感を覚えていた。

 メルルに対し、包み込まれるような何かを感じていたのだ。

 最初は正直、全く無表情のメルルに対し、ちょっと不気味かも……と思っていたが、人間とは良くも悪くも慣れるもの。

 一週間もすると、ピケは完全に気にならなくなっていた。


 それどころか、今日一日の出来事や、愚痴についてもいつの間にかメルルに漏らしていた。

 まぁ、独り言になってはいるが。

 しかし、それでもピケはそんな自分の事を暖かく見守ってくれているような気がしてならなかった。

 もはやピケにとって、メルルとはなくてはならない存在であり、大切なパートナーだった。

 

 そんなある日の事。

 パーティメンバーは未だに見つからずにいるが、ピケは気晴らしに、近くのカフェに行く事にした。

 目的は一つ。

 それは……。


「今日は久しぶりにメルルに外を見せてあげたかったんだ」


 そう、なんとピケはメルルを外に連れ出したのだ。

 雲ひとつ無い晴天が見渡せるオープン型のカフェにピケはメルルと向かい合っていた。

 もちろん紅茶は二人分。

 周りの人々もまるで動かないメルルを訝しげに見ていたが、ギリギリ大人しい少女に見えているのか、メルルが人形だという事に誰も気が付いていない。

 

 ピケは自分がとった大胆な行動に、恥ずかしさはあったが、後悔はなかった。

 いや、正直人形を人と見立てて会話すること事態、恥ずかしいどころではないのだが、もうピケにとってメルルとはただの人形ではなく、苦楽を共にするパートナーだ。

 たまにはこんなことも良いのではと思ったのだ。

 

「今日は天気が良いね。メルルもそう思わない?」


 ピケがふんわりと笑みを浮かべながら言った。

 それでもメルルはじっと死んだ魚のような目で虚空を見つめるだけで、ピクリとも動かない。

 いつもと変わらない反応だったが、ピケにはそれで十分だった。


 ……しかし。


「お? ピケやないか」


 ピケの心臓はビクリ、と跳ね上がった。

 聞き覚えのある声に、ピケは一瞬で顔が真っ青になる。

 バクバクと心臓の鼓動を響かせながら、ゆっくりとピケは振り返るとそこには、ピケを追い出した冒険者、カクータがいた。

  

「はぁ? なんやとぉ!? ピケが女連れてデートしとるやとぉ! しかもめちゃくちゃ別嬪やないか!?」


 最悪の再開にピケは目の前が真っ暗になった。




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