第5話 ゴッズアーティファクト
名前・メルル(Gods Artifact)
Exクラス:操り人形師【パペットマスター】
Exクラススキル:撚糸
Lv:くまさん
EP:うさぎさん
「ゴッズアーティファクト!? それに生き物みたいにステータスまである!?」
ピケは驚愕して叫ぶ。
シズはそんなピケの様子をじっと見つめていた。
「おそらく前の持ち主もピケくんと同じように『メルル人形』としか出なかったんだわ。これは極めて貴重な人形よ。ゴッズアーティファクトの効果かしら。この人形はもしかしたら私達みたいに生きているのかもしれない」
「……っ!? 人形が生きてる?」
確かにこの世界にはホムンクルスや、キリングドールといった人に似た種族は存在する。
しかし、この鑑定結果を見る限り、この人形は明らかにどちらの種族でもない。
ゴッズアーティファクトと書かれているという事はアイテムに近い存在なのだろうが、それにしてはステータスまであるのが不思議だ。
こんな事は見た事がないとピケは思った。
「それにExクラスとExクラススキルなんて初めて見たわ。操り人形師……? 人形が何かを操るというの……?」
ピケもまじまじとメモ用紙を見た。
クラスというのはその者がどういった職についているのかが表示される項目だ。
剣を持って戦う者なら『剣士』や『戦士』、鍬を持って耕す者は『農家』といった具合にだ。
さらにクラススキルとはそのクラスに就いた際に与えられる特殊能力の事で、魔法に近いが、それ以上に強力だ。
それにこの人形のようにExが冠詞につくクラスなどピケには聞いた事も見た事もなかったが、どうやらそれはシズも同じようだった。
「あのシズさん……? レベルとエーテルポイントの項目もおかしいみたいなんですが……?」
ピケがもう一つ気になった事、それはレベルとエーテルポイントの欄だった。
くまさんとうさぎさんと書かれてるが、流石にこれは何かの間違いなのでは、とピケは突っ込まずにはいられなかった。
「……そのようね。どうやら私のレベルですら正確にこの人形を鑑定出来ないという事みたいね……」
シズが悔しそうに呟く。
その姿を見て、ピケは驚愕した。
シズはプリーストであると同時に高ランクの冒険者でもあった。
そのレベルは優に30は超えている。
シズですら底が見えないというこの不思議な人形に、ピケは戦慄した。
だが、シズは急に手を擦り合わせて、何故だが猫撫で声でピケに言う。
「ねぇ〜、ピケくん? ところで、ものは相談なんだけどぉ〜。このゴッズ、いや、お人形さんを私に譲る気はないかしら? もちろんタダとは言わないわ。それ相応の……いや、言い値で買うわぁ!」
ガバッと、欲望に塗れた顔で、シズは顔をピケにずいっと近づける。
再び冷静沈着とはかけ離れた存在となったシズは鼻息を荒くして続けた。
「で……でも……」
「ピケくん、聞いたわよぉ〜? カクータのパーティを追い出されちゃったんだって? それならお金に困っているわよねぇ? いい機会じゃな〜い? お人形さんなんか持ってても何にもならないでしょ? ならこの私が有効に活用してあげるからさぁ〜! それにメルルちゃんのお顔もおねぇさんのすっごい好みだしぃ!」
今まで見たこともない一面を見せるシズを直視してピケの中でのシズのイメージは音を立てて完璧に崩壊した。
だが、これからお金のあてがなくなるのは本当の事だ。
少し悩むピケに拍車をかけるようにシズは言った。
「分かった! なら私の全財産をあなたにあげるわ! それなら文句ないでしょ!? ねぇ、どうなの!?」
今度は語気を荒くしてシズがピケに詰め寄ってくる。
シズの全財産と聞いてピケは驚愕した。
この人形にはそれだけの価値があるというのだろうかと思わず気持ちが揺らぎそうになる。
しかし……ピケはちらりと少女を模した人形・メルルの瞳を見た。
相変わらず、死んだ魚のような目をしているが、じっとピケを見ているような気がしていたのだ。
この人形が何かを訴えかけているような……。
そう、この女のところには絶対に行きたくない! と強くピケに訴えかけているような気がしたのだ。
「ごめんなさい、シズさん。この女の子はお金には代えられないよ」
「……理由を聞かせてくれる?」
フッと静かなオーラを発するシズに息を飲みながらピケは答えた。
なにやら答え方を間違えでもしたら殺されそうな恐怖をピケは感じていた。
「僕はカクータにパーティを追い出された。この女の子も持ち主から捨てられてしまった。同じ時に捨てられて、たまたま出会ったなんて、僕らは運命の赤い糸で結ばれてるんじゃないかなって思っちゃったんだ。捨てられた者同士、頑張って生きたいって思った。……って言っても、この子は人形なんだけどね……」
ピケの想いが伝わったのか、シズはぐっと押し黙った。
ピケとの付き合いが長く、ずっとピケを見ていたシズにはピケの想いが分かるのだろうか、少し俯きながら最後にピケに忠告するように告げた。
「そう……残念ね。分かったわ。でもピケくん、忘れないで。彼女はゴッズアーティファクト。命に代えても彼女を奪おうとする輩は必ずいるわ。あなたがその子を守ってあげなさい」
ピケは顔を上げて、キッとシズを見て言った。
「上等! 僕は勇者になって魔王を倒し、この子を守り通して見せるよ」
ピケの力強い言葉が治療室に響いた。