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第十二話 美しい料理には『努力』がある

 『第一の料理』を食べ終わると、次に一つ目のメインディッシュ(魚介料理)が出てきた。


 「なんと、これは...美しい...」


 「いやはや...まさかこれ程の物を作る料理人がこの街に居るとは...」


 出された料理を見た諸侯達の間にざわめきが起こった。ガストロ伯も満面の笑みを浮かべながら、愛おしそうに目の前の『芸術品』を見つめていた。


 出されたのは、『赤エビとズッキーニの花の詰め物(ファルシ)』であった。その見た目は名前の通り、ソテーされたであろうズッキーニの花が実に優美に皿の中心に飾り付けられており、その周りに胡椒の香りがする香ばしいエビが並べられ、更にその上から鮮やかな赤と緑が混ざった美しいソースがかけられており、最後にハーブがそれらの上にそっと乗せられているというものであった。


 「とても素晴らしい料理だわ...ね、ソフィア?」


 「えぇ...(確かに,見事な美しさの創作料理だが…果たして味の方はどうかな?いざ、実食!)」


 どれだけ美しくてもそれに気を取られて味がパッとしないのでは料理としては意味がない。デザートだろうとメインディッシュだろうとその事だけは変わらない真理である...と、いうのがソフィアの兼ねてからの料理全般に対する姿勢だ。


 だから彼女は、まず食べてみてそれから料理に対する評価をせねばなるまい、と考えてさっそくナイフとフォークを手にして、この料理を口にした。


「...っ!(こ、これは...なんという野菜の瑞々しさと味の豊かさだ!)」




 口に入れた瞬間に広がるバターとズッキーニの花のほのかな甘い香りに思わずうっとりするソフィア。そして噛んでみると、このズッキーニの花の中には細かく刻まれたズッキーニの実と玉ねぎ、それにエビといった材料が使われたラタトゥーユが詰められており、野菜が与えてくれるシャキシャキとした食感とエビのぷりぷりした食感とが絶妙に合わさって堪らなかった。


 ズッキーニの周りに飾り付けてある見事な赤エビも、ぷりぷりした心地よい食感はもとより、胡椒と塩、それにビネガーやレモンなどの柑橘類の果汁が加えられている爽やかな味わいで、周りにかかっているトマトとパセリを和えたであろうソースとの相性も最高であった。


 「美味しい...一気に疲れが取れるようだ...」


 ソフィアの疲れは、移動中に長時間同じ姿勢で座り続けることからくる倦怠感や食欲不振といったものであったから、このように塩味の効いていて、更に清涼感を与えてくれるような旬の野菜と魚介を使ったヘルシーな料理が食欲を湧き上がらせてくれて、大変ありがたかった。




 「おや、大層お気に召したようですねソフィア様」


 にこやかな表情でそう話しかけてくるガストロ伯。どこか懐かしい雰囲気を与えてくれる、美食家だという彼に、ソフィアも自然と微笑みながら返事をする。


 「えぇ、とっても。特にズッキー二の花がとてもしっかり『下準備』がされていて感心しました。」


 「というと?」


 「このズッキーニは中の詰め物を容れるための『器』として使われていますが、重要なのはその見た目だけではありません。口に入れたときにバターと花のほのかに甘い香りをさせてくれることに意味があります。それによって中のズッキー二の実の程よいコクが一層際立ちますし、エビの生臭さといったものも解消してくれます。」


 「なるほど。つまり包んでいる花の味が中のラタトゥーユの味を引き立ててくれているという訳ですね?」


 ガストロ伯が興味深そうに耳を傾けてくれるので、更に続けるソフィア。


 「はい。しかし、ただ花で包んだだけではこうはなりません。」


 「さっき言ってた『下準備』、が鍵であると?」


 「その通りです。」


 対象物は甘味ではないものの、なんだか前世で他の美食家たちと行っていた甘味の『研究会』を思い出してソフィアは気分が高揚していた。


 こっちの世界に来てからというもの、ここまで食べ物の話を熱心に聞いてくれる者もそうは居なかった。ソフィアは自分でも自覚していなかったが、その事にどこか寂しさを覚えていたのだ。




 「まず、このズッキーニの花は雄花の物を使っています。一般的に少しではありますが雌花よりも雄花の方が味がよく香りや甘みを感じやすいと言われていますから、材料選びからして素晴らしいと言えます。」


 「ほう、それは何とも...」


 「さらに!このズッキーニの花は雄蕊(おしべ)がきっちりと取り除かれていますね?」


 「え、えぇ...確かに見当たりませんね。」


 少し食い気味のソフィアに当惑しつつも、ガストロ伯は自分の皿の上のズッキーニを見てそう答えた。


 「これが私の言っていた『下準備』です。ズッキーニの花の雄蕊(おしべ)は苦みが強く、きっちりと処理をしなければ醶味(えぐみ)が前面に出てきて折角の他の味を台無しにしてしまいます。」


 「つまり、そういった細やかだけれども極めて重要な準備といったものを行っているところに感心なされた...という事でしょうか?」


 少々驚いた様子でそう尋ねるガストロ伯。


 「はい、その通りです。この通り、見た目は派手に見えますが、その見た目とは裏腹に料理人たちは今言ったような細かい工夫と地道な努力を重ねたからこそ、この素晴らしい『料理(さくひん)』を作れたのです。そして、それは料理全般に言える基本的なことだと思っています。だが、それをできる人はそうは居ません。だからこそ、その基本がしっかりと出来ている料理人に敬意を表したいのです。」


 「...なるほど、よく分かりました。そのお年でそこまでの見識と味覚をお持ちとは将来どうなるか...まったくもって楽しみですな!オルタンス様?」


 ソフィアの話を聞いて感心しながら深く頷くガストロ伯は、オルタンスにそう尋ねる。


 「ふふ、えぇ!自慢の娘ですわ!でも私は今の時点でも既に十分育ってくれていると思っています。それこそ内面については、ちょっと早熟過ぎなんじゃないかと時折心配になるほどですから...母親としてはたまにはもっと子供らしい面も見せてほしいものなのです。」


 「おや!出来が良いお子様をお持ちになると、それはそれで悩みの種になられるのですね...それではソフィア様もさぞかし大変でしょうな、はははっ」


 「まぁ!確かに今のは少し欲張りだったかもしれませんわね!ふふふっ..」


  二人はそんな調子で談笑を始めた。レオはと言えば、他の列席者の諸侯を相手にするので忙しそうだった。そんな中で、ソフィアは一頻ひとしきり話を終えたので満足し、またしても沈黙して目の前の料理の味に集中していった。


 ...そしてメインディッシュの肉料理や箸休めのアントレなど、見事な料理がその後も一定の間隔をあけて運ばれてき、いよいよ最後の一品...デザートがやってくる番となった。

投稿がいつも遅れてしまいまして申し訳ありません!

さて!次回はいよいよデザートの話!(今回こそ!)どんなデザートが出てくるのかぜひ楽しみに!


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