第71話 サメ術師は情報を手に入れる
国王を拘束した俺達は、さっそくサメに載せて移動した。
いつどこから追っ手が来るか分からない。
残された死体をサメに食べさせてから素早く離脱する。
その日の夜、俺達は深い森の中にいた。
収容能力を持つプリズン・シャークを召喚し、内部に設けられた独房に国王をぶち込んだ。
現在も尋問は続いている。
アティシアは閉じ込められた国王の前で欠伸を洩らした。
ぐっと伸びをしてから尋問を再開する。
「さてさて、そろそろ白状しませんかね。勇者召喚のバックアップはどこにあるんです?」
「そんなものは存在せぬ……後ろの男が破壊した」
国王は疲れを感じさせる声で言う。
いつどうなってもおかしくない状況だ。
神経だって磨り減るだろう。
しかも、話し相手はよりによってアティシアだ。
俺は傍観役に徹しているので、彼女と何時間も喋っている。
同情してしまうほどに過酷な環境だった。
そんな事態を生み出すアティシアは、大げさに肩をすくめて反論する。
「サメ男さんが壊した? おかしいですねぇ。絶対どこかにあるはずなんですよ。そうでないと、召喚魔術の触媒を集めているのがおかしいですから」
俺達は去り際に国王の一団の荷物を漁った。
その中に勇者召喚に必要なアイテムがあったのだ。
アティシアによると十人くらいは呼び出せる量らしい。
つまり国王は、再び勇者を呼び出そうとしている。
肝心のバックアップは所持していなかったが、その方法がまた潰えていないのは確かだった。。
アティシアは壁に寄りかかる。
先ほどよりどこか冷めた調子だった。
室内が薄暗いので表情が見えづらいが、口元は嘲るような笑みを湛えている。
「ぶっちゃけ、国王様がお持ちじゃない時点でお察しなんですけどね。術式と触媒を分担して運んでたわけですから、片割れの所持者は明白です」
「ではなぜ尋問をしている……?」
「こちらの推測が当たっているか確かめたかったんですよ。万が一にも間違えている可能性がありますからねぇ。まあ、これまでの反応でハッキリしましたが」
アティシアが俺に歩み寄ってくると、得意げに胸を張ってみせた。
「サメ男さん」
「何だ」
「呼んだだけ……というのは嘘です冗談ですごめんなさい」
俺の苛立ちを察したらしく、アティシアは早口で謝ってくる。
しかし、笑顔を崩さないままなので、本気でないのは分かり切っていた。
まあ、彼女に誠意を求めるのは無駄だ。
俺が諦めた間に、アティシアはさっさと本題に入る。
「勇者召喚のバックアップはお姫様が持っているようです。彼女が実質的な黒幕ですね」




