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祓魔師は魔導書をコンプしたい  作者: サン助 箱スキー
アーバイン魔法学園編2
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3人の模擬戦


 今日は朝からハンセンとゼルマ先生とボーウェン先生も一緒に、ヨシフおじさんことアーバイン導師の特別講習を受けてる。


 ゼルマ先生とボーウェン先生は後ろの方でお茶をしながら、僕とハンセンは沢山ある席の先頭に並んで。


「すごいな……初めて触ったけど、こんなの反則じゃないか」


 先日完成した魔導書を結晶化させた特大の魔水晶を見せてくれたヨシフおじさん。あんなの触らなくたって分かる、凄い魔力の塊で近くに居るだけで息が詰まるから。


「どうです殿下、制御出来そうですか?」


「なんでだろうか、僕の思うままに動かせそうな気がする。膨大な魔力の一つ一つがとても素直で……」


 僕はあんなの触れない、触ったら体の何処かがおかしくなりそうだから。


「過去に何人も落胤を語る馬鹿が現れましたが、これに触れば一目瞭然、触れるだけで気が狂ってしまう。触れる資格を持つ者は祓魔師と王族だけ、魔力を動かせない祓魔師では気持ちの悪い物にしか感じ取れないのですが……」


 ヨシフおじさんの言う通りだと思う、さっさとしまって欲しい、ずっと目が離せなくて、そのくせに気分がどんどん悪くなってく。


「王族の魔力だけが魔水晶から本当の力を引き出せるのです。普通の魔導師でもある程度は使えますが、遺伝する王家の力だけが完全制御出来るのです」


「来年の解放祭で父上が行う儀式はこれを5つ同時に使うのですよね?」


 後ろを見ればゼルマ先生もボーウェン先生も涼しい顔をしてお茶を飲んでる、2人は気分が悪くならないんだろうか?


「魔導書が変化した魔水晶を1つ、天然で産出された小ぶりな物を4つですな。ただ殿下、間違って貰っては困る、この質の魔水晶を精製出来るのは祓魔師だけなのですから、その他の塵芥と同じにしないで貰いたい」


 父さんや母さんが完成させた魔導書が魔水晶に変化した物を何回か見た事がある。でも、あの魔水晶と目の前に置かれた魔水晶は全然違う物に思えてしまう。


「ライル、何か言いたそうだな。発言を許す、聞きたい事があるなら質問を受け付けよう」


 いぶかしげな顔をしてる僕を見て、ヨシフおじさんから言われた事、ちょうど良かった聞いてみよう。


「前に魔導書から作られた魔水晶を見た事があるのですが、今目の前にしてるものとだいぶ違った気がするのですが、魔水晶にも種類があるのですか?」


「いい質問だ。魔水晶の種類は大きく分けて2つある。1つは目の前にある活動する悪魔を封じ込めた物を精製した魔水晶」


 活動するってなんだろう……


「もう1種類は、既に活動限界を迎えて、何かに宿る力を失った悪魔を封じ込めた物」


 動けなくなった悪魔……


「この2つの魔力量は大きな違いは殆ど無いと言える。しかしだ、前者は普通の人間が持てば確実に正気を失う。後者であれば運ぶくらいなら誰でも出来る。お前が見たのは後者だろうな」


 その後も、魔水晶を見ながら色々な事を教えて貰った。


「アレと同じ魔力が生み出せるのですか……」


「殿下、それは違いますぞ。王族の命を燃やして絞り出した魔力は、どんな魔水晶をも凌駕します故に」


 特別講習の最後で、ボソッっとハンセンが呟いた事に、ボーウェン先生が優しそうな目付きで答えてた。


「さて、時間も中途半端だ。どうせなら普段目に出来ない事でも見せてやるか」


 ティーセットをしまいながら笑顔のゼルマ先生、普段目に出来ない事ってなんだろう?


「ボーウェン殿、ヨシフ。模擬戦でもやってみようか」


「魔導書は使ってよろしいか?」

「ふぉっふぉっふぉっ。面白そうじゃのう、滅多に祓魔師と戦う事は出来んでのぅ。こんな機会を逃すわけ無いじゃろう」


 3人とも目の奥がキラリと光った気がした。



「ルールは何も無い。思いっ切りやろうじゃないか」


「いつまでも見習いと思われては困る。あの頃の私と同一だと思わない事だ」


 ゼルマ先生とヨシフおじさんの模擬戦を見て唖然とする僕とハンセン。


 ゼルマ先生の戦い方は強い人って感じだけど……


「なかなかやるじゃないかヨシフ」


 ヨシフおじさんの戦い方は、これまで見てきた物とどれも違う。


「私専用に厳選した悪魔を封じ込めた魔導書だ、適当に選んだ物とはひと味違う!」


 だってヨシフおじさんは……


「なんで人狼が意志を持ってるんだ? あそこまで変化して元に戻れなくなったらどうするんだろ……」


 ハンセンの意見と僕も同じ。


 ヨシフおじさんは開始の合図直後に人狼へと変化した、それ以外にも振り上げる鋭い爪から斬撃が飛ぶし、ゼルマ先生の放つ魔法を掴んで握り潰してるし……


「上手い事祓魔師の弱点を補っておるのぅ」


 放たれる様々な攻撃を、何をしてるのか分からない僕達を横目に、涼し気な顔をして一つ一つ潰して行くヨシフおじさん。


「ちと危ないのぅ、あれでは息切れしてしまう」


 遠巻きに見てる僕らでさえ、目で追うのがやっとなゼルマ先生の移動速度、聖衣を着込んだ人狼に向けて放つ攻撃の一つ一つが一撃必殺の攻撃。


「あれでは追い詰められてしまうのぅ、そろそろか……」


 ボーウェン先生には何が見えてるんだろう、僕なんて目の前の模擬戦が、まるで別世界の出来事のように思えてしまう。


「チェックメイトだ」

「強くなったじゃないかヨシフ」


 徐々に動きが鈍くなって行くゼルマ先生を追い詰めて、鋭い爪を目の前に突き出したヨシフおじさんの勝利。


「お世辞は止めてくれないか、こんな場所で無ければ貴方が勝つのは分かりきった事だ」


 ゼルマ先生をよく見たら、下半身が鈍い色になってる……


「そろそろ解除してくれないか、いつの間に手に入れたんだ、石化の邪眼なんて」


「やはり見抜かれてましたか、とは言ってもまだまだ奥の手は隠しているのですがね」


 ボーウェン先生から色々と解説して貰った。

ヨシフおじさんは模擬戦開始そうそうに人狼に変化しつつ石化の邪眼というモノを発動していたらしい。

それ以外にも色々やってたらしいけど、それはボーウェン先生には分からないそうだ。


「それは俺も同じ事だ」


 ズボンを払いながら戻ってくるゼルマ先生。

今の僕達はボーウェン先生の作った魔法障壁の後ろで見学してたんだ。


「ボーウェン殿、私は続けて大丈夫だ」


「どれ、ワシも少しはいい所を見せんとのう」


 ゼルマ先生と交代で魔法障壁の中に入って行くボーウェン先生、足取りは軽やかで老人とは思えない程に覇気が溢れてる。


 ボーウェン先生が1歩進む毎に背後に展開される魔法陣、ヨシフおじさんの目の前に進む頃には大小様々な魔法陣がボーウェン先生の背後に数え切れない程に浮かんでいる。


 それを見たヨシフおじさんの顔が引きつってる。


「目の色が少しおかしいと気付いてはいたのだが、徐々に石化とか小憎たらしい使い方をしやがって」


 ちょっと機嫌の悪そうな顔をしてるゼルマ先生。

 それでもハンセンのキラキラ輝く目で見られて少し恥ずかしそう。


「師匠凄かったです。まさかアーバイン導師にあれ程食らいついて行くなんて」


「建物の中じゃ無ければもう少しやりようはあったんだがな。ヨシフの奴、上手いこと祓魔師の弱点を補ってやがった」


 ボーウェン先生とヨシフおじさんの模擬戦は、ゼルマ先生の時よりびっくり、ハンセンとゼルマ先生の会話に耳を傾けつつ、目線は戦う2人に釘付け。


 ボーウェン先生は上半身をはだけてるんだけど、ドワーフみたいにはち切れそうな筋肉をしてて、魔導師のはずなのに拳で襲いかかってる。


 拳を繰り出す度に発動する背後の魔法陣、受けに回ったヨシフおじさんは後退しながら一つ一つを丁寧に処理してる。


「祓魔師は身体強化すら使えないからな、その分体を晒して戦う事は苦手なのだが、人狼化で補強すれば凌ぐだけなら十分のようだな」


「石化の邪眼を防ぐ手立てはボーウェン先生のアレしか無いのでしょうか?」


 ボーウェン先生の背後には沢山の魔法陣の中に、1つ大きな魔法陣が展開されてる。


 状態異常を治す回復系の魔法だけど発動しっ放し。


「魔道具を使うなり視界に入らないようにするなり、外であればいくらでも対処は出来る」


 でも攻めてたはずのボーウェン先生の勢いも徐々に鈍くなって行く。


「魔封陣」


 それは小さな声だったけど確かにそう聞こえた。


 ボーウェン先生の攻めに押されて、後退しながら受け身に回っていたはずのヨシフおじさん……


 でもヨシフおじさんは受けに回りながら地面に魔法陣を書いていたらしい。

呟いた直後にボーウェン先生を包み込む結界が精製されたんだ。


「ほう、空間の悪魔の力か……珍しいな」


 結界に見えるそれも魔導書の力らしい。


「あれじゃボーウェン先生は何も……」


 ハンセンが驚いてると、筋肉のハリが無くなって背中に背負った多数の魔法陣が消えていくボーウェン先生が両手を上げて……


「ハッハッハ。さすが謀略と言われるだけはあるのぅ。ワシの負けじゃ負けじゃ。ハッハッハ」


 笑顔で負けを宣言してた。




『さすが国1番の益荒男じゃのぅ、導師が居れば隠居してしまうのもやぶさかではない気がするよ』


 ボーウェン先生のそんな言葉と。


『何が国1番なものですか、模擬戦で無ければお2人に勝つ道筋なんて見付ける事すら出来ませんよ』


 ヨシフおじさんのそんな返答、それがとても印象的な模擬戦だった。


「なあライル、鍛えたら僕達もあそこまでなれるのかな?」


 村の大人達と変わらないくらい凄い戦いだった気がする。


「たぶんなれるよ。だから僕達も頑張ろ」


 先生達は3人で少し相談したい事があるって言って別行動、僕とハンセンは2人で食堂に来て昼ごはんを食べてる。


「でもさ、やっぱりアーバイン導師は凄いな。王家の守り人・祓魔師の頂点に立つだけはあるよ」


「3人とも全然底が見えなかった、ほんとに凄いと思ったよ」 


 そんな僕の返しにキョトンとしてるハンセン。


「そりゃ3人が本気を出したら王都なんて吹っ飛んじまうからな、メルキア王国最高戦力の3人だから当たり前だろ。伝説の勇者パーティーにだって引けを取らないさ」


 勇者と聖女に付き従ったメンバーは、槍士、弓士、武闘家、賢者の4人だったかな……

 

「勇者物語に出てくる4人だっけ?」


「小さい頃にパーティーメンバーの1人、武闘家カレン・ド・サウス子爵には会った事があるけど、凄い覇気のあるおばあちゃんだったぞ」


 その後は勇者パーティーの武闘家の話をハンセンから聞きつつ、2人でワイワイ言いながら昼食を食べた。




 その頃、3人の先生達はと言うと……


「ボーウェン殿、回復はお任せしますぞ」


「ここなら思いっ切り殺っても大丈夫そうだな」


「エリクサーも用意しとる、死にさえしなければ治るで本気で殺るぞい」


 学園ダンジョンの4階層、誰も来ていなかった階層で、コメカミに青筋を立てながら張り合っていた。





読んで貰えて感謝です。

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