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速さの秘訣


 ちびっ子3人と共に向かう王都。


 半年前にユンケル小隊の3人と焚き火を囲んだ町に入って、ここで3人とは、お別れ。


「必ず自力だけで勝負するんだぞ」


「何度も言わなくても分かってるよ」


 この3人が都会の世知辛さを知るのは、もっと後でいい。南部の荒らさと温かさを先に知って欲しいと思ってる。


「番頭さん、これが紹介状です。新鮮な魚だと運ぶのに特殊な馬車が必要ですが、多分用意して貰えると思います」


 ゴメス紹介の番頭さんが、ちびっ子3人を連れて行ってくれる。そのお礼に紹介状を書いといた、南風の2人とカルラ宛に。


「なあライル。お前は冒険者なんてやってないで商人になるべきじゃねえか? お前ならデッカイ商会でも作れそうだけどな」


「どうも金勘定が苦手なんで無理そうです」


 元冒険者の番頭さん、南風の2人の事は知ってはいたが、話し掛けた事は1度もなかったらしい。


「現役の金級冒険者や次期子爵様に会うのは緊張するが、10年以上行商で飯を食ってんだ、今じゃ冒険者だった時間より商人やってる時間の方が長ぇ。絶対に販路を広げてやるぜ」


「トム達をよろしくお願いします」


 王都から南部に向かう道は、一人旅でも問題なかったくらい安全だったけど、子供3人だとやっぱり心配。


 3週間前にゼルヘガンに来ていたゴメス商会のキャラバンを見つけて、相談して良かったと思ってる。


「トム、シャロン、ミカ。年に1回くらいは地元に顔を出せよ」


 声を掛けた後に走り出す。


 番頭さんには、新鮮な海産物が輸送出来る手段を手に入れられたら、モルベットに来てくれって伝えてある。


 市長のダズに紹介するくらいしてもいいと思ってる。


 走り初めて数分もすれば小さな宿場町なんか抜けてしまう。

今日中に王都圏を抜けて東部に入りたいからと、少しスピードを上げる。


 小さい頃は魔力を下半身に張り巡らせて速く走ってたけど、今は魔力操作なんてほとんど出来ないから、自力だけで走ってる。


 魔力を使って馬より速く走れる南風の2人について行くのに自力だけでできるのか? なんて問われたら、「何故か出来てしまった」としか、答えられない。


 最初の頃は戸惑ったよ、魔力を流さずに体を動かす事にさ。でも、慣れたら気にならなくなった。


 村の連中の中でも、上位に入れるくらい走るのは速いと思ってる。


「急がないとな……」


 ハンセンから聞いた話。


『ドワーフの癖に細くなってやがんの』


 そんなダズがちょっと心配だな。





「行っちゃったね」


「もうちょっと色々教えて欲しかったよな」


「あんた達はもっと常識を身に付けなさい」


 三者三様の反応を示すちびっ子3人組の話を聞きながら、土埃を上げて走り去っていく銅級冒険者を眺めていると……


「お前達3人が凄いのはわかるが、ライルもヤバいのか?」


 預かったちびっ子3人、身に付けている装備品を見れば、どれも一流の物だとわかる物を持っている。

 このうち2人は鉄級冒険者、ペーペーだってんだから世も末だよ。


「何言ってんだよ、ヤバいなんてもんじゃねえよ」


「そうよ、ライにいって生まれて直ぐに勇者を継いだ者よ。ヤバいなんて言葉じゃ足りないくらいヤバいんだから」


「なにそれ? ちょっと詳しく教えなさいよ」


 狐の獣人の少女が言ったことに俺も賛成。


「継いだ者ってなんなんだよ? 勇者の称号を貰ったとかか?」


「そんな訳ないだろ。称号だけ貰っても村じゃ誰も認めてくれないし」


 勇者を継ぐ……意味がわからん。


「産まれた時に、聖女様の癒しの力と、勇者様の勇者たる力の源を受け継いだって、レイラお姉ちゃんが言ってたわよね」


 受け継ぐ? そんな事が出来るものなのか?


「勇者・竹中 翔二。聖女・高崎 愛子。2人の力を受け継いで、次代の勇者に選ばれた凄い人なんだから」


「そうそう、それにライにいの父ちゃんや母ちゃんって、伝説の勇者パーティーの槍士と弓士のラッセルとミシェルだよ」


 え?………………


「冒険者界隈で一流になりたければ必ず会いに行けと言われてるラッセル・ラインとミシェル・ラインか?」


「そうそう、それそれ」


 俺は唖然としたね……うちの商会長の師匠、ここ数十年で金級冒険者になった者全員が手ほどきを受けた2人の息子と言う所もだが……


「祓魔師連盟の会長から祓魔師としての手ほどきを受けて、大賢者の直弟子【万色の魔導師ボーウェン・ゼルヘガン】からあらゆる魔法の対処法を習って、【エルフ奴隷解放戦線の指導者・ゼルマ・ライン】から戦闘技術を学んだ、超エリートなのよ」


「アーバイン魔法学園だっけ? 貴族籍が成績に直接響くから、ただの村人のライにいが最下位だったって聞いてるけど」


 謀略ヨシフ、偏屈ボーウェン、皆殺しゼルマ、アーバイン魔法学園……


「ハンセン殿下が言うには「ちゃんと成績順に並べたらライルは3位くらいだったはずだぞ」だったっけ?」


 ハンセン殿下?……


「なあ、殿下って……」


「ライにいの親友? 確か自分で言ってたよな。ライルは俺の唯一の心の友だって」


「ハンセン殿下って……エビを両手で鷲掴みにして食べてた人?」


「そうそう、王子様ってんだっけ? 御伽噺で聞いてた王子様とぜんぜん違うけど、キラキラしてたよな」


 王子様?……


「なあ……お前達の言う王子様って……ハンセン・メルキア・ド・コールマンか?」


「ああ、そんな名前だったわね」


「ピチピチ白タイツと豪華なローブ着て自己紹介してくれたっけ」


 俺は天を仰いだね……


「くそ! ついて行くべきだった」


 半年前にチラッと聞いたのだが、麦の番人と言われる北の伯爵の実弟、メルキア国内の流通業界最大手のヤリス商会の跡継ぎ、メルキア魔導研修所所長の長男……


 サウスポート子爵家、レグダ護民官家、モルベット冒険者ギルドのギルドマスター、現モルベット市長……


 どれだけの人脈を持ってるんだアイツは……


「大銅貨1枚で大騒ぎするライにいなんか、大きな商売には向いてないんじゃ?」


「そんな事無いぞ、ついて行けば何かしらデカい商談のチャンスがあったかもだ……くそっ」


 そんな感じで後悔してる俺だったが……


「おっちゃん、ポンセ商会って知ってる?」


 そりゃ知ってるさ、単独でありとあらゆる辺境を歩き回り、毎年とんでもない額の売上を上げている行商業界で1番だった商会だ。何年か前に商業ギルドを脱退して引退したと聞いたが、今でもたまに商売をしてると風の噂で聞いている。


「ライにいの義理のお兄ちゃんだよ、カルロ・ポンセさんは」


 ああ……崩れ落ちそうだ……


「凹むなっておっちゃん。たぶんライにいは自分の事が良く分かってないはずだし」


「自力じゃ魔力を動かせなくて、身体強化の魔法も使えないのにトムよりエゲツない身体能力も、パッと見ただけで即座に魔法陣に干渉出来る知識も、どっちも異常だって気付いてないわよね」

 

「兄ちゃん先生が負けを宣言したのなんて初めて見たもん、やっぱり異常よねアレは」


 兄ちゃん先生とはレグダの将軍閣下のご子息で【暴れ熊ペイン】の事のはず……


「それにライにいの魔導書に封じてある悪魔ってアレだろ?」


「六魔将のうちの五将だったっけ?」


 六魔将……今では伝説の、魔王軍を率いていた六人の魔族……そのうち五人も……


「勇者様はオイラ達が産まれる前に死んじゃったから、村でライにいより強い奴なんて1人も居ないしだし」


「本気を出したレイラお姉ちゃんが負けちゃうくらいだもんね」


 戦乙女レイラ・ラインだよな……あれ?ライン……


「なあ……レイラ・ラインってライルの親戚か?」


「何言ってんだよ、ライにいの姉ちゃんだよ」


「カルロ・ポンセさんの奥さんで、今はレイラ・ポンセだけどね」


 勇者や聖女の現役時代の装備品全てを継いだ戦乙女まで……


「とりあえずなんか食おうぜ、色々肉は持ってきたから焼くだけで良いだろ」


「そうね、キングボアのロースでも焼きましょうか」


 そんな事を言うちびっ子2人……


「あんた達ってさ……その肉1人前でいくらすると思ってんのよ……美味しいから私も食べたいけど」


 狐の獣人の少女が言う事が常識的に感じてしまう……


「なあ……キングボアのロースなんて、王宮の特別な晩餐会で出るような肉じゃねえか……」


「狩ればタダだし」「いくらでも居るもんね、ハルネルケの森なら」


 その後は、塩を軽く振り撒いただけのキングボアのロース肉にかぶりつきながら……


「これ1口で金貨1枚……」


 値段を考えるのは止めようと思った。



 

リンゲルグ編もとりあえずコレで終わりです。

次回から魔法学園編2に入ります。


読んで貰えて感謝です。

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