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特訓


「ミカ何やってんだ!」

「えっ……どうして……」


 そんな感じのやり取りの後に、ミカに覆い被さるトムに向かって、シャロンの発動した回復魔法が吸い込まれて行った。


 因みに今は、村の近くの森の中で昼飯に使おうとキノコ採取中。


 そんで、周りの警戒も疎かにして、目の前の倒木に生えてたキノコに夢中になってたミカが、遠く離れた大人達の魔物狩りの流れ弾に気付かず直撃しそうになった所を、すんでのところでトムが覆い被さって、事なきを得た。


 だからと言って、背中に流れ弾が当たったトムが、どうもしてない訳もなく、おびただしい血を流しながら「何やってんだよ」なんて怒ったら。


 それを見ていたシャロンが冷静に回復魔法を発動したんだ。


「何してんのよ、最低限2つの事が一度に出来ないなら、せめて身の安全だけでもちゃんと気を配りなさいよ」


 大人達はペインとペインが連れて来た数人を交えて、リンゲルグ村の北側の森で特訓中。

 というのも、ダンジョンの75階層くらいから大型の魔物が出る階層が続くらしいんだが、カルロさんと納品した様々な魔物素材を見たペインが「見学させてくれねえかな? ダンジョン攻略が行き詰まってんだ」なんて頼んで来たから。


 因みに、ミカはオマケだな。


 ペインは村の大人について行って、破天荒な魔物狩りを体験してるくらいの時間、俺はちびっ子達を引き連れて昼飯の材料確保が今の状況だ。


「大丈夫なの? ねえ……」


 背中の部分が破けて血だらけになってるトムだけど、傷は問題ないはず。シャロンって、一応村の教会の婆ちゃんの孫で回復魔法は得意なはずだから。


「これくらいなら問題ねえよ、それよか気を付けろよ、下ばっか向いてると危ないぞ。んで、ありがとなシャロン」


 司祭の婆ちゃん、昔は村で唯一の回復魔法の使い手だったらしい。今では子供達も普通に使えてしまうんだが。


『今の糞ガキ達は何でもかんでも中途半端に覚えちまって、ホント今時の若いモンは。昔は何かにとんがって突き抜けた奴の方がモテてたんだけどねえ』


 なんて、カルロさんの折れた上腕を魔法で治療しながら鼻くそをほじりつつ愚痴をこぼしてた。


 俺から見ても、今のちびっ子達は凄いと思う。

村の中では何もかも中途半端かもしれないけど、村を出たら、そこらの冒険者くらいじゃ太刀打ち出来ないくらいに色々とできるし。


 んでトムに笑顔でありがとうと言われたシャロンは、顔を真っ赤にして……


「シャロ姉ちゃんが照れてる!」

「顔真っ赤だよ?」


 下は5歳、上は12歳、村のちびっ子達にからかわれて……


「あんた達……うるさいわよ?」


 頭上に火魔法の魔法陣を展開しながら、子供達に不敵な笑みを浮かべてたりする。




「何の勉強にもなんねえ、どうすりゃあんなに魔力の質を高められるかも分からんし、体内の魔力を圧縮出来るのかもさっぱりだ」

 

 昼飯食いながらペインが項垂れてた。


 因みに今日の昼飯はキノコのパスタ。ペインがお土産にって大量に持って来てくれたんだ。


「10年以上前の事だからうろ覚えだけど、もっと体の力を抜いて、魔力に身を任せてみろよ」


 魔法が使えなくなったのは10歳の時、それまでは村のちびっ子達と変わらないくらいに身体強化は使えてた俺。アドバイスになるか分からないけど、何も指標が無いままに訓練するなんて不安で仕方ないだろうから、ちょっとくらいなら良いだろ。


「お前なあ……こっちを喰おうとしてるヒガンテスと向かい合ってて、そんな状況で力が抜けると思ってんのか?」


 う〜ん……


「南風ってパーティー名を聞いた事ないか? あの二人なんか走る時に体の力は全部抜いてるんだぜ、魔力の流れを止めたらすっ転んでしまうくらいにさ」


 ペインでも分かりそうな事を例に出してみた。


「ああ、お前の師匠だっけ……知らないはずが無いだろ……」


 俺とペインが並んでパスタを啜ってる横では、ペインの連れて来た他の迷宮攻略隊のメンバーが死にそうな顔をしてパスタを食べてる。


「寝っ転がった状態で体の力を全部抜いて、魔力だけで起き上がる練習からかな……」


 それもそのはず、さっき見学してた、大人達が仕留めたヒガンテスの背ロースがテーブルの上にドンっと乗ってて、ちびっ子達が風魔法で切り分けて、火魔法で自分好みに肉を焼いて、テーブルの上の調味料を念力で混ぜて、好きな味付けをしながら食べてるのを目の当たりにしてるから。


「なあ、鍛えればあれくらい出来るようになるのか?」


 そんな姿を見て、ペインもげんなりしてる。


「トムの魔力の総量なんか、ミカより少ないはずだぞ」


 5歳以下の子供達の分も肉を切り分けて処理してるトムなんだけど、魔力量はそんなに多くない。


「効率化か……」「だな」


 絞り出すように呟くペイン。


「確かダズが得意だったよな」


 懐かしい同級生の名前が出た。


「よくゼルマ先生も言ってたよな。無駄な部分に力を入れるなってさ」


 そんな話をしてた俺とペインなんだけど……


「あれ? お兄ちゃんってゼルマ叔父さんに会ったの?」


 俺達2人の真正面で肉の塊にかぶり付いてる妹に変な事を聞かれた……


「去年帰って来るまで、ずっと行方不明だったらしいけど、ゼルマ叔父さんってイケメンだよね。お父さんもあれくらいイケメンだったら町に行っても自慢出来るのに、兄弟であんなに顔が違うなんてね」


 え?


「兄弟って? 誰と誰が?」


「そりゃお父さんとゼルマ叔父さんだけどなんで?」


 俺もペインもキョトンとなった……

そんな俺と妹の会話を聞いてた父さんや母さん。


「昔一緒に世界中を旅して回ったパーティーメンバー達の息子を鍛えて1人前にしてたなんて言ってたな」


「ゼル君って仲間の2人が結婚しちゃってパーティーが解散しちゃったんだけど「叶わなかった恋だったけど、アイツらの息子を育てられただけでも十分だ」なんて、カッコつけてたわね」


 なんだそりゃ? そんな感じの疑問符が張り付いた俺とペイン……


 その後は、父さんと母さんからゼルマ先生の話を聞いて、ただただ驚くだけだった。


 午後からはめぼしい狩りもなくて、俺とペインはゼルマ先生の話を父さんや母さんから色々と聞いてた。


 ゼルマ先生って、父さんのすぐ下の弟で、若い頃は王太子殿下とハンセンの母親と3人で世界中を回った金級冒険者で、幼い頃に父さんや母さんションじいちゃんやションじいちゃんの奥さんに弟子入りして鍛えてて、当時の村のちびっ子達の中でリーダー的な存在だったんだと……


「懐かしいねえ、ゼル坊があたしの跡を継いでくれてたら、聖女様に勝るとも劣らない治癒術師になってただろうねえ」


 聖女に直接薫陶を受けたってのが自慢の司祭の婆ちゃん、そんな司祭の婆ちゃんですら才能を認めてるのか……


「なあ……お前の両親ってさ……」


 なんか聞きたそうなペイン。


「いや、なんでもない。なんかちょっとわかった気がする」


 すぐに否定して両親の話を聞きに入る。


 俺の両親がなんなんだろう?




 結局1週間くらい村に滞在したペイン達、大人より子供の方が、新しい事を覚えるのは早いようで、ミカが魔力を使って体を起こす練習を最初に出来るようになってた。


「3日目くらいから少しずつモノになって来てるのは分かったけど、こりゃ長い道のりだな」


「討伐隊の訓練にも入れてみるよ、少しずつだけどコツも掴めたし、ミカだって出来るようになったんだからな」


 別れ際にいい笑顔のペイン。お土産に貰った様々な魔物肉が原因だと思う。


「ミカの事はちゃんと面倒見てくれよな、あれが怪我すりゃルピナスが悲しむからよ」


「ああ、分かってる。トムとシャロンが付きっきりで鍛えるはずだから、次に会った時は別人みたくなってるぞ」


 んで、ミカを村で預かる事になった。


『どうしてもここで鍛えたい』そんな事をペインに頼み込んでたミカ、しぶしぶだったけど『弓を教わりたいなんて! 私が持てる技術を全部教えてあげるわ』なんて妹が乗り気だったのが許された原因。


 昼間はトムとシャロンについて回って、朝夕はアイリーンから弓の訓練を受けてるんだ。


「あんまり鍛えすぎて、びっくり人間にしてくれるなよ」


「なんだよそりゃ。普通に鍛えるよ」


「んじゃまたな」なんて言って、レグダに帰る討伐隊の人達とペイン、これからレグダに行く時は毎回ミカも連れて行かなきゃなって思う。


 ペイン達を見送った後に、森に入ってトムを探す。

「ハム子、どっちに居ると思う?」なんて胸ポケットで爆睡中のハムスターに聞いてみた。


 モキュぅぅぅなんて鳴いて、一瞬だけ目を開けたハム子、その後体をくねくねさせて、もう一度寝に入った、可愛いなオイっ!


「限界はそこじゃない! もっと先だ、もっと頑張れ! ハイ! ハイ! ハイ!」


 遠くからトムの声と……


「もう無理ぃぃ……もう無理だからぁ……」


 なんて泣き言を言ってるミカの声がする。


 近付いて見れば、シャロンが重力魔法の魔法陣を地面に展開してて、その上をミカとトムが歩いてる所。


「ライにい、ちょっと体力無さ過ぎだよアイツ」


 ちょっと待てシャロン、いきなり5倍はやり過ぎだろう……


「お前なあ、いきなり5倍も負荷を掛けてどうすんだよ。1.5倍くらいにしとけ」


 トムは難なく歩いてるけど、ミカは1歩進むのに、おびただしい汗をかきながら泣きそうな顔をしてる。


 とりあえず腰に付けた魔法鞄から小さな魔石の付いたタクトを取り出して、シャロンが展開してる重力魔法の負荷量の部分を書き換える。


 自身の魔力を使って書き換える事は出来ないけど、魔石から魔力を取り出して魔法陣を書き換えるくらいは俺でも出来る。

 祓魔師でも魔法陣の魔文字に干渉する事が出来るのを知ったのは学生時代の事だ。


「ああ! そんな軽くしてどうするのよ」


 シャロンの目が完全に嫁をなぶる姑の目になってたから、これはまずいとおもってやったのに。


「これじゃ特訓になんないだろ? シャロン、元に戻してくれよ」


「うん。ライにい邪魔しないでよね。何かあったらすぐに回復魔法を使うつもりだから大丈夫よ」


 因みに、村の5歳のちびっ子でも5倍くらいの重力なら余裕で走り回ったり出来るのは余談だ。




 

読んで貰えて感謝です。

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