表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祓魔師は魔導書をコンプしたい  作者: サン助 箱スキー
アーバイン魔法学園編
50/73

反省会


 ハンセンが途中離脱した実習。

 3日間が終わってみたら、ただ森で食べ物を探して、3日の間ずっと資材置き場を中心に、ご飯を食べる為の行動だけで、目的の常設依頼の達成は2つしか出来なかった。


『今回の実習で何がダメだったのかを考えろ』


 黒板に書かれたテーマに沿って、再来週僕が主導してもう一度行く実習で失敗しない為に、今回の実習で、どうすれば良かったのかを話し合わないとなんだけど……


「魔力切れで早々と帰宅した僕が言うのも変かもしれないが、現地の事を何も知らなさ過ぎだったんじゃないか?」


 ハンセンは実習開始からずっと探索魔法と拘束魔法を全力で発動してたらしいんだ。

それのせいで丸一日経ったくらいで魔力が完全に空っぽになって、立ち上がることすら出来なくなってたらしい。


 僕が思うのは、自分が出来る事や知ってる事を誰かに伝えるのは難しかったって事かな。


 音を立てずにゆっくり着いて来てって何度も言ったのに、バキッとかミシッとか落ち葉や枯れ枝、硬い草の茎なんかを踏みつけて、夜の静かな森の中を歩き回れば、いくら夜は目が見えなくて飛ぶ事が出来ない鳥でも適当に飛び上がって逃げるに決まってる。


「お前達は何故に教室の中で答えを出そうとするんだ? ここに答えが有ると思っているのか?」


 ゼルマ先生の質問はもっともだと思った。


「授業中なのに教室から出て良いのですか?」


 ユングの言ったことを考えてみる……

 部屋の中で考えてるくらいなら、森に戻って色々見ながら考えた方がわかりやすいよなって僕は思う。


「出てはいけないと誰が言った? 俺は1度も言った覚えは無いんだが」


 確かに、言われた事は無い。


「図書室に行ってみましょうよ。何か資料があるかもだわ」


 イズさんが呼び掛けて、ダズとペインが着いて行った。


「私は冒険者ギルドに行ってみるわ、確か資料室があったはずよ」

「それなら僕達も着いて行くよ。女子が1人で行くのは何かと危険だと思うから」


 ユングとケルビムとルーファスは、ルピナスさんに着いて冒険者ギルドへ。


 僕は……


「色々聞きたい事があるんだけど、質問して良いかな?」


「ん? 僕にか……答えられる範囲でなら」


 ゼルマ先生に聞きたい事もあるけれど、今はハンセンに色々聞いてみたい。


「暗殺って何?」


 暗殺に怯えてって言ってたけど、怖いモノなのかな?


「知らないのか? 本気で言ってるのかよ……」


 他にも、探索魔法の事、拘束魔法の事、ハンセンがゼルマ先生を師匠と呼ぶ事、なんで寮に住んでないのか、色々聞いてみた。


「フォッフォッフォッ。ここはワシの出番じゃのう」


 殆どの質問に答えて貰えなくて、どうしようか迷ってたら、ボーウェン先生がゼルマ先生の隣に立った。


「特別授業の最後の方で教えようと思っとったが、気になった時に習った方が身に付くじゃろ」


 ボーウェン先生は僕とハンセンを見てるのに、後ろの黒板にチョークが勝手に動いて何かを書き始めた。


「王族というのは常に魔族から命を狙われておる」


 魔族……


「ハンスに限っては魔族だけじゃないがな」


 凄く難しい事を教えて貰ってるって感覚はあった。


 1時間くらい、王族がなんで魔族に狙われるのか、ハンセンがなんで四六時中切らす事も無く、探索魔法を発動してるのか理由を聞いたら理不尽だと思った。


「それはどうにか出来ない事なんですか?」


 もうすぐ休み時間になるって時に僕の聞いた事。


「それは私から答えさせて貰おう」


 突然ドアが空いて入って来た大人の人……


「あっ……ヨシフおじさん……」


 現れたのは毎年2回、夏と冬に父さんを訪ねて村に来て、10日くらい父さんと一緒に森に入って色んな物を持ち帰って来るオジサンで、母さんからヨシちゃんって呼ばれてる人。


「ここではアーバイン導師と呼んでくれないかな。私にも立場と言う物があるんでね」


 村に来る時は、少しボロっちい革鎧を着てるのに、今はとても綺麗な青の聖衣で、片手に分厚い本を持ってる。


「アーバイン導師? ええと、ヨシフおじさんをアーバイン導師って呼べば良いの?」


 ゼルマ先生やボーウェン先生の横に立って、まるで先生みたいだ。


「ハンセン殿下、少し失礼します」


 そんなヨシフおじさんが、ハンセンを見ながら魔導書を開いた。


「探索魔法や拘束魔法は解除しても大丈夫です。この場に邪なる者は羽虫一匹たりとも入れないので」


 そう言った後に魔導書が少しボヤっと光ったんだけど、周りの空気が少し重くなったんだ。


「アーバイン導師、助かるよ。まだ本調子じゃなかったんだ」


 ハンセンはホッとした顔をしてる。


 それに対してヨシフおじさんは凄く真剣な顔つきだ。


「祓魔師がどうして優遇されているのか、祓魔師とはなんなのか、祓魔師と魔導書と教会との関係は。それを知れば、自ずと答えは出る事だ。心して聞きなさい」


 黒板に書いてあるモノを消しながら、話始めようとしたヨシフおじさんだったけど……


「休み時間は休むものじゃ。アーバイン導師、次の授業で扱ってくれんかの?」

 

 ボーウェン先生がヨシフおじさんを遮って、休もうと言った。


「そうですな、殿下の体調の事もありますし、休憩してからでも良いでしょう」


 今目の前に居るヨシフおじさんは凄く不思議だ。


 夜になるとお酒を飲んで村の大人達と一緒に騒いで、朝必ずウコンを飲みながら「もう酒は飲みたくない」とか言うのに、その日の夜にはまた飲んで騒いでってやってるヨシフおじさんが……


 キリっとして凄く真面目な顔をしてる。


「ん、なんだ? 俺の顔に何かついてるか?」

「ヨシフおじさんは祓魔師なの?」


 知らなかった。


「アーバイン導師」

 

「あっ、ごめんなさい。アーバイン導師は祓魔師なの?」


 気持ち悪いな、ヨシフおじさんはヨシフおじさんだよなぁ……


「いかにも、私は祓魔師だ。そして、祓魔師科の講師でもある。これからよろしくな」


 おお、ヨシフおじさんが先生なのか。


「なんと、アーバイン導師。おぬし連盟の仕事はどうするのじゃ?」

「だろうと思った。ヨシフ、しばらくの間よろしくな」





 僕とハンセン、2人で受けたヨシフおじさんの授業は、大まかにザックりと教えて貰っただけだったのに衝撃だった。


「これが祓魔師の存在意義だ。通常授業に戻ってから祓魔師としての矜恃を叩き込んでやる。覚悟しておけよ」


 授業が終わる直前に、ハンセンがとても小さな声で……


「申し訳ない……」って呟いたのが、とても印象に残った。


 授業が全部終わって、寮に帰って来た。

食堂に行っても知ってる人は1人もいなくて、パンとチーズを貰って部屋に帰って1人で食べた。


 お風呂に浸かりながら今日の授業の事を考えてみる。


 だけど色々といっぺんに教えて貰ったから、何がなんだか全く分からない。


「出来る事を1つずつやって行こう。ションじいちゃんが良く言ってたもんな「明日から頑張る」って……」


 お風呂から上がって魔導書を見る。


 表紙は何も書いてなくて、とても硬い。

 表紙を開けば最初の見開きに載ってる魔物の絵と魔法の説明書き。


 ページをめくると、この間手に入れた新しい魔法。


 次のページからは全部白紙……


「完成するのかな……完成させたいな……」


 今日の話を聞いて、これまでは世界を自分の目で見て回るのが目標だったけど、それよりも先に魔導書を完成させたくなった。





「そう膨れるなヨシフ。知らない事は教えてやれば済む話だろ」


 師匠達はいったい何を教えていたのか。


「しかし、アレではあまりにも無知過ぎる」


 知らぬと言う事は罪だ。私はそう思っている。


「そう言いなさんな。地方の開拓村や農村では未だにアレが普通なのじゃから」


 無知なまま王族の命を貪り、為政に文句を言いながら生きる民か……


「ゼルヘガン卿、やはり貴方が引退するべきでは無かった気がしますな」


 目の前に座る前宰相、ボーウェン・ゼルヘガン卿が推し進めていた教育制度、あれが実行されていれば……今では世代が変わって議論される事すらなくなった。


「しかし、あの時は誰かが責任を取らねばならんかったじゃろう。ワシの退陣と私財没収で全てが丸く治まったのじゃ、アレはアレで正解じゃよ」


 丸く治めてどうなると言うのか、現在進行形で事は起きていると言うのに。


「ゼルにいも人が悪い、王都で暮らしているなら連絡くらいしてくれても良かったんじゃないか?」


 そして、こっちもだ。


「お前の邪魔をするのも悪いと思ってな。殆どの貴族から怨まれてる俺が、お前と翻意にしていたら祓魔師の立場はどうなる?」


 そんな事は関係無い。


「貴方が近くに居たのなら助力を求めた。貴方が手伝ってくれたなら、3年前のあの時に友の命を無駄に散らす事も無かったんだ……」


 あの時の屈辱は忘れない。何も出来なかった自分を今でも殺してやりたい程に憎んでいる。


「アレがあったおかげで王族達を廃する動きも治まった。それに祓魔師への投資も継続される事になっただろう?」


 そして、友の命を貪って、のうのうと暮らしている人々が憎い。


「無駄な事など何一つとして無いよ、アーバイン導師。そう思い詰めなさんな」


「思い詰めてはいません。日々考えているだけです。別の道がないのかと」


 単独でダンジョンを走破出来る者達を最前線に押し込めてさえいなければ、魔導書は年に数冊完成するんだ。


「別の道を見つける為に常識なんてモノを教えなかったんだろうな……兄さんも義姉さんも……」


 師匠達が何を考えて育てたのか、それを知りたくなった。


「見つかるのでしょうか?」

「それは分からん」


 分からんと言ったゼルヘガン卿の眼差しは、私と同じように憤っていて。


「いずれ本当の事が分かった時、どう行動するか気になる所だな」


 兄弟子の言う事が何かは分からなかった。


 


 






読んで貰えて感謝です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ