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祓魔師は魔導書をコンプしたい  作者: サン助 箱スキー
アーバイン魔法学園編
44/73

夜空

執筆再開


 やっぱりダンジョンって不思議な場所だ、地下なのに空があるだけじゃなくて、ちゃんと夕方にも夜にもなるんだ。


「もう少し右よ、うん、そっちはそれで良いかな」


 ケルビムとルーファス、イズさんとダズが夜ご飯の準備をしている間に、僕はルピナスさんの指示を受けながら地面に魔石を配置してるんだ。


 なんで僕とルピナスさんが調理に参加してないかって聞かれたら。


『ライルの味覚は苦いのに慣れすぎてて信用出来ない』


 辛いのに慣れすぎてるルーファスからそんな事を言われて……


『ルピっ! 肉を焚き火に直接投げ込んでも丸焼きにはならないわよ』


 リザードラットの肉を直接焚き火に投げ込もうとしてたルピナスさんはイズさんに止められたんだ。


『2人は夜に過ごす拠点作りでもしといてくれよ』


 ユングに言われて、僕が草払いをしようとしてたら。


『魔法障壁で床と壁を作るから出しなさいよ魔石。12個で良いわ』


 ユングとペインが2人でゼルマ先生の所に今日のドロップ品を売りに行こうとしてたんだけど、2人から魔石を奪い取ったルピナスさん。


『男子用と女子用と外から見えないトイレと、3つ作るから早く出してよ』


 肉が焼ける匂いを嗅いで、どんどんイライラして行くんだ。


 僕が魔石の配置を終わらせて、ルピナスさんの魔法が発動したら、半透明の壁がテント状に大小2つ、真っ白で中の見えない小さなテントが1つ現れて……


「しょぼい魔石だったけど上出来ね」


「凄いね、ちゃんとした部屋になってる……」


 ぼくが大きな方のテントの中を覗こうとしたら……


「そっちは女子用、男子はあっちよ」


 そう言って首根っこを掴まれた。




「やっぱり2階層で落ちる物じゃいい金にはならないな。1番高かったのがライルの拾った臭いキノコだった」


 今日の売り上げは銀貨4枚だったらしい。


「1個で大銅貨1枚って言ってたけど、銀貨1枚になったぞ。行商人にぼったくられてたんじゃないのか?」


 ユングとペインが帰って来て、いざ夜ご飯。

 皆で焚き火を囲んで焼けた肉をかぶりついてるんだけど、食事の最中の会話で、ペインからぼったくられてって言われた。ぼったくられてってなんだろ?


「ちょっと待てよペイン。それは違うぞ、ライルの住んでた所はリンゲルグだろ? それなら、かなり良心的な買取額だぞ。護衛とか宿泊とかの移動に掛かる費用とか考えたら銅貨1枚で買い取っても足が出そうだし」


 ケルビムがリザードラットの肉と野草を煮込んだシチューを啜りながら教えてくれた。


「本当にぼったくるんだったら、鉄貨2枚くらいで買い取るようちの商会なら、とは言っても、うちの実家の商会だと絶対にぼったくる様な事しないんだけどな」


 ズボンのベルトが2重になってて、その間に銅貨や銀貨を沢山挟んでたケルビム、今日の売り上げをあっという間に8等分して、皆に配ってくれた。


 暗算が出来るって凄いな。


「実家は食品専門だから、魔物素材やダンジョン素材なんかの値付けは苦手だけど、だいたい合ってただろ? 拠点に使った分の魔石を売り払っても1人銅貨1枚くらいしか増えないんだから、夜に安心して眠れる方がずっと良いよ」


 僕もケルビムの意見に賛成、お金より安全の方が大事。


「ねえライル、あなたってあまり食べないのね……」


 各人に割り当てられた焼いた肉、僕のは角兎の後ろ足だったんだけど、半分くらい食べて手に持ったままだったんだ……


「え……と……食べ掛けで良ければ食べる?」


 一応、生で食べられる野草も詰んであるから、食べ物が無い訳じゃないし……


「実習が終わったら必ずお返しはするわ、ありがとう」


 体型は普通の女の子なのに何処に入っていくんだろ……たぶんペインより食べてる気がする。


「ちゃんと食べとかないと明日からがキツいぞ」


 リザードラットの丸焼きを、骨ごとバリバリ言わせながら食べてるダズから、そんな事を言われたけど。


「角兎を探してる時に実のなってるグミの木を見つけたから、お腹が減ったら取りに行くよ」


 食べれる物が何処にあるかは確認してたから大丈夫。


「ルーファス! お前、肉団子の中に唐辛子仕込んだだろ!」


「仕込んだとは言い掛かりだ。全部の肉団子に入れてある。身体が温まって美味いじゃないか」


 ルーファスが真っ赤な実をちぎって入れてたから肉団子を避けてシチューをよそったけど、ペインは気付かずに食べちゃったみたい。


「ルーファス、お前も明日から調理はするな」


「仕方ないな、自分の分だけに掛けるようにするよ」


 最初からそうすりゃ良かったのに……




 寝る時は一応見張りを立てておこうってなって、僕とダズの番になったからテントから出た。


「どう考えてもアッチが男子用だろ、まったく、女子はこれだから……」


 ぶつくさ言いながらテントに入っていくペインと


「今のところ何にも無いぞ」


 なんて、教えてくれたユング……何もないなんて……


「凄い沢山の足音と気配がするんだけど……」


 魔法障壁から出た僕の耳には沢山の足音が聞こえる。


「ライル大丈夫。とりあえず焚き火の所に行こう」


 ダズに言われて本当に大丈夫なのか心配だったけど焚き火の所に来てみた。


「なあライル、お前って人間じゃないだろ?」


 こんな沢山の気配に囲まれて、落ち着いてなんか居られない僕にダズが聞いてきた。


「父さんも母さんもクウォーターエルフだから、僕もエルフの血が流れてるよ」


 野犬よりは小さい足音、でも統率の取れてる感じで、凄い数が少し遠巻きに僕達を囲んでるんだ。


「やっぱりか。なあ、亜人のよしみで教えといてやる。僕やイズみたいなドワーフは人間と共に生きる事を選んだ、人間社会に組み込まれて、それなりに税も納めてる」


 ソワソワする僕に向かうダズの表情は凄く真剣。


「ペインみたいな獣人だってそうだ、殆どの獣人は人間社会に溶け込んでる。でもエルフは違うだろ、森に隠れ住んで交流を持とうとしない、人間社会に出てくる事も殆ど無い」


「そんな事は無いよ、街に買い出しだって行くし、毎月凄い沢山の魔物の素材を税に持って行かれるって言ってたよ」


 半月に1回は遊びに来る祖父母が良く愚痴を言ってる。税に持って行かれる分が無ければ今の半分の仕事量で生きていけるのにって。


「交流を大々的にしないのは人間がエルフを攫うからで……」


 20年くらい前までは、エルフの子供が良く攫われてたらしい。


「それを知ってるのはごく一部だろ? 殆どの人間は知らないんだ。特に王都圏の人間は亜人に対して冷たいからな、出来るだけエルフの血が混ざってる事は言わない方が良いぞ」


 焚き火に照らされたダズの表情が、とても真剣だったから、縦に頷く事しか出来なかった。


「僕が感知出来ない範囲を囲んでるなら心配なんてしなくて良い。それにコヨーテなんて野犬と似たようなもんだ、素手でだっていけるさ」


 この気配がコヨーテなのか、ちゃんと覚えておこう。



 焚き火の周りで遠くの気配を気にしてる僕と、倒木を角兎の角で削って何かを作ってるダズ。


「明日は階層の境界線まで行ってみようか」


 焚き火に照らされながらダズの手元を見てると、作ってるのはピッカーで……


「ほら持ってみろ。エストックを使ってたならピッカーでも大丈夫だろ」


 そう言って渡された。


「良いの?」

「ああ、慣れてる武器があった方が安心出来るだろ?」


 握った感じはちょうど良い、長さは僕の肘から指先位の長さ。


「ダンジョンの夜は月が大きくて気持ち悪いな」


 でも凄く綺麗。雲ひとつ無くて月も星も綺麗に光ってる。


「こうやって夜空を眺めるのは初めてかも、村に居た頃は、夜に外に出たら本当に危険だったから」


 ダズとお互いの地元がどんな場所だったか、色々話をした。


 僕の地元はとにかく魔物が多い場所。

 ダズの地元は町の中心を流れる川で東西に別れてて、東と西で何かと争う事が多いって教えてもらった。


「そろそろイズとルピナスさんを起こしてくる、薪を追加しといてくれよ」


 東西に別れて争う町を何とか1つに纏めようと努力してるのがダズやイズさんのお父さんで冒険者ギルドのギルドマスターなんだって。人同士で争ってたら、気付いたら町ごと魔物に滅ぼされたりしないのかな?って疑問だった。



 そんな感じであっという間に5日が過ぎた、3日目でルピナスさんが替えの下着が無いって喚いてたけど、ユングが魔法で出した水球で洗濯して事なきを得たり、ケルビムのズボンのお尻が破けて、その部分を角兎の皮で補修したり、階層の境目で向こうは見えてるのに先に進めないって不思議な体験をしたり、コヨーテの大軍を相手にして皆がヘトヘトになったりと色々あった。


 でも凄く楽しかった。


「これでダンジョン実習1段階は終わりだ。再来週は王都の外に出て東の森で3日間過ごしてもらう。今回と違って所持品は多少だが持ち出して構わない。各人で相談し合って何を持って行くか決めておくように」


 そう言って用意されてたのは、新品の制服と各人の装具1式。


 その後にゼルマ先生から風呂に入ってから教室に集まるように言われて、皆で大浴場に来た。


「てかさ、ライルってホントに男だったんだな」


「どこ見て言ってるのさ……」


 ユングの視線は僕の下半身に行ってる……


「なよなよってしてるし線も細いし、声も高いし、どっちか分からなくて、半信半疑だったんだよ」

 

 線が細いのは気にしてるんだ……


「声変わりすりゃ間違われる事も無くなるだろ」


 ペインみたいなムキムキだったら、もっと強くなるのかな……


「もう少し髪の毛を短くしたらどう? 今のままだと女子の制服着たら確実に間違われるよ」


 うーん、それなら短くしようかな……でもケルビムみたく丸坊主は嫌だな。


「今のままでも男か女か間違う事なんて無いけどな、ドワーフの女だったら髭で顔の半分は隠れてるんだし、それと比べたら簡単に見分けは付くさ」


 ダズは髪の毛も髭ももじゃもじゃ。どっちも洗うのが大変そう。


「てーか、風呂最高。毎日入れるって幸せだったんだな」


 ルーファスは大きな浴槽で仰向けに浮いて泳いでる……


「再来週が楽しみだな。今度は色々持って行けるんだし、今回ので各人何が出来るかある程度把握したからずっと楽に過ごせるはず」


 コヨーテとの戦いでは、ユングとルーファスが中心になって皆に指示を出してた。ユングが攻めをルーファスが守りをって感じで。


「とりあえずユングは女子のテントを不用意に開けるのは止めような。ルピナスをあまり怒らせるな、後でめちゃくちゃめんどくさかったんだぞ」


 ルピナスさんが下着を履き替えようとしてる時に、見張りの交代の時間を告げるためにユングが女子のテントを開けたらしい。


 その時の見張りを一緒にしてたペインは、ずっとイライラしてるルピナスさんをなだめるのに大変だったんだと。


「まぁまぁ、とりあえずさっさと上がって教室に行こう。ゼルマ先生が待ってるはずだし」


 あっ……ユングの奴、誤魔化した。

 


 



 

読んで貰えて感謝です。

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