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祓魔師は魔導書をコンプしたい  作者: サン助 箱スキー
アーバイン魔法学園編
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模擬戦


 入学式の次の日から、午前中は読み書きや計算の授業、昼からは冒険者コースの実習が始まった。今日で5日目だけど祓魔師科の勉強はまだ始まってない。


 午前中の授業は本当に楽しい。


 ボーウェン先生に貰った“勇者と聖女”と言う本を文字一覧表で調べながら、少しずつだけど読めるようになって行くのも、指を使わずに沢山の数が数えられるのも、毎日上達してるって実感があるから。



 午後からの冒険者コースの授業はゼルマ先生を相手にした戦闘訓練。こっちは模擬戦を見てるだけで凄く為になる。


 それぞれに自分の得意な武器を持って、ゼルマ先生と模擬戦をするんだけど、ゼルマ先生は本当に凄い。

 8人がそれぞれ違う戦い方なのに、それぞれのダメな部分を細かく指摘してくれて、体の動かし方まで教えてくれるんだ。


「ペイン、お前はフェイントに引っかかり過ぎだ」


 僕達生徒は全員自前の武器を使ってるのに、ゼルマ先生は箒の柄を腕より少し短く持って、それで僕達の攻撃を全部いなしてるんだ。


「魔物との戦いで役に立たないと思うな、人型の魔物だけじゃないぞ、四つ足の魔物でもフェイントは使ってくる」


 相手の武器だけを見るな、全身をうっすらとぼんやり見ろと何回も言われてた。

 見るだけじゃ無くて音も聞かないとと思うんだけどな。


「お前の長所は体の大きさと手の長さだと思え、圧力をかけつつ相手が引いた所に追撃してみろ」


 1人ずつ模擬戦をやって、ダメな所を沢山言われるんだけど、必ず最後に褒めてもらえる。


「昨日より体重移動がスムーズになったな、重鎧を付けてるなら、筋力で無理矢理体を動かすのでは無く、体捌きは体重移動を使う方が早くなる。その調子で訓練を続けるように」


 大人顔負けの力で重鎧を着込んで、大きな槌を振り回すペイン君の攻撃を、箒の柄で簡単に受け止めて、ゆっくりとペイン君が避けられるように突きや斬撃を出すゼルマ先生、村の大人達が子供に教えるように、少しずつ細かく、身に付くまで指導してくれてるのがよく分かる。



 僕達8人の中で、近接戦闘をしないのが1人。


「2体同時に操作すると、どちらも同じ動きをしてしまうのか。細かい操作が必要な状況であれば一体だけに絞って召喚する方が良いのかもな」


 召喚師を目指してるルーファス君。


「俺の召喚術の構築式をよく見ておけ。片方は範囲に入って来たモノに対して自動で攻撃を加える護衛に、片方は視界を繋げて自信で操作しやすいようにカスタムしてある」


 ルーファス君が召喚するのはゴーレムばっかり。

1体だと大人くらいの大きさの土のゴーレムだけど、2体同時に召喚すると腰の高さくらの小さな砂のゴーレムになる。


「左右の腕で別の構築式を同時に操作出来ないなら、同位体を大量に召喚して隊列を組ませろ。たとえそれが動きの鈍いゴーレムでも、全く同じ動きで統率された集団になれば脅威だからな」


 複数体を別々に操作出来なくて下を向いて泣き出しそうだったルーファス君は、ゼルマ先生の一言で顔をあげて、大きな声で「練習してみます」なんて言ってた。



 ケルビム君との模擬戦が1番面白いかもしれない。


 ゼルマ先生が小さな丸盾を持って、生徒皆で色々攻撃してみるんだけど、一度にどれだけ攻撃しても全部いなされて、受け止められる。それなのに先生は最初の場所から殆ど動いていない。


「何一つ後ろに通さないとはこう言う事だ。ただこれにも必ず限界が来る。仲間と魔物の位置関係を把握して仲間が安全に行動出来るように、自分の立ち位置を考えてみろ」


 ケルビム君はずっと真剣な眼差しで先生の動きを見てた。


「盾兵のお前が崩れたら仲間も一緒に崩れる。お前がどれだけ耐えられるかで仲間の生存にも関わると肝に命じておけ。出来る限り疲れて動けなくなる事が無いように、いなす攻撃と受け止める攻撃を見極められる目を養え」

 

 先生が次から次へと箒の柄でケルビム君の盾を狙って攻撃してるんだけど、同じ動きに見えて重さが違うのか、ケルビム君が受け止められるのと、盾が弾き飛ばされるのと、反応出来ずに体に当たる直前に止めてくれる攻撃と様々で、その違いがどこにあるのか探すのが楽しかった。




 ダズ君とイズさんの模擬戦は様々な武器を使って行われた。


「昨日は短剣だったが今日は斧槍を使ってみろ」


 冒険者ギルドの指導教官になるなら、何を使っても専門でやってる銅級冒険者より上手く扱えないといけないらしい。


「指導教官は万能でなければならない。冒険者には様々な武器を扱う者がいる。棒を持つ者もいれば、縄を使う者もいる、刃物や鈍器だけじゃない、飛び道具と魔法と剣を同時に扱う奴もいる」


 村の大人達も色々だったな……


 ギザギザの鍋の蓋を投げて攻撃する人とかも居たし。


「何を扱っても銀級同等に扱えるように訓練しろ。お前達2人が教官になるなら、お前達の指導1つで冒険者になる若者の命が左右されるんだ。苦手を作るなよ」


 2人とも背は低いけど力が強くて、瞬発力があるから、動きは速い。

 低い所から素早い動きで瞬時に飛び出て来る攻撃なんて避けにくいだろうな。




 ルピナスさんの訓練は、ゼルマ先生が多重発動した色んな属性の魔法を障壁魔法で打ち返したり、反対属性の魔法でかき消したりだった。


「土属性魔法の様に実態のある物を障壁で受け止め続けていてはすぐに破壊されるぞ」


 凄いのはゼルマ先生の魔法。

 指先くらいの小さな石の礫を撃ち出す魔法1つでルピナスさんの発動した障壁魔法が粉々になったんだ。


「良いか、障壁の前に30cmくらいの厚みで水の壁を出してみろ同時発動は出来るよな?」


 どうなるのか皆でワクワクしながら見てた。


「凄い……水で石礫の勢いが死んだ」


 高速で撃ち出された石礫だったけど、水の壁を通る時に勢いが殺されて、魔法障壁に当たった時には軽く投げた程度になってた。


「水の抵抗で動きが遅くなるのは質量を持つ全ての物体が同じだ。ただ貫通力と推進力が水の抵抗を減らせるモノであれば効果が変わってくるから、その時は水の中に氷を混ぜてみるのも良いぞ」

 

 ケルビム君もメモを取ってる、でもメモしながら「水属性は苦手なんだよな」なんて呟いてるし。



 ユング君と先生の模擬戦は魔法も直接攻撃もある激しいものだ。


「多重展開・ストーンバレット、ウォーターカッター」


 展開するだけで発動せずに体の後ろに魔法陣を保持したまま、杖の先に刃物が付いてる槍杖で斬り掛かりつつ至近距離から魔法を発動するユング君と。


「バレットやカッター程度の魔法を、陣を出さなければ使えないなら使わない方が良い。多重展開する価値が無い」


 色んな方向から同時に攻撃を受けるゼルマ先生だけど、ひとつも当たらない。それどころか……


「構築した魔法陣を相手に見せてどうする」


 そんな事を言いながらユング君の背後に浮いてた魔法陣2つを、上書きしてかき消してしまった。


「魔力読みの上手い奴なら、他人が発動した魔法陣を書き換えて制御を奪う事も出来る。そうなると背後から自分の魔法に貫かれる事になるぞ」


 そんな事をされたら避けられないだろうな……



 そして最後に僕。


「魔導書を使うな。魔導書だけに頼るのなら祓魔師連盟の依頼だけを受ければ良い。そうすれば街中の仕事だけだ」


 そう言われたんだけど、僕の魔導書には2つしか魔法が無いし、1つは最近手に入れた物だからあまりよく分かってない。


「魔導書を扱える弊害が魔力を使用出来なくなる事だが、魔力を使って身体強化出来ずとも十分に人は強くなれる」


 僕が使ってるのは実家を出る時に両親から貰ったエストック。

 突き主体で攻撃する武器なんだけど……


「お前の武器は多少荒く使っても壊れないだろう、手首の動きだけで岩を砕ける程に鍛えてみろ」


 驚いたのは、王都に来てから初めて箸を使う人を僕以外で見た事。

 もっと驚いたのは、僕の刺突をゼルマ先生が全部箸で摘んで止めた事。



 他の人の模擬戦を見てるのは凄く勉強になる。

 ゼルマ先生の動きの強弱は上半身だけ見てたって分からないけど、踏み込む時の足音を聞いていたら、強い攻撃が来る、これはフェイントって少しだけ聞き分けられた。


「今週の授業はここまでだ。月曜から金曜まで午前中の座学を現地実習の時間にしてもらっている。月曜の朝に所持している全ての装具を持って教室に来るように」


 学級委員に決まったのはユング君、声が大きくて通るからって理由だ。


「起立、礼」ユング君の声に合わせて先生に礼をする。


「なあユング、夕飯何食べる?」「肉だろ肉」


「肉ばっかり食べてないで野菜も食べないどだぞケルビム」


 ユング君やケルビム君やルーファス君は何時も3人一緒に行動してる。


「ペイン、少し自主練に付き合えないか?」


「ああ良いよ、僕もまだ少し体を動かしたいんだ」

 

 ペイン君とダズ君は昨日から授業が終わった後に自主練習を始めた。


 イズさんとルピナスさんは2人でお風呂に行くらしい。


 僕は……部屋に帰って本を読むつもりだったけども……


「ペイン君、ダズ君、僕も一緒に練習させて貰っていいかな?」


 組手の練習をするって昨日言ってたし、僕も混ぜて貰いたい。


「ああ、構わないさ」「エストックなんて珍しい武器を使う相手と練習出来るのはありがたいね」


 練習に混ぜて貰って、3人で今日先生に言われた事の復習をした。


「先生はなんであんなに軽く突き出してるだけなのに重い攻撃と軽い攻撃を分けて使えるんだろうか」


 練習が終わって寮に帰る時にペイン君に聞かれたんだ。


「それは僕も不思議に思ってた。でも僕が疑問に思うのは目の前に居たはずなのに、槍を突き出したらもう居ない、でも良く見たら先生は殆ど同じ所から移動もしてない、あれはどうやってたんだろ?」


 ダズ君も先生の動きが不思議に思ったみたいだ。


「体重の乗せ方じゃないかな? 踏み込む時の音が強い時と弱い時があったし」


 ふわっとしてる時とドスンって時もあった。


「それと、避ける時に体を片足を軸にして回転しててたけど、避ける速さと戻る速さが同じくらい速かったから目の前に居たら消えたように見えるだろうね。あとは力を流すのが凄く上手だったと思うよ」


 今日見学してて感じた事を伝えてみた。


「必死に攻撃してる最中に足音の違いなんて分かるわけ無いだろ」


「流すのが上手いのは僕だって分かってるさ」


 先生は攻撃する時に魔力を少しだけ体に流して動きに緩急を付けてた。

 でも僕と模擬戦をする時は魔力を一切使わずに同じ様に動いて見せてくれた。


「足音の違いとか本気で言ってるのか?」


「うん。強い攻撃を繰り出す時はザッって感じの音だけど、弱い時は殆ど足音がしなかったから」


 僕の部屋は1階でペイン君とダズ君の部屋は2階らしくて、廊下の所で別れるまで、今日先生が見せてくれた動き方を3人でアレコレ言いながら歩いた。


「体を流したら食堂に行くからライルも来いよ。もう一度話そうぜ」


「うん。分かった」


 王都に来てからボーウェン先生以外とこんなに話すのは初めてだったから凄く楽しかった。

 

 

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