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新技術


 サウスポートに来てから約2ヶ月、その間に海の魔物に対抗する手段を色々と考えて、実家を出る時に親から貰った短剣を使うのが、俺に1番適してるって気付いた。何度やっても銛は無理だった、上手くエラに刺せないんだ。


 他にも、俺の背負っている魔法鞄は、元々付いてた時間停止が時間遅延に、重量軽減90%が50%に、空間拡張の容量こそ同じだけど、性能はかなり下がっている。金が足りなかったんだからしょうがない。


「時間停止と重量軽減90%にグレードアップか……新しく作り直すのは金銭的に無理だ」


 森に行く時はカルラも一緒、一緒に行けばカルラの魔法鞄がある。だけど海に行く時は別行動、だから俺の魔法鞄の性能を上げて、一度に持ち帰れる量を増やしたいんだ。


「失敗して触媒を無くすかもだけど、今の魔法鞄に付いてる効果を、重ねがけして更に高める付与術ってのを勉強中なんだ。練習に使わせて欲しい」


 俺としては成功してくれりゃ儲けもん。失敗しても現状維持。


 カルラはカルラで、後付けで性能を向上させる実験が出来て、それなりに価値のある物を実験の素材に出来る。


「時間停止だと時ダヌキ、重量軽減90%だと飛びトカゲだったよな?」


 時ダヌキも飛びトカゲも希少種。カルラの魔法鞄は、そこにもう1つ、袋ネズミの素材も追加してある。


 カルラの魔法鞄の素材を手に入れられたのは、ホントに偶然だった。王都に住む元研究者の家族からの依頼。

 冒険者ギルドに張り出された依頼書は【ゴミだらけの屋敷を片付けて】を、ハンセンと3人で受けた時。

 中にある物は全部棄ててと依頼されたから、有り難く貰った素材だからこそ集められた。


「ゼフ草とアルカ草で大丈夫だよ。効果を高めるのに同じ触媒を使って重ねる感じの付与実験だから」


 ゼフ草は重量軽減、アルカ草は時間遅延。俺の魔法鞄の容量なら、触媒無しの空間拡張でも大丈夫。


「ライルは袋ネズミを素材にするのは嫌なんだよね?」


 とんでもない。袋ネズミの頬袋を切り取るなんて出来るわけない。


「俺の地元で袋ネズミを魔物扱いしたら怒られるぞ。リンゲルグだけかもだけど、どの家庭にも数匹は飼ってるハムスターって呼んでるペットだからな」


 めちゃくちゃ可愛いんだよ袋ネズミって。


 地元を出るまでずっとハムスターって呼んでたネズミ。なれると頭の上にしがみついて髪に潜って寝ようとしたり、胸ポケットの中でモゾモゾしてたり、花の種を与えるとモキュっと咥えて頬袋に溜め込んで、パンパンに膨れた頬が超絶可愛いんだ。


「空間拡張が馬車1台分になるより、袋ネズミは可愛がりたい」


 これを言うと、カルラににもハンセンにも呆れた顔をされた。今だってカルラは呆れ顔だし。


「それなら触媒無しで重ねてみるよ、それも実験になりそうだし」


 それはありがたい。


「もうすぐ雨季だから毎年恒例のアレもあるし、軽鎧も強化しとこうよ。そのままだと怪我するよ」


 毎年恒例のアレとは、海の魔物達の繁殖期。

陸でも活動出来る魔物なんかが肉を求めて大挙して港に押し寄せるらしい。


 そして、たらふく地上の生き物を食べて海に帰る魔物を狙って、大型の肉食魚、肉食魔魚なんかが近海に現れる。


 サウスポートでは年に1番の稼ぎ時、大型の肉食魚は殆どサウスポートで消費されるけど、肉食魔魚は加工して保存食になって各地に送られる。


 各地に送られた保存食の中でも大人気なサウスポートの魚肉ソーセージ、ほんの少しだけ塩をまぶして焼いた物をパンに挟んだヤツは、早い安い美味いで庶民の味方。


「色が気に入ってるんだよな。出来れば似たような色合いの皮を手に入れるか、染めてもらうかだけど、財布と相談だな」


 ゴブリンの緑色ってのは森の中で保護色になってて、肩のラインを隠せばかなり目立たなくなる。


「ライルが南部に来てからいくら稼いだと思ってるの? いい加減ゴブリン革なんて気分的に嫌だから止めて欲しいんだけどな」


 結局、カルラの言う通り、何か違う革を染めてもらう事になった。出来れば同じくらい柔らかくて動きやすい革がいい。


「今後の方針は、付与術の素材集めと、お互いの技術を磨くと言う事でやってくか」


 俺は短刀術、カルラは付与術の重ねがけ。

 方針が決まればやる事はいつも通り、森に入って素材を探す事からだな。




 短刀術を習うのは簡単、カルラの親父さんに教えて貰える。

 現役時代は2本の短刀を持って大型の鮫を狩る姿から【鮫殺しピッペン】と呼ばれていたそうだ。


「ライル君は珍しい物を持ってるんだね」


 俺の短剣をカルラの親父さんに見せたら言われた事。


「大牙鮫の牙の短剣なんて久々に見たよ」


 数年に1度だけ雨季に現れる、大勢の冒険者や漁師を犠牲にしつつ追い払う海の怪物。

巨大な牙を持つ凶暴な魔物の牙を短剣に誂えた物らしい。


「地元を出る時に両親から貰いました。いつか使いこなせるようになれと言われていたのですが、なかなか習う機会が無くて」


 カルラの親父さんは左足の膝から下が義足、左足を奪ったのは件の大牙鮫らしい。


 カルラが付与術師を目指したのは、義足になって漁師を辞めた父親の為に、神話に出てくる様な自分の足と同じ様に動く魔道義足を作りたいからって学生時代に教えて貰った。


「まずは軽く順手の型から練習しようかね。この短剣なら重さは手元を重くしてあるから拳も併用すると良いよ」


 例え義足だろうと、上半身のみを使った短剣術はキレが良くて、捉えずらくて、多分まともに正面から至近距離でやり合ったら容易に死が訪れると思う。


 ゆったりした動きから、急に早くなる緩急を付けた腕と短剣の動き。

捉えるには相当な覚悟をして、怪我をする事前提で行かないと無理だと思える。




 カルラは音量を増幅する魔道具作成の最終段階。

エコー草を乾燥させるのに思ったより手間取ったらしい。


 完成すればカルラの声が皆に届くようになるんだし、出来るだけ優先で作るように言ってるんだけど、俺の装具にばっかり手間を割いて、なかなか作ろうとしなかった。でもそれも昨日まで。


 今日は朝から乾燥させたエコー草を触媒にする加工をしてる。



 そんな感じで別行動する時間も出来て、それぞれにスキルアップをはかる毎日。カルラも俺も毎日が忙しいけど充実してる。


「ライル君、本当におおきにな。娘があれ程笑うようになったのは何時以来だろうか……」


 宿の裏にある庭で洗濯物を干してたら、親父さんに言われた事。宿の客から預かった洗濯物を干しに来たらしく、温風魔法で俺の洗濯物と一緒に乾かしてたら、急に言われたんだ。


「卒業前もあんな感じでしたよ。噂では彼氏も居たらしいんですが、詮索するのも嫌がるだろうと思って、そこは聞いてないです」


 言わなきゃ良かった……


「ライル君。それがどんな相手で、今のカルラがどう思ってるか、2人の関係は何処まで行ったのか、細かく調べてくんさいやァ」


 俺の腰に付けてた短剣を一瞬で奪って俺の首に押し付けて、脅されながら頼まれてしまった……


「は……はい……」


 そうとしか答えられんよ、親父さんの目がやばかったから。現役でも行けそうな動きだったぞ。




 どうやって彼氏の事を聞き出そうかと考えてたんだけど、カルラの音量を大きくする魔道具が完成した事で色々と解決してしまった。


「どうかな? 声、大きくなってる?」


 カルラの口の動きはいつも通りなんだけど、普通の人が喋る時にくらいの声量になってる。


「おお! だいぶ大きくなるんだな。でも、そのペンダントに付与したのか?」


「これから毎日付けるんだ」なんて言って見せてくれたペンダントを見たら……彼氏が誰なのか理解出来た。


「それって北の伯爵家の紋章だよな?」


「うん。去年の誕生日に、わざわざ王都から来てくれたんだよ。その時に婚約を申し込まれちゃった」


 薔薇の花にランデンベルグ伯爵家の紋章。


「俺の前に紹介状を持って宿に尋ねて来たのってユングか?」


 そうか、アイツって小さい子が好みだったのか……


 えへへ、なんて言いながら頬を染めるカルラを見て、そんな事を考えてた。



 どうやらカルラのお袋さんはユングの事を理解してたみたい。

俺がカルラの紹介状を持って尋ねて来たから、恋のライバルが現れたとドキドキハラハラしてたらしい。


「ライルは女の人に興味が無いから」


 客もまばらな昼飯時、カルラの両親と一緒に昼飯を食べてたらカルラに言われてしまった。


「誤解される様な事言うなよ。普通の女の人と恋愛が無理なだけだし」


 これは仕方ないんだよな。


 興味津々で色々質問して来るカルラのお袋さん。


「両親共にクォーターエルフなので、普通の女性だと寿命に違いがあり過ぎて」


 クォーターエルフの寿命は300年くらいって言われてる。俺の両親って、見た目は30代前半に見えるけど2人とも80歳。人間だったら寿命を迎えそうな年齢だ。


「恋愛なんて勢いだよっ! そんな事なんざ言ってたら売れ残っちまうよ。イケメンなのに勿体ない」


 カルラのお袋さんにもイケメンと言われた。


「なるほど。エルフかぁエルフじゃぁ仕方ないのゥ」


 何故か納得してるカルラの親父さん。



 まぁ色々あって3週間くらい過ぎて、いよいよ雨季の始まり。


「それじゃ行ってくる。魔道具ありがとうな」


 口に咥えると水の中でも呼吸出来る魔道具を1つ貰った。


「何としてもアーリマンを確保して来て」


 今じゃ相手に声が届く事にも慣れたカルラ。

この時期のカルラは冒険者や漁師が持ち込む魔物や魚の対応に追われるらしい。


「エラは傷付けちゃダメなんだよな」


 周りの漁師さんや冒険者達と殆ど同じ、真っ黒の全身タイツを着てるけど下は中にフォレストフロッグのタイツを着込んでる俺。


「エラと睾丸はキズ付けちゃダメだからね」


 女の子が大勢居る場所で、大きな声で睾丸とか言ったらダメ! 


 気付いて少し赤面してるカルラを見ながら、サウスポート名物、海の小スタンビートの始まりに胸を高鳴らせてた。


 




読んで貰えて感謝です。

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