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初めての海の魔物

お食事中に読んではいけません回です。



 カルラと別行動の朝。俺は深夜から【南風】の2人に指導を受けながら海の魔物との戦い方の勉強をしてた、今はもう、冒険者ギルドの酒場で酒盛りを始める所なんだけどな。


「まさかライルに、あんなお願いをするなんて考えた事もなかったよ」


 ビスマ姉さんの豪快な笑いと共に海の魔物との戦いの反省会という名の飲み会が始まった。





「フォレストフロッグのタイツは、凄く防水性能が高いし保温性に優れてるから必ず着といて。海の中に入って1番怖いのは低体温症だからね」


 昨日の夕飯の時にカルラに装具をどうすりゃ良いか相談したら、爺ちゃんに貰ったタイツを着て行けって言われた。


「継ぎ目の無い綺麗なフォレストフロッグの皮で出来た1枚物のタイツなんて、サウスポートの冒険者に言わせたら贅沢品なんだよ」


 カルラが大急ぎで作ってくれた海専用の靴。

先日、机の上に置いてあった、作りかけの靴のサイズを俺に合わせてくれたやつ。


「フォレストフロッグの革が高級品ってならエルフの村に行けば大量に余ってるぞ。今時の若いエルフは着ないからな」


 なんて贅沢な事をだってさ。


「斬撃や刺突の耐久力に優れてるから、手袋にすれば尖ったヒレ対策とかに大人気なのに、もったいない」


 そうも言われた。


 カルラにアドバイスを受けて着込んだ装具は、濡れても悪くならない素材ばかりで、通常の加工された革なんかは一切混ざってない。


「今日の所は頑強さを増やす付与をしておくから。海で仕事するなら専用の装具を買わないとね」


 どうやらクルトさんが着てた全身タイツでさえ、そこらの冒険者が着てる軽鎧より頑丈らしい。





 そんなこんなで【南風】の2人との待ち合わせ場所、漁港入口に建ってる冒険者ギルドの出張所に来たんだけど。


 焚き火を囲んで10人くらいの海の冒険者達が既に飲んでる所だった。


 そんな中でビスマ姉さんに言われた事。


「ライル、良いかい。海の魔物ってのは昼間は殆ど寝てるんだ。夜になって魚が眠ったら行動し始めるのを覚えとくんだよ」


 なるほど、夜行性なんだな。


「繁殖期になると昼でも餌を求めて動き回るがな」


 クルトさんもビスマ姉さんも真っ黒の全身タイツ。


「それじゃ行こうかね。船を出すよォ」


 と、俺が元気なのはそこまでだった。




「うぉぉえぇぇぇぇぇぇ」


 船酔いと言うのがこんなにキツイなんて知らなかった。


 気持ち悪くなってすぐにカルラから貰った酔い止めの薬を飲んだんだけど「酔い止めは海に出る前に飲むもんだよ」なんてビスマ姉さんに教えて貰った。


 波に揺れる不安定な船の上で下半身のバネだけで立ってる冒険者の皆さん。


「ヨーホー。ヨーホー」


 漕ぎ手の漁師さん達や光魔法を得意とする魔法使いの皆さんも全員酒に酔ってる。


「酒に酔うのも船に酔うのも変わらんけェ、どうせなら酒に酔う方がええじゃろ」


 俺はそれどころじゃない。


「まあ初めてにしちゃ文句も言わんと頑張っとるんでないか? エビ食いはエルフの血が混ざっとろぅ。船に慣れんでも仕方ないわい」


 どうやらカルラの声を聞き取れるのを見てエルフの血が入ってるのを知られてしまったようだ。


 まあ誰も文句なんて言わないから、王都とは違うんだろう。


「吐くものも無くなったので、気持ち悪いですけど動けます。心配おかけして申し訳ないです」


 横になって目を閉じろって言われて、その通りにさせてもらった……


「んじゃいっちょ、船酔いを治したるけェ、驚かんでくんさいやァ」


 なんて言って掛けられた氷水。俺の頭にバケツでバシャッと……


「つめてぇ!」なんて叫んで、大慌て。


 でも……


「あれ? 少しスッキリしてる」


「そうじゃろ、そうじゃろ。軽く飲みなせ、酔いが回れば少し楽になるけぇのォ」


 漁場に着くまで40分。真っ暗な中で町の灯台の燈と、魔法使いのオッチャンが作り出した光球だけが頼り。


「さあ、網を立てるけぇ、皆準備はええかァ」


 魔法使いのオッチャンが海の中に光球を落とす。

 海水が照らされてるんだけど、船の周りには沢山……


「囲まれてる……」なんて思ったのもつかの間、冒険者の皆は手に銛を持って海に飛び込んで行く。


「ライル。覚悟が出来たらあんたもおいで。ここからは命懸けだよ」


 俺がどんなにカユカユ魔法を使おうと、魚系の魔物には通用しなくて、ヌルヌル魔法は海水で中和されて意味をなさない。


 魔物達は食用だから腐り魔法も使えないし、温風魔法を使うと鮮度が落ちるからダメ。


 仕方ない、海の魔物って言ったって腹は下すだろうよ……


 覚悟を決めて海に飛び込んだ俺だったけど、よく考えたら海で泳ぐのは初めてで……海水に潜るのは川と全く違って……


 俺に向かって来る全長2mくらいありそうな、尖った角を向けて突っ込んで来る魚の魔物を避けるのに必死。


 角を掴んで「ピーガン・最大威力」効果範囲は最小で、俺と目の前の魚の魔物くらいしか巻き込まれて無いはず。


「ライル、エラに銛を!」


 そんな声が聞こえたから、右手に持った銛をエラだろう場所に突き立てたんだけど、魚は丸い形をしてて、銛が滑って上手く刺さらない。


 そうこうしてるうちに、俺の腹はグルグルで、めちゃくちゃ痛くて……フォレストフロッグ皮のタイツの中に撒き散らしながら、何度も何度も銛を魚に突き刺して、たぶんいい所に決まったんだろう……


「1度船に上げるよ、網を寝かせな」なんて声が聞こえるまで、ほんとに死を覚悟した。




 海の中で服を着たまま出すのは普通の事らしい。


 誰にバカにされることも無く「海の中で脱いで洗えばえェ」それが普通らしい。


 船にはトイレなんて付いてない。


 他にも「初めての海の狩りで暴食イサキを仕留めるたァ、ツイてるなエビ食い」なんて褒められて。


「下半身が冷たくなって来たらションベン出して温めぇや。冷えて動きが鈍くなりゃ魔物の餌になるだけじゃけぇ」


 なんて教えて貰った。


 その後も同じ様に3回海に入って魔物を狩った、上からも下からも出す物は全て出し切ったから、腹痛魔法を発動しても2回目からは大丈夫。


「皆さんなんで長時間潜ってられるんですか?」


 長い人で15分くらいは水中に潜りっぱなし。息継ぎすらせず魔物を仕留めてる。


「そりゃぁ、ひよこの嬢ちゃん特製の魔道具を皆持っとるけぇのぉ。これがあるおかげで昔ほど息継ぎしとる間に狙われて怪我する奴が減ったんじゃ。ひよこの嬢ちゃんにはホンに感謝しとるでェ」


 見せて貰ったのはカルラがアーリマンのエラを触媒にして作ってた呼吸する魔道具。

 口に咥えて潜れば。水中でも30分くらい活動出来るらしい。


 付与術師凄いと本気で思わされた。



 俺の狩った魔物は5匹。最初に狩った暴食イサキって魔物は、角は銛、頭は肥料、身は美味しい焼き魚になるらしい。


 冷凍してほかの町に運ばれたり、その日のうちに屋台で料理になったりと、色々な使われ方をするんだけど……


「ちいと傷が多いけぇ少し値段は落ちるが、これだけ立派な暴食イサキじゃけェ王都に送ったらええ値段になるで」


 ほかの1mに満たない小さな魔物と合わせて金貨6枚……海の冒険者って儲かるんだな。


「船賃と税は天引きじゃけぇ、受け取った分がまんま兄さんの手取りになるで」


 仲買と言う魚を買取る専門の業者さんにそんな事を言われた。



 その日の漁が終わって、町の中央にある冒険者ギルドに向かう途中、石碑の前で皆が黙祷してた。


 石碑には、海に散った同胞の碑、と書いてあった。


「ライル、どうだった? 海は凄いだろ?」


「ええ、もう何が何だか全くわからなかったです」

 

 無我夢中って奴だった。クルトさんなんか50匹以上仕留めてたし。


「クルト、ちょっとライルを借りてくよ」


 俺を借りてくってなんだろ? そんな事を言うビスマ姉さんも30匹くらいは仕留めてた。俺の事を監視しつつ、俺が魔物達に囲まれそうになって危ない時には助けてくれつつ。


「あんたの新魔法ってアレだろ? アレって何処まで効くんだい?」


 アレ……


「いちおうですが、軽く掛けただけで全部出る感じですね。本気で掛けたら我慢なんて出来ませんでした」


 ビスマ姉さんの目が本気だ。俺の事を見てたから、俺が何をしてたかを見てたわけで。


「そりゃ良いね。セラを産んでから出なくてホントに困ってんだよ。アタイに1発掛けてくんさい」


 いいんだろうか……でも、掛けないと離してくれなさそうだ……


「それならトイレの近くに行ってからで。軽く掛けた時にトイレまで歩くのも大変だったので」


 その後、冒険者ギルドに向かうはずが、1度家に連れて行かれてトイレの前で腹痛魔法を掛けた。


 もちろん着く前に魔法の事は細かく説明しといた。


「ピーガン・軽めで」


 俺はすっからかんだから、少し腹が痛くなるだけ。

でも、姉さんは……


「外で待ってます」


 驚いた顔してトイレに変な歩き方で入って行った。




 宿に帰ったのは昼前。


「初めてで夜の海に飛び込んで来れる奴なんかホンに少ないんじゃ。それに加えて5匹も仕留めるたァ根性あるやないかエビ食いのォ」


 俺達より少し遅れて冒険者ギルドに来たエビ獲りジョンさんに褒められた。

 俺がギルドで最初に話し掛けた角刈りの冒険者、マグロ追い・カーネルさんには。


「ワシの顔見て話し掛けて来るくらい根性あるんじゃけェ。夜の海にビビる訳がなかろゥ」


 確かに、何処の凶悪犯だよって顔だもんな。


 そんな事を思い出しながらカルラと宿の食堂に座ってる。


「へ〜、さすがライルだね。暴食イサキか、内臓を煮込んだのが美味しいんだけど臭いが取れる程洗うのが大変なんだよね」


 確かに、動物や魔物のモツは美味しいけど下処理が大変。


「今日の昼は暴食イサキの綺麗なモツが売ってたからモツ煮込みじゃが、ライル君が獲った獲物かもしれんのゥ」


 カルラの親父さんが、そんな事を言いながらテーブル席まで運んでくれた料理。


 焼き立ての黒パンと魚のモツ煮込。


 ハッキリ言って海の魔物は、めちゃくちゃ怖かったし、海の狩りは、めちゃくちゃ疲れた。ついでにお腹も、、めちゃくちゃ減った。


「ヤバい、魚のモツ煮込みが美味い……」


「全然臭みが無いね。私でも初めてかも、こんなモツ煮込みを食べたの」


 別行動中にカルラは何をしてたのか聞いたら、出来上がった魔道具を発注元に納品して来たと言われた。


 売り上げは白金貨になったんだって……


 凄いな付与術師。




現在主人公の使える5種類の魔法は、全てがとても大切な魔法なので、こんな汚い回もありますが、そこは申し訳ないとしか言えません。


読んで貰えて感謝です。

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