表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/73

道連れ

サウスポート編開始です。


 王都から各地方の主要都市までは比較的安全に旅をする事が出来る。それもこれも、王都所属の対魔騎士団や地方都市所属の貴族の私兵、各都市の冒険者達見回りのおかげ。

 俺が1人で山道を歩いていても、必ず誰かしらとすれ違ったり追い越されたり、王都圏で生きる人の食を保つ為に毎日頑張ってる。


「王都の連中は分かりやすいな……」


 騎士団なんかは揃いの兵装でしっかりとした陣形を保ったまま走り抜ける。冒険者達は小綺麗にしてる。


 地方の冒険者は、それぞれ思い思いと言うか、パーティー単位で見たら同レベルなのだが、パーティー別での装備には天と地程の開きがある。


 貴族の私兵なんかはもっと分かりやすい。


 旗を背中に背負った人物が必ず混ざってるんだが、ドワーフだったり獣人だったり、およそ王都所属の軍隊では有り得ない程には、ちぐはぐな兵装の連中も混ざってるんだ。


「ご苦労さまです」


「良い一人旅を」


 貴族の私兵だろう人達に挨拶すると、帰って来るのはそんな答えで。


 南部所属だろう見た目の冒険者達に声を掛ければ。


「見回りご苦労さまです」


「お兄さん、もう少し進めば宿泊施設があるけぇ。たっぷり飲んで食って金を落としてくんさいやぁ」


 南部訛りの混ざった言葉で返してくれる。地方の冒険者達は皆気さくで、でもしっかり警戒はしてて……


「やっぱり王都のぬるい冒険者達とは違うな……」


 歩く姿も着てる物も、山や森を主戦場にするなら最適だと思われる歩法や装備、警戒するのも目だけじゃない、耳や鼻も使って、流れて来る風を感じて、植物に残る魔物の温もりを手で確かめて、五感全てで警戒してるんだ。


 王都所属の気取った装備で泥臭い仕事拒む冒険者連中より、ずっとこっちの方が良いなんて思えてしまった。


「南部の地図も書こうかな……」


 実家近辺は覚えてる範囲で書いた。

 王都周辺は自分の足で歩き回り、自分の目で見て完成させた。


 どうせなら書こうと思う、筆記用具はまだまだ余ってるんだし。


 一人旅最初の宿営地は頑丈な柵で囲われた小さな村で、宿屋の店主が南部訛りの混ざった言葉で話すのが印象的だった。



 2日目からは完全に王都圏から地方の一部にかかっている聖結界を抜ける。なだらかな下り道が延々と続く街道で、王都へ向かう海産物を積んだ馬車と多数すれ違った。


 この辺りから手に筆記用具を持ったまま、簡単な地図を書きつつ歩く。王都圏より地方の主要街道の方が安全に思える。


「ここで王族の守護結界が終わるのか……」


 歩き出して2時間もしないくらいで、王都圏を守護している代々の王族が維持している聖結界の境目に着いた。


 抜ければ明らかに空気が変わる。


 結界に護られ少し澱んでいた空気が、吹き抜ける清浄な山の空気に。


 胸いっぱいに息を吸って深い深呼吸をして……


「都会より田舎の方が好きだな……」


 肌に合ってるとでも言えば良いんだろうか、吹き抜ける強い山風も、山風が運んでくる草木の香りも、うるさい鳥の声や……


「そっちに行ったぞ! 逃がすなよ!」


「わーってらい。テメエこそ取りこぼしてんじゃねえよ!」


 小さい森魔狼(フォレストウルフ)を追い掛ける冒険者の声も心地良い。


「カユカユ、最小威力で」


 こっそりとカユカユ魔法を発動しといた。


 突然痒くなった耳の後ろを気にして小さな森魔狼の動きが止まった所を、凄くぎこちない手つきで捕まえる冒険者風の2人……


「すまんな兄ちゃん、驚かせてしまったみたいじゃのぅ」


「この辺りは、たまに森魔狼が出るから気を付けてくんさいやぁ」


 南部訛りで話しかけられた。


「一応、こう見えて銅級冒険者なんで、森魔狼くらいなら囲まれても逃げられます。心配して貰って申し訳ないです」


 まだ産まれて間も無いだろう仔狼をカゴに入れる中年冒険者、頭はツルツルで筋肉ムキムキ。いかにも屈強そうな感じがする。


「なんでい、痩せこけた優男だったから心配してみりゃ俺達と同業か。兄ちゃん何処に向かっとるんや?」


 もう1人の魔法使い風の男からは、何処に向かうか聞かれて……


「サウスポートに向かうつもりです」


 そう答えたら禿げた冒険者から。


「兄ちゃん目的地は同じかい。兄ちゃん犬っころの世話できるか? もし出来るなら俺達の馬車に乗ってくんさいやぁ」


 森魔狼の子供なら余裕だな。


「小さい頃から何匹も面倒見てたので仔狼くらいなら余裕ですよ、でもやりたい事もあるので歩いて行きたいです」


 やりたい事が地図作成と言ったら、サウスポートに行けば、街道付近の詳細を書いた地図が冒険者ギルドで安値で売られてるから買いなと教えてもらった。


 だから馬車に乗せて貰ったんだ。



 そこそこ跳ねる馬車に揺られて南に下る間に、森魔狼の子供を捕獲してた理由を聞いてみたら。


「数日前に王都の対魔騎士団の奴らが大掛かりな魔狼狩りをしやがってな、アイツら皮や魔石を売れる大人しか狩らねぇ。残されたコイツらは人間を恨んで育つか飢え死ぬかじゃろぅ?」


 まだ体重1kgにも満たない仔狼6匹、放置されれば肉食の獣や他の魔物に食われて死ぬだろうよ……


「それならサウスポートに連れて帰って番犬にしてやろうってな。最近西から魔物が流れて来とって困っとるけぇ、森魔狼なら森側の番犬には最適じゃろぅ?」


 そう教えて貰った。


 確かに、森魔狼を番犬にするのは、俺の故郷でも大概の家はやってる。

 飯なんかは自分達で狩って来るから、暖かくて安全な寝床を用意するだけで、立派に番犬として働いてくれるし。


「番犬と言うには少し大きくなり過ぎますけどね」


 森魔狼は尻尾まで含めると最大で2.5mくらいに育つんだ、人間の子供くらいならひと飲みに出来るほど。


「それでも熊の被害が出るよりゃマシじゃけえのぅ」


「今年に入ってもう30件超えとるけぇ、どうにかししないといかんけぇなぁ」


 因みにハゲてる方の冒険者がカニンガムさん。前衛で斧使い。魔法使い風の冒険者がエルバスさん、魔法使い兼ヒーラー兼弓アタッカーなんだって。


「確かに、森魔狼の群れが居るなら熊の被害は減りますもんね」


 森魔狼でも撃退出来ない熊の魔物だって居る、でも体長2mくらいの熊なら森魔狼にすれば食い物でしかない。


 森を守るなら森魔狼は最適だと思う。


 馬車の旅は2日続いた、その間に6匹の仔狼に名前を付けて、人に慣らす為の訓練をする。


「兄ちゃん慣れとるのぅ。森の出か?」


 休息時間に躾をしていたら、カニンガムさんに聞かれた。


「ええ、リンゲルグ村の出です」


 俺の地元はかなり有名な村。


「おお、勇者様や聖女様の終の棲家かぁ。会った事はあるんかいな?」


 実を言うと会ったこと無い。


「それが、会った事は無いんです。近所に勇者と聖女の墓は有りましたけど」


「兄ちゃん若そうに見えるさけぇ、会った事が無くても仕方なかろぅ」


 勇者や聖女が活躍したのって50年以上前だもんな。

勇者は引退した時に剣を置いて1人の農夫になったって聞いてる。


 それにしても西から魔物が流れて来てるって、両親がどうしてるか少し気になった。



 中年冒険者2人との旅は、お国自慢とでも言えば良いのか、とにかくサウスポートのいい所を沢山教えて貰った。


「サウスポートの冒険者は皆が家族じゃけぇ、兄さんも家族の仲間入りじゃのぅ」


 なんでも領主の子爵様が主導で私兵や冒険者達に教育をしているらしい。


「冒険者なんて学なんか無いけぇ字ィなんて読めんのが普通じゃろぅ? サウスポート出の冒険者は違うけぇのォ」


 共に町を守る、共に戦う家族。軍隊も町の衛兵隊も冒険者も皆同じ、サウスポートを含む子爵領を良くしようと生きる者は皆家族なんだとさ。


「地元の村でもそうでした。村人皆が家族で、村人皆が仲間でした」


 王都みたく、誰かを出し抜いて自分の利益を最大限に確保しよう。そんな奴が少ないのは純粋に嬉しい。


「王都の魚料理はサウスポートの人間に言わせりゃゴミと変わらんけぇなァ。朝取れの美味い魚を食って見てくれやぁ。頬が落ちるけぇのォ」


 若い人達は殆ど使わなくなった南部訛りが酷いけど、この2人との旅は楽しい。


 

 明日の昼にはサウスポートに到着するって言われて着いた場所は小さな村なんだけど、どうやら様子がおかしいんだ。

 村の柵が一部壊れてて、まだ4時くらいなのに誰も居ない……


「くそがァ。熊じゃ熊がおる」


「兄ちゃん戦えるかのぅ? 戦えるなら馬車を守ってくんさいやァ」


 背中に背負った斧を構えて木の壁に頭を突っ込んでる熊に向かって走って行くカニンガムさん。


 カニンガムさんの後ろを走りながら、風魔法の魔法陣を空中に書きつつ発動させようとするエルバスさん……


 熊と言っても魔物の方の熊で、腕が6本、体毛は鉄のように硬く体長は平屋の家屋よりデカい。


 俺と同じ銅級ってなら、あんなサイズのジャイアントグリズリーに向かって行くのは自殺行為で、身長2m近いムキムキのカニンガムさんが小人のように見える。


「補助します、周りの警戒も任せて、大きく仰け反らせますから首に!」


 発動するのはナメッシーとモスキートンの同時発動。


 熊の背中から臀部に掛けて背骨に沿って縦方向に最大威力のカユカユ魔法と、背中全体と6本の腕に向かって粘度を最大級に高くしたヌルヌル魔法。


 家の中に隠れている人間を食おうと、頭を壁に突っ込んでいた熊は、突然に激しく痒くなった背中を気にして立ち上がる。


 カニンガムさんは声すら出さず、足音も極力立てないように上手く走ってる。


 立ち上がった熊に炸裂したエルバスさんの放った風魔法、熊の足関節を狙って上手いこと着弾。

 背中に6本の腕を回そうと手を伸ばした熊だけど、最大粘度のヌルヌルのせいで一瞬背中に手が張り付いた。


 そう、立ち上がった熊が仰け反ったんだ。


「兄ちゃん、助かった!」


 色々な事が同時に起きて混乱した大熊は、仰け反った瞬間、飛び上がって斬りかかったカニンガムさんの、よく切れる斧の一撃を首に喰らって、大量の血を振り撒きながら倒れて行った。


「兄ちゃん祓魔師か、こりゃたまげた。何をしたかわからんが、ほんに助かった」


 村人は皆無事で、村中の人が集まって熊の魔物を解体した。


「背ロースだけで皆で食っても余っちまう。壊された家の分に売る分残して、残りは食うぞ」


 デカい声で村人達に熊の背ロースを振る舞うと言うカニンガムさん。


「良かったのゥ。誰も怪我しとらんとは日頃の行いがええからじゃろぅ」


 怪我人が居ないか一人一人見て回るエルバスさん。


 俺はと言うと……


「兄ちゃん、南部にようこそ。今日は朝まで酒盛りじゃけえ覚悟しときんさいやァ」


「残り少ない命じゃろうが熊なんぞの腹に収まらんで良かったのぅ」


 襲われていた家の老夫婦に囲まれて……


「美味しいですね熊の背ロース」


 焚き火で焼いた熊の背ロースを堪能してた。





南部の年寄りは広島弁風の方言を使います。


読んで貰えて感謝です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ