972回目 2021/11/10
言いたいことを短くすぱっと表現できたら、未完続きの『即興小説』も完結させられるのに……。
一回目
お題『記憶のヒーロー』
必須要素(無茶ぶり)『三人称』
文字数『841文字』 未完
タイトル『厳しいヒーロー』
「覚えてろよ坊主。野暮用が済んだら説教だからな」
少年を守った大きな背中は、まだ窮地の中にいるというのに平然としていた。
死んだ、と思っていた少年は、まだ自分に意識があること、痛みを感じること、助けられたことを遅れて気がついた。
「ぼ、僕!」
「あん?」
「お母さんのために薬草を探してたんだ! だから、後悔も反省もしない!」
「……はははっ! 狼の群れに囲まれながら切る啖呵にしては上等だ! よぉしわかった! 説教の時間を倍にしてやる!!」
快活に笑った背中は、突如として少年の視界から消えた。
次に聞こえたのは、狼の悲鳴。一つ、二つ、三つ……少年よりも大きな体躯の狼は、息つく暇なく悲鳴を上げて倒れていく。
「悪いな。恨むなら俺に出会った不安と、原因を作った無鉄砲坊主を恨め」
最後の一頭の首を切り落としてから、大きな背中は初めて少年へ振り向いた。
「どうだ? これだけの数の狼に恨まれることになった気分は?」
「そ、それはアンタが勝手に言ったことだろ!? 僕は関係ないじゃないか!」
「大ありだ馬鹿野郎。よく聞け」
大きな男だった。膝を擦りむき、腰が抜けて座り込んだ少年が見上げてなお、顔が見えないほどに。
男の頭越しに、高く登った太陽が見える。逆光によって、少年からは男の顔は少しも見えなかった。
手には大きな剣を握っている。いや、少年からしたら大きいだけで、男にとってはさほど巨大ではないのかもしれない。
「いいか。お前が狼の縄張りを踏み荒らしたから、攻撃されたんだ。お前が不用意な真似をしなければ、俺が狼を殺すこともなかった。ここに転がる死体は俺が殺したが、殺す原因を作ったのは間違いなく坊主の責任だ。関係ない、で逃げられる話じゃねぇ。事実だ」
「……僕は、お母さんを、助けたくて」
「なら、大人を頼るべきだった。坊主は弱くてバカなんだって知っておくべきだった。見ろ。そして忘れるな。この光景は、おまえがつくりだし//(時間切れ)
二回目
お題『絶望的な償い』
必須要素(無茶ぶり)『いま話題のあの人』
文字数『843文字』 未完
タイトル『冤罪による社会の後遺症』
『あ! 今、高坂氏が釈放された模様です!』
夕方のニュース番組は、ある一人の元受刑者が釈放されたことが話題になった。
十二年前の連続殺人事件の犯人とされた、高坂茂明。数ヶ月前、再審請求により行われた裁判で、死刑から一転して無罪を勝ち取った人物。
日本で二十人以上を殺したとされる殺人鬼の冤罪事件は、怒りと恐怖による国民の声が湧き上がった。
冤罪だったのであれば、当然真犯人がいる。
しかし、当時捜査線上に挙がっていた容疑者は、高坂氏しかいなかった。
つまり、捜査は一から振り出しに戻った上に、顔も素性もわからない極悪犯が、国内のどこかに潜んでいることになったのだ。
不安の矛先は失態を犯した警察や検察に向けられ、あろうことか被害者だった高坂氏にまで向けられる始末。
『お前が死刑囚のままだったら、日常に恐怖を抱くこともなかったのに!』
理不尽な言い分だが、一定以上の数、似たような声が高坂氏に向けられたのは事実だった。
高坂氏は最初から無関係の人物であり、服役していようがいまいが、殺人鬼が日常に潜んでいた事実は変わらないのだ。
十二年。誰もが知らなかっただけで、隣人が殺人鬼だったかもしれない環境は同じはずなのに。
「……すみません」
「どうして謝るんですか。弁護団の皆さんは、とてもよくしてくださいました」
頭を下げたのは、逆転無罪を勝ち取った顧問弁護士の男性だった。
弁護士事務所の応接室にて、向かいに座る高坂氏は笑みを浮かべていたが、顔色は優れない。
謂れのない罵声を浴びせられる中で、釈放の時よりもやつれているのは明らかだった。
「まさか、あなたにここまでの悪意が向けられるとは想定していませんでした。私たちの勝利に後悔はありませんが、認識の甘さを痛感するばかりです」
「皆、不安なんですよ。俺が殺人鬼で、死刑囚だったから安心できていた部分があるのは事実だ。その安心材料がなくなったんだから、攻撃的にもなりますよ//(時間切れ)
世の中は綺麗事だけじゃない……その事実を、空想で綺麗事を書く私自身わきまえておかないと、と思います。




