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888回目 2021/8/18

 過去の文豪が出した作品とかほとんど読まないので、なかなかネタにしづらいところがあります。


 一回目

 お題『不幸なプレゼント』

 必須要素(無茶ぶり)『谷崎潤一郎』

 文字数『1104文字』 完結


 タイトル『寒がりな少年は小説が嫌い』


 僕は小説が嫌いだ。


「……これは?」


「プレゼントだよ。ほら、お前今日誕生日だろ?」


 相手は近所に住む中学のクラスメイト。渡されたのは……。


「なんで小説なんだよ?」


「え? だってお前んち、めちゃくちゃ本があっただろ? だから好きなのかなぁって」


「……文学作品とか読まねぇし」


「え?! これラノベじゃねぇの?!」


 慌てて表紙を見たり中身をパラパラめくっているが、作者が谷崎潤一郎なんだからラノベじゃないだろ。


 まさか、漫画っぽいイラストが表紙に描かれていたからラノベだと思った、とか?


 最近はそういう本の売り方をしている、って知ってはいたけど、僕自身は手に取らないから興味はなかった。


 が、こうして勘違いで本を買う奴もいるんだから、売り方としては間違ってないんだろうな。


「あちゃー、フィーリングで買っちまったからなぁ。悪い、これで我慢してくれ」


「……僕、小説嫌いなんだけど」


「そう言わずに。新しいプレゼント、用意するだけの金がねぇんだよ」


「はぁ……わかったよ」


 嫌がらせじゃない、嫌がらせじゃない……自分に言い聞かせながら、クラスメイトから本を受け取る。


 文庫本サイズのはずなのに、それ以上の重さがあるように感じた。


「じゃあな! 俺の誕生日にお返しくれよ!」


「何か考えておくよ」


 馬鹿みたいに笑って背を向けたクラスメイトに、小さくない苛立ちが募る。


 残った手元の本を見て、一瞬そのままゴミ箱に捨てようか本気で悩んだ。


 小説は……家族を壊したものだから。


「……ふぅ」


 長めに息を吐き出し、衝動的な行動を止めてから僕も帰ろうとする。


 向こうは善意で持ってきたんだ。中身は読まないけど、気持ちだけは受け取っておこう。


「……小説なんて、嫌いだ」


 僕の両親は、小説が原因で離婚した。


 父親が小説家で、離婚する前に僕たち家族を題材にした私小説を発表した。


 それが、母さんの逆鱗に触れた。ほとんどドキュメンタリーに近い内容で、僕たちのプライベートを無断で商品にされたからだ。


 臨場感やリアリティのある描写がすごいとかで、その本はそこそこ売れたらしいが、結果が出るまでにはもう、別々の道を歩んでいた。


 おかげで、片親になった僕は経済的に厳しい生活を送っている。


「……ふん」


 下を向いていた視線を、空の方へ持ち上げる。


 雨が降りそうなほど、鼠色をした雲でいっぱいだった。


 と、小さな雪が降ってきた。


「本当、小説って嫌いだ」


 視線を戻して、また歩き出す。


 細雪が、鬱陶しかった。




 二回目

 お題『恥ずかしい天国』

 必須要素(無茶ぶり)『英検』

 文字数『898文字』 完結


 タイトル『天国ってどんなところ?』


「酒池肉林のことだろ?」


 何言ってんだ、お前? と言わんばかりの視線を向ける男は、『天国の定義』を恥ずかしげもなくのたまった。


 すごいな、厚顔無恥とはこのことか。


 これじゃあ軽く質問した僕も馬鹿に見えるじゃないか。


 ちなみに、僕の見解では『負のストレスを排除された世界』であって、贅沢し放題な世界とは無縁だと思っている。


「本気でそう思ってる?」


「他に何があるんだ? 飽きるくらい贅沢できるのが一番だろ?」


「飽きた後はどうする? それに、毎日のように馬鹿騒ぎの宴会なんて続けてたら、天国の経済が逼迫するだろ。エンゲル係数を上げるだけが幸せか?」


「……難しいことばっか言って、俺に喧嘩売りたいのか?」


 そこまで難しいことを言った覚えはないが。


「そんなつもりはなかったが、気に障ったのなら謝ろう。ところで、天国の共通言語ってなんだと思う?」


「は? 日本語だろ普通?」


「日本では仏教の極楽浄土が一般的だと思うぞ。そこでは日本語が通じるかもわからん。ベースはインド辺りからできてるからな、言語もサンスクリット語が基本かもしれん」


「???」


「そう考えると、天国と訳される概念はキリスト教が主体と仮定すれば、天国内で交わされる会話は英語が主体なのか? どうする? 酒池肉林を目指すにはTOEICで高得点を取らなきゃならなくなったぞ」


「ば、馬鹿じゃねぇの?! て、天国に言葉の壁なんて、あ、あるわけないだろ!?」


 ならなぜそこまで動揺する?


「状況を仮定しただけだから、たしかに必要ではないかもしれないな。でも、不必要とも限らない。死後に苦痛のない世界はとんな文化圏でも想像されただろうが、共通して同じところを指す保証はないぞ? 間違って英語圏の天国に連れて行かれて、お前はまともにコミュニケーションを取れると思うか?」


「……べ、勉強を教えてくれ」


「仕方ないな。ひとまず、英検から始めてみるか」


「頼む!」


 こうして、僕は遠回りしながらもこいつの親から託された『勉強をさせるミッション』を達成した。


 いやぁ……馬鹿で助かった。


 まあ、連続で完結させられたのはよかったですけど。結構無理があるオチだとは思いましたけどね。


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