877回目 2021/8/7
何でこんなもんを主題にしたのか、ちょっと謎です。
一回目
お題『人妻の世界』
必須要素(無茶ぶり)『京都』
文字数『972文字』 完結
タイトル『社会の底辺のその先で』
「誰か、お水もらえる?! この子吐きそうなんだけど!」
「ごめーん! お化粧品持ってくるの忘れたのー! 誰か貸してー!」
「あ! 誰?! こんなところに下着脱ぎ散らかしたの!!」
大部屋の中でたくさんの女が行き交い、声が飛び回り、むせ返るような香水の匂いが充満する。
男としては思うところがないわけではないが、どうも夢の世界の裏側を見せられた気分で、あまりいい気はしない。
「えっと、この人たちが商品、ですか?」
「ああそうだよ。あれ? 説明受けてない?」
「初耳です」
「ふぅん。でもまぁ来ちゃったもんはしょうがないから、諦めて女衒やってよね」
今日から上司になった小柄な中年のおっさんは、人好きのする笑みでとんでもない仕事を押し付けてきた。
ぜげんって……最初なんのことか分からなかったけど、今なら少しはわかる。
多分これ、性風俗関係の仕事だ。裏にやばい組織とか絡んでるアレだ。
歩合給の営業職って聞いてきただけなのに、なんで社会の裏側的な仕事やらされそうになってんの、俺?
「えっと……具体的にはどのような仕事を?」
「は? それも聞いてないの? なんだ、最近の人事部はマニュアルも読まねぇのか」
面倒くさそうな上司さんは、「ここで待ってろ」とお達しした上で、人事部? の人たちの悪口を散々言いながらこの場を離れていく。
あの人、人事の人だったのか……普通にスーツ着て清潔そうな見た目だったから、あっさり騙されてしまった。
ノリで京都まで来たのに仕事をすぐにクビになって、ホームレス寸前まで行った時に声をかけられたんだから、人材の再利用って感じなのだろうか?
人間、やっぱり見た目じゃないな。しっかりしたように見えても、こんなやばい仕事斡旋するような人もいるんだ。もう少し疑ってかかろう。
「あれー? 君見ない顔だね? 新人さん?」
「あ、はい。仕事内容も知らされずに来ました。すみません……うわ、めっちゃ美人」
「あらありがとう。出会い頭にご挨拶ね」
ぼーっとしてたら大部屋のお姉さんから声をかけられて、振り返ったら超絶美人で普通にビビった。
仕事着なのか、やたら色っぽいというか露出が多いというか、そんな格好で近づかれたもんだからドキドキが収まらない。
「君は//(時間切れ)
二回目
お題『楽観的なババァ』
必須要素(無茶ぶり)『醤油』
文字数『801文字』 完結
タイトル『さよなら』
『きっとなんとかなるさ』
それが、うちの祖母の口癖だった。
実際、なんとかなるようなことなんてなくても、あの人はひたすらそう言い続けた。
台風で家が潰れた時も、親父が仕事をクビになった時も、両親が借金を作って蒸発した時も、破産手続きから家財を手放した時も、家そのものを失った時も。
祖母は呪文のように唱え続けた。
『きっとなんとかなるさ』と。
「あぁ……そこにいるのかい?」
暗くなった部屋の中で、祖母の声が聞こえる。
「ごめんね……ちょっとばあちゃん、足が痛くってね。悪いけど、お醤油買ってきてくれないかい? お小遣いもあげるから」
本当に痛いのだろう。いつも元気な祖母の声は、とても弱々しくて聞いていられなかった。
「……ねぇ。いるんだろ? 返事くらい、しておくれよ」
僕は返事をしない。できない。動けない。
「あぁ……ダメだ。ばあちゃん、まだ昼間なのに、眠くなってきちゃったよ」
僕も同じだ。ものすごく眠たい。
でも、寝たら終わりだって気づいている。
僕と祖母は、親戚の家の離れに居候させてもらっていた。築年数を怖くて聞けないほどのボロ屋だ。
意識を失う前、大きな地震があった。
たぶん、建物の下敷きになったんだ。僕も、祖母も。
祖母の言葉は、本気かうわごとか、僕には分からない。
認知症ではなかったはずだけど、命の限界が近づいた時に、人が正気を保っていられるかなんて、僕には分からない。
「……だいじょうぶ」
でも、一つだけ。
ばあちゃんが日常の妄想に逃げることができていたのなら、良かったと思ってしまった。
「きっと、なんとか、なるさ」
こんな終わりしか見えない現実なんて見たくもないだろうし、見せたくもないんだから。
「…………」
それきり、祖母の声はしなくなった。
僕もすぐに、そっちに行こう。
それに二つ目も二つ目でなんか暗いですし。あんまり好きじゃないのに、気づけばバッドエンドを書いていること、ありますよね。




