87回目 2019/6/10
内から見ても外から見ても、『テンプレ』ってボコボコに叩かれている印象がありますよね。
『なろう』ではとかく非難の対象となりやすいテンプレ要素だが、それは『人間の感性からして外れのない王道』から作り出されたものを基盤にしている。
それは文化で細部の違いはあれど、国も人種も時代も関係ないグローバルな価値観としての『王道』だ。
共通認識、集合知、無意識下の普遍的価値観……言い方は何でもいいが、より多くの人間が等しく好ましいと思うストーリーラインが『王道』であるのなら、本来ならこき下ろされることはないはずだ。
それでも流行と売れ筋を重視するラノベ、ひいては『なろう』で発展した『テンプレ』を攻撃するような声が増えてきたのはすなわち、『飽きたから』という理由が大きいのだろう。
どれだけ面白い物語であっても、それは『面白いと感じやすい』だけであって、『何度触れても絶対的に面白い』ものなどあり得ない。
人間は水と食べ物や睡眠が足りなければ死ぬが、反対に『退屈』で満たされてしまってもまた死んでしまう。
だからこそ、人間は生存欲求が満たされた状態になれば、次に重視するのは娯楽の類なのだろう。
しかし厄介なことに、人間は上述の通り『飽きる=耐性がつく』生き物だ。あらゆる環境で生き延びるために必要な『適応能力』ではあるが、それは『悪環境』だけでなく『良環境』にも慣れてしまう。
生き抜くのに厳しい土地や環境でも『住めば都』や『郷に入っては郷に従え』といえるように、すでに天国だとすら思える最上で快適な環境でもまだ『隣の芝生は青い』のだ。
つまり、『なろうテンプレ』として地盤が固まった『異世界系』に分類する各種テンプレ(転移・転生・追放・スローライフ・悪役令嬢・乙女ゲームなどなど)以外の、新たな『王道』を寄越せ! と言われているのだと考えられる。
読者様側の意見は常に決まっている……飽きないよう真新しさも加えながら、確実に面白いと安心できる物語を作れ、である。
だから、一つの大ヒットした作品が出れば新たな『テンプレ』が生まれ、飽きられるまで使いつぶされた後で新たな大ヒットが出るまで待ち、そうやってブームは人々の感性をすり切りながら移っていく。
確かに、小説でもマンガでも映画でもドラマいいが、エンターテイメントは価値観の多様性を歓迎すべきだ。『誰でも刺さる』作品は作れやしないが、『誰かに刺さる』作品が出れば楽しんでくれるファンはできる。
だが商業と密接に絡み合ってしまえば、『少数に刺さる』だけでは『悪』になり、『多数に刺さる』ものでなければ『善』と見なされなくなった。
こうしてどんどん『個人の価値観』がつぶされ、もてはやされる『集団の価値観』に依存していく『孤独への恐怖』が加速していくのだろう。
と、どうにもならない私見を垂れ流したところで何かが変わるわけでもない。
それでも改善案を考えるならば、すでに『テンプレ過渡期』に入っていると仮定して次なるブームを生み出すべきなのだろう。
すなわち、『新たな王道』の開発である。
個人単位では『流行ジャンルとは別ジャンルで大ヒット作を作れ!』という無茶ブリ以外の何物でもないが、それが望まれている空気は感じられることだろう。
前向きに考えれば、『ブームの火付け人』という絶対的な地位へ一気に駆け上れる可能性がある。自分の発想力や開発力への自負心に加え、荒野への冒険を楽しめるだけの挑戦心があれば、ぜひ試してもらいたいものである。
ただ、作者側としては『テンプレにしやすい物語』である方が望まれるだろう。とあるエッセイで見かけたことではあるが、『自分でも書ける!』と思える物でないと『テンプレ』にも『ブーム』にもなりづらい。
『火付け役』はもちろん『鉱脈』を打ち崩す爆弾として重要だが、次々と生まれてくる『鉱物資源』がなければ『黄金期』の寿命などたかが知れている。
あくまで『マイナージャンル』を盛り上げたいと思うならば、後進に渡しやすいバトンを用意することまでしなければ、注目されるのは『作者』だけである。
より面白く、より万人にウケ、より簡単な『作品群』の開発……そう書けば、まるで新しい科学物質や物理法則を探すような、途方もないことを要求されている気分になるが、読者様側が求めるのはこういうことだ。
そもそも、メジャージャンル以外がなぜ『マイナー』なのかと言えば、まさしく『テンプレ』の有無が原因の一端だろう。
作者側からすれば、『マイナージャンル』はハードルが高く間口も狭すぎるのだ。ほぼ同人作品に性質が近くなった『なろう』だと、特に『求められない=面白くない』というレッテルは常につきまとう。
たとえどの分野であっても、素人は誰だって『面白い・楽しい・うれしい・好き』がきっかけでその道へ進む。
最初に『つまらない・つらい・苦しい・嫌だ』と思えば、深入りする前に大半は逃げ出すだろう。恋愛物にありがちな『第一印象最悪からの好感度上昇』に近い効果など、『趣味』の世界で生じるはずもない。
小説――特に『なろう』で言えば、より読まれて評価されて喜んでくれる『テンプレ』から始めようと思うのは、初心者の心理としては当然だ。まず彼らは『小説を書く楽しさ』を知らねばならないのだから。
そのために『マイナージャンル』で必要なのは、需要にも供給にも認知度を広げられるだけの『誰もが書けると思えるテンプレ』ではないだろうか?
たとえば『SF』だが、SA○に代表される『VRMMO』を含むゲーム系ジャンルをのぞけば、『宇宙系ではスペースオペラ』とか『パニック系ではディストピア世界』、後は『空想科学系ではスチームパンク』……は少し毛色が違うか?
他に『文芸』だと、『純文学系テンプレ』とか『ヒューマンドラマ系テンプレ』、『推理系テンプレ』に『ホラー系テンプレ』、『アクション系テンプレ』や『コメディー系テンプレ』などは明確なものがない印象だ。(まあ、ジャンルとして補佐的な要素が強いというのもあるだろうが)
まあ『歴史系』であれば、大河ドラマなどを参考にすれば歴史小説・時代小説の『テンプレ』的な進め方は存在するだろう……問題は『資料集め』の面倒くささや『資料の信憑性』の見極め、そして時に『史実の独自解釈』も必要になるという、とっつきにくいハードルの高さが残ることか。
残りのジャンルは、残念ながら難しいだろう。
『童話』のテンプレといっても、絵本から古典童話作家まで含めると極端すぎて単一化が難しい。
『詩』などそもそも個別の心象を描写する分野であって(作法的なものはあれど)定型化などできはしない。『エッセイ』も似たようなものだ。
『その他』など言い方を変えたらカテゴリエラーであり、完全にフリースタイルな魔窟である。このジャンルが隆盛を極めるとしたら、言論統制や弾圧が『とある社会主義国』以上に強まった時くらいしか思いつかない。
というわけで、『なろう』から新たな『テンプレ』を作るなら、現状で『マイナー』の位置にあり『未開拓市場』でもある『SF』や『文芸』に時間を割くべきだろう。
『テンプレ認定』に必要な条件は、『読者が読んで面白いこと』と『作者が書きやすいと思えること』。
あとはヒット作を開発して、世間に認めさせるだけだ。
さあ、『なろうテンプレ』に反骨心を抱く有志たちよ!
『なろう』に新たな風を吹かせるのは君たちだ!!
でも、マイナーと呼ばれるジャンルで『初心者が書きやすい定番設定』を作るのって、めちゃくちゃ大変じゃない? という疑問でした。
誰か作ってくれませんかね?
……無理でしょうか?
特に『個性の殴り合い』なイメージのある『純文学』とか、『統一規格』とか作るの無茶ブリだと自分でも思います。




