839回目 2021/6/30
我ながら、タイトルの適当感が否定できない二作です。
一回目
お題『名付けるならばそれはしきたり』
必須要素(無茶ぶり)『ピアノ』
文字数『858文字』 未完
タイトル『旧家の日常』
古い家には守るべきとされる伝統が根付いている場合がある。
慣習、しきたり、験担ぎ、なんて言ったりもするか。それは日常のふとした瞬間にする動作だったり、あるいは記念日の儀式的なものだったり、規模や重要度も一定しない。
そう重く捉えなくとも、一般家庭でも大なり小なり持っている家はあるだろう。人の文字を3回、手のひらに書いて飲み込むなんてのも、大きい意味では験担ぎだ。
ただ、古い家となると一筋縄ではいかない。古ければ古いほど、守らなければならないルールが増えていく傾向にあるからだ。
ピンポーン。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさいませ」
うちの家でいえば、まず『家の者は誰かに出迎えてもらわねばならない』がひとつ。
なので毎回、俺は家に入る前に出迎えに来られる人に知らせ、あるいは家に誰かいるか確かめるために呼び鈴を鳴らしている。
今回はお手伝いさんがいたらしく、玄関で三つ指ついて迎えられた。毎日のようにやられているが、一向に慣れない。
まだ家の子どもであるだけの俺はマシな方だ。家長である父親になると、その時に家にいた全員が玄関まで駆けつけてからでないと、家にすら入れない。
しきたりといえば聞こえはいいが、実際はものすごい手間がかかることを強制されているだけで、気持ち良くはない。
「ごめんな、いつも出迎えなんかさせて。仕事の方に戻っていいから」
「それは……しかし、このお家のしきたりですので」
「って言っても、本来は家族と関係のないハウスキーパーさんに強いるようなことじゃないだろ? 俺だってうんざりしてるのに、働いてる方も面倒くさいって思うはずだ」
「実際、九条家の方々は守ってきたしきたりですから、若様の代で軽視されるのは憚られます」
「……はぁ、わかったよ」
少しの押し問答の末、俺は学生鞄をお手伝いさんに持たせた。無論、これもしきたりだ。
『家の中では、どんな些細なことでも他人の仕事とせよ』、ってことらしい。
うちは旧家で名家//(時間切れ)
二回目
お題『素朴な息子』
必須要素(無茶ぶり)『ラー油』
文字数『1023文字』 未完
タイトル『年頃で無口な息子』
「ラー油とってくれ」
「ん」
餃子のたれにはこれが欠かせない。同じテーブルを囲む息子が差し出してくれた小瓶を受け取り、小皿に垂らす。
そして大皿に乗せられた餃子を一つ箸で取り、口に運んだ。うん、美味しい。
うちで餃子の手作りはしない。基本的に冷凍餃子を使っているが、子供の頃から食べ慣れた味でもありホッとする。
幸いなのが、妻もまた冷凍餃子に異論がないことだろう。最初に餃子が食べたいと言ったら「作るの?」と物凄く嫌そうな顔をされたのを覚えている。
手作りが嫌なわけでも、逆に好きなわけでもないが、食べ物の好みは子どもの頃から積み重ねてきた経験がすべてだ。冷凍餃子でも、美味いものは美味い。
「ごちそうさま」
「寝る前に歯は磨いておけよ」
「うん」
しばらく無言の食卓が続き、息子が最初に席を立った。俺たち夫婦と比べても少食だから、そこはもう気にするべきことではない。
気になるのは、会話がないこと。思春期か? と思ったことがあったが、学校の三者面談でも口数が少なくて心配している、という旨の評価をいただいてしまった。
「……母さん。俺たち、そんなに話しにくかったか?」
「私に言われても困るんだけど……でも、何を考えてるのかわからないものね」
自室に戻って行った息子の背を負うように、リビングの扉を二人して見つめる。
うちの息子は、まあ、一言で言えば素朴だ。
特別悪い評価を聞かない代わりに、いい評価も聞こえてこない。
そういう意味では普通の子、なのかもしれないが、実際は無口で友人付き合いも少ないらしい。
厄介なのが、それを不満に思っているのかどうかさえ、息子から話してくれない。
なので今、息子が生活に関してどのような不平不満を溜めているのか、俺も母さんも本当にわからないのだ。
「こういう時、親のどちらかには何かしら言うものだと思っていた」
「それ、暗に私が悪いって言ってる?」
「考えすぎだ。そのままの意味だよ。俺が子どもだった頃は、嫌なことはすぐ誰彼構わず喚いていたからな。本当に、どうしたものか」
母さんも少し、神経質になっているのかもしれない。子供とコミュニケーションが取れないのは、意外と親にとってストレスが大きい。
男の子が大人しいと、親同士からすれば羨ましいものと思われがちだが、実際はどんな地雷があるか判ったものではなく、不安でしかない。
//(時間切れ)
だいぶ悩んだんだろうな、とは内容を読み直して思いました。ふわっとした題材を投げられると困りますよ、本当。




