828回目 2021/6/19
我ながら洒落の利いた描写ができたものだと感心しました。
一回目
お題『運命の時雨』
必須要素(無茶ぶり)『変なにおい』
文字数『946文字』 未完
タイトル『私が生まれた日』
雨が降っている。
「はぁ、濡れるの嫌いなんだけど」
細く立ち上る煙を払うように、右手を払った。
左手は前髪をかきあげる。垂れてきた雫が鬱陶しい。
「……まぁ、晴れてたら晴れてたで、メンタルとは真逆だからコメントに困るけどさ」
首を傾ける。湿った地面と、倒れている男。
かつて父と呼んだ男の眉間には、汚らしい穴がひとつ。湧水のように赤いものを垂れ流していた。
「さようなら、クソ親父。これで私の純潔と臓器を奪おうとしたバカは許してやるよ」
引き金を二回、引く。
無意味な行動だ。弾の無駄だ。不要な感傷だ。
わかっていて、弾丸二発分を使って私と同じ色をした眼球を潰した。
クソみたいな世界しか映していなかったガラス玉だけど、節穴になってしまえば少しはマシな景色を見れると祈って。
「……うげ、おっさん臭」
頬に飛んでいた血飛沫を拭うと、消した男の加齢臭が染み込んだ気がした。
さっさとシャワーでも浴びたい気分だ。臭いと一緒に、血も落ちてくれるといいけど。
「いいか?」
「うん、終わった」
後ろから聞こえた声に、努めて軽く答える。
足音が近づいてくるけど、あんまり近寄られたくないな。
クソ親父の臭いがついた体を、こいつにだけは気づかれたくない。
「後処理はどうする?」
「私がやっとく」
「そういうわけにもいかない。お前は非力だ。背も体重も心許ない。俺がやる」
「ダメ」
「何故だ?」
「あんたにこいつの臭いがつくの、私が許さない」
雨が降っている。
臭いは消えない。
すぐ後ろに安心する匂いがあるのに、こんな汚いままじゃ、縋ることもできない。
「……帰って休め」
「私がやるって言ってんの!!」
「俺がお前の心配をしてるだけだ」
横を通り過ぎた。
右手は、左手も、震えていた。
「人殺しの初めてが親だとな。たとえ憎いクソ野郎だったとしても、くるんだよ」
「…………」
「今日は大人しくしとけ。先輩の言うことは聞いとくもんだ」
何も言い返せない。
恩人が私の汚点を片付けているのに、なにも手伝えない。
足も動かなくなっていた。
呼吸が苦しい。
臭い、臭い臭い臭い//(時間切れ)
二回目
お題『どす黒い同情』
必須要素(無茶ぶり)『牛肉』
文字数『853文字』 未完
タイトル『余裕の優越』
「寄付ってさ、なんでやる奴がいると思う?」
テレビでニュースを垂れ流していた時、いきなり弟がそんなことを聞いてきた。
ちなみに今は夏休み期間。私も弟も、束の間の勉強休止期間に酔いしれているところである。
まあ、両方未成年だから酔っ払ってたらまずいんだけど。
「寄付? いきなり何?」
今やってるニュースは女優の熱愛報道だし、その前にやってたのはどこそこの橋が崩壊したって外国のニュース。
正直、脈絡がなさすぎてぴんとこない。
「ふと思っただけ。ほら、昔って公共インフラを整備するために、金持ちがお金出して橋を建設してたとかいうじゃん? 経営者というか、資産家みたいな人らがさ」
「あー、えー、渋沢栄一、みたいな?」
「多分そういうの? 詳しく知らないけど」
又聞きの知識で何を語ろうというのかこの弟は?
「ふーん? まああれじゃない? 世の中を良くしたかったんじゃない? そういう立派な人はさ」
「でもそれって、例外中の例外だろ? 他の大半の人間はさ、自分の利益になるように利他的な行動に出るわけじゃん?」
「あんた、妙に小難しい言葉使ってくんね?」
「わかりやすいのは、困っているところを助けて恩を売るとか、自分の評判を高めるパフォーマンスとかだと思うんだけど」
こやつ、姉の呟きをスルーしやがったぞ生意気な。
なんか釈然としないまま、晩御飯の牛肉の炒め物をもぐもぐ食べる。
「でさ、俺が寄付するならどうしてか、少し考えてみたわけで」
「んぐっ。あんた暇なの? 一つでも課題の空欄埋める方が建設的じゃない?」
「そうしたらさ、優越感? 同情? みたいなものがあるんじゃないかなって」
「聞けよ、姉の話を」
マイペースか、こいつ。
そろそろ無視され続けるのも悲しくなってきたんだけど。
「寄付って、やっぱり自分のお金に余裕がないとできないわけじゃん。自分が貧乏で死にかけてる時に、平気で寄付するような奴は、たぶん底なしのバカか考えなしか、//(時間切れ)
『私が生まれた日』の方は、『15分』で書いた割にはすごいいい雰囲気を醸し出していたと思います。たまに当たりがでるとうれしいですね。




