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806回目 2021/5/28

『バッドエンド』って着地点が難しいです。


 一回目

 お題『凛としたふわふわ』

 必須要素(無茶ぶり)『バッドエンド』

 文字数『773文字』 完結


 タイトル『幸運を呼ぶ白い猫』


 幸運呼ぶ白い猫がいる。


 首輪のない野良猫のはずが、いつもふわふわとした毛並みを持ち、誰にも媚びずに前を向く。


 どこか気高い印象のある猫だ。


「あ、猫ちゃん!」


 この町では野良猫は少ない。保健所や保護施設の活動が活発で、すでに多くの犬猫が保護され、里長に出され、あるいは処分されている。


 そんな中でも、その白猫は特別だった。


 幸運招くからと、人がなるべく接触しないように通達がされているほどに。


「わぁー、ふわふわ!」


 子供が近づき、白猫を撫でる。


 白猫は抵抗しない代わりに、子供の方を一切見ない。


 子供に心を許したわけではなく、されるがままにされているだけだ。


 ふと、白猫が髭を動かし耳を立てる。


「あっ! 猫ちゃん!」


 おとなしかった猫が駆け出した。


 まだ撫で足りなかったのか、子供が白猫の尻を追うように立ち上がる。


「待って! 猫ちゃ」


 鈍い音がした。


 肉が地面を跳ねる音が、何度か聞こえて、静かになる。


 白猫が振り返った。


 道路の真ん中で、子供だったものが転がっている。


 首はあらぬ方向へ曲がり、片腕は骨が突き出て、目は光を宿していない。


 白猫は視線を動かす。大きな鉄の箱から、大きな人が飛び出してきた。


 子供に何か叫んでいる。しかし、子供が動くことはもうない。


 白猫は、それだけ見届けて首を前へ戻した。そして、茂みの中へ消えていく。


 幸運を呼ぶ白い猫がいる。


 人が経験するだろう、この世の苦しみから一切を解き放つ、幸運を呼ぶ白猫が。


 触れたものは五十二人。


 生きているものは、三人。


 幸運の白い猫は、今日も悠々と町を歩く。


 望まぬ幸運を撒き散らしながら、凛とした顔つきと、ふわふわの毛並みで。


 誇らしげに、歩き回っている。




 二回目

 お題『大好きな空想』

 必須要素(無茶ぶり)『くさや』

 文字数『1144文字』 未完


 タイトル『遠のく世界』


 昔から、気の遠くなるような感覚がすると、鮮明で鮮烈な夢に飛び込むことができる。


 今まで経験したことのないような景色や、人々や、動植物と出会って、目が覚めるタイミングで一気に現実へと引き戻される。


 そんな日々が毎日続くと、私は退屈な現実よりも夢に飛び込む時間の方が好きになった。


 でも、子どもの頃はただ寝るだけでたどり着けた夢の世界に、だんだんと簡単には行けなくなってきた。


 いつしか普通の夢しか見なくなって、飛び込む夢にはたどり着けなくなるんじゃないかと、ずいぶん心配したこともある。


 でも、私は見つけた。


 道具を使った、飛び込む夢への行き方を。


「……くっさ!?!?」


「あ! ちょっと、ドア開けないでよ!!」


 もう少しで足がかかる、みたいなタイミングで、弟が勝手に私の部屋を開けた。


 室内には持ち込んだ七輪と、炙ったくさやと、ものすごい臭いと煙。


 酸欠になるギリギリの換気だったけど、一気に空気が入れ替えられちゃって、飛び込む感覚がすっと遠ざかってしまう。


「姉ちゃん、また何してんの? 今度は魚? いい加減、腐ったものの臭い嗅いで寝る癖、やめたら?」


「いいじゃん! 私の勝手でしょ?! っていうか早く扉閉めて! またやり直さなきゃ」


 これが、私の見つけたやり方だ。


 とにかく臭いにおいを嗅いで、気が遠くなって倒れ込んだら、あの大好きな夢に潜れるんだ。


 最初は、確かお父さんの靴下の臭いだったと思う。あれはすごかった。一瞬でトリップできたから。


 でも、臭いって結構慣れるもので、最近ではお父さんの靴下じゃ意識を失えなくなってきた。


 だから、いろんな入口を探すのと並行して、複数の臭いに慣れないよう、臭いのローテーションを組んで工夫している。


 くさやはレパートリーの一つで、割と潜りやすい臭いだからついつい頼りたくなってしまう。


「ほどほどにしてよ? あんまり臭いと近所から苦情が来るんだから」


「わかってる! いいから出てって!」


 あと、弟を執拗に追い出そうとするのは、周りに人がいても潜れなくなるからだ。


 枕や布団が変わってもぐっすり眠れるほど図太いのに、飛び込む夢は条件がなかなか厳しい。


 その分、行けたあとの時間はすっごく楽しいんだけど。


「……ぁ」


 またくさやの臭いに包まれて、十分くらいかな。


 慣れ親しんだ、意識を飛ばす前兆の感覚が、私のお腹の下をふわふわ浮かしてきた。


 まだ意識があるうちに、七輪の火を消す。寝ている間に火傷や火事になったら大変だから。


 そして、近くに敷いていた布団に飛び込む。床で寝てしまうと、起きた時に体がとにかく痛くなるから。


「おや、すみ//(時間切れ)


 昔に思いついたプロットだと『バッドエンド』も珍しくなかったのですが、最近はあまりそういうのは作ろうと思わなくなりましたね。


 やっぱり、空想の中くらいでは『ハッピーエンド』に落ち着きたいじゃないですか。そんなメンタルになる年代になったということです。


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